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友盟の絆  作者: Project_B.W
第2章 ユリアサイド 第1節
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01話 

 目の前にいるのは魔物が11匹。

 種別はオーガ。

 外見は人間に近く頭部に角がある。

 そして何よりの特徴は皮膚の色が赤や青などの原色で、身長と体格は成人男性の約二倍ほどもある巨漢である。

 オーガ達は森の中で調達したと思われる木材を武器として手にしていた。


「だれだっけ、直進しようって言ったの?」


 非難めいたことを口に出したのは褐色の髪(ブルネット)の女性ユリア・フィナードだった。

 革の鎧に身を包み、膝まである革製のブーツを履いており、いかにも傭兵か旅人かといった装いだ。


 元々は舗装された街道を順調に進んでいたのだが、道が途中で南方向に曲がった。

 道の先を視線で追うと標高のある山脈へと伸びていた。


 横着して街道から外れて東へ直進した。

 その結果、深い森へ足を踏み入れることになった。


 そこで森の奥で魔物と遭遇する事態となったのである。


 ユリアの視線の先には金髪の青年ケビン・カラミティの苦笑した顔があった。

 ケビンの年齢は30代中盤。

 陽光を照り返しそうな眩い金髪と、炎のような赤い瞳を持っていた。

 全身を覆うようなゆったりとしたローブを身に付けている。


「だってよぉ、このまま山ん中に行ってたら野宿確定みたいなもんじゃねぇか。そりゃいやだろ? 姐さんだって賛同したじゃん」


 杖を右手に構えながらケビンがユリアに同意を求める。


「道がないところ危ないって、あたし言ったじゃない。それでも、って言い張ったのはケビンでしょ」


 答えながら、ユリアは腰に下げた鞘から剣を引き抜く。


「口論は後にしろ」


 緊張感のない2人の会話に割って入ったのは黒髪の青年ゴーザ・バイルだった。

 歳は20代中盤。

 夜のような黒髪は短く切り揃えられ、前髪は中央で左右に分けられていた。

 着ている衣服は道着。

 武道家なのだが、服の上から見える身体の輪郭は細く、外見からは強そうにはとても見えない。


 ゴーザは拳を中段に構えて一歩前に進み出た。


 触発されたユリアは、顔を引き締めて剣を両手に構えた。


「そうね。とりあえず、話はこいつら倒してからにしましょ。分担はケビンとゴーザが5匹、あたしが1匹、でいい?」


 ユリアの判断にケビンとゴーザは頷いて答えた。


「では、行くぞ」


 静かに宣言してゴーザがオーガの群れに突入した。

 拳を振り上げ、手前のオーガを殴り飛ばす。


「やれやれ。仕方ねぇな。精霊生成(ウィン・ロウ)。精霊に導かれてこいよ、雷雲」


 ケビンは呪文を唱えながら、オーガ達の側面へと移動を開始した。


 そしてユリアは正面のオーガと相対した。

 木の棒を持ったオーガに対して走り寄り、剣を下から斜めに振り上げた。

 切っ先は木の棒を砕き、オーガの胸に赤い線を刻む。

 胸から吹き出す鮮血はほんのわずか。


 オーガは傷にたじろぐ様子はなく、ユリアに向かって拳を振り下ろす。

 ユリアはバックステップでオーガの拳を回避しながら、剣を今度は横に薙ぐ。

 オーガの拳に刃が掠り、ほんの小さな傷を生む。


(ダメ。全然効いてないわ。速度はたいしたことなけど頑丈すぎ)


 オーガの動きを読み、的確に打撃を回避した。

 大振りの攻撃の隙を狙い、何度も反撃を試みるが、かすり傷程度しか与えられない。


 1匹のオーガと接戦を繰り広げているユリアを尻目に、ケビンとゴーザは周囲のオーガをすべて倒していた。

 ユリアの視界には2人の見守る姿がある。

 動く様子がないことから、傍観者を決め込むつもりのようだ。


 そもそも、役割分担の指示をしたのはユリア自身。

 1匹倒すと言ったのだ。頼るわけにはいかない。


 オーガの攻撃を避けながら、どうすれば倒せるかを考えた。


(斬撃では致命傷を与えられない。失敗したらアウトだけど、これしかない)


 ユリアはオーガが拳を振り下ろしたタイミングを見計らって、後ろへ走り出す。

 その勢いでジャンプ。

 眼前に迫る木を蹴り上げて、逆サイドに飛んだ。

 その落下地点はオーガの真上。

 ユリアは剣を真下に突き出して、そのまま落下した。


 そして、ユリアの剣はオーガの背中に突き刺さる。

 ユリアはとっさに両手を放して、オーガの腰を蹴り飛ばして地面に着地。慌てて距離をとる。


 痛みに悲鳴を上げてのたうつオーガ。

 10秒ほど暴れた後、地面に倒れて動かなくなった。


「おみごと」

「ま、及第点ってところだけどな。よくやった姐さん」


 2人が称賛の声をかけてくる。

 ユリアは額の汗を手で拭い、仲間のもとへ移動した。

 ケビンは杖を肩に乗せて笑っていた。

 ゴーザはオーガから奪い取ったと思われる木の棒を手持ち無沙汰なのか、クルクルと振り回してた。


「ありがと。でも、剣ダメにしたみたい」


 ユリアの視線の先にはオーガに突き刺さったままの自分の剣。

 オーガが死の間際に暴れたせいか、刀身が曲がっていて引く抜くのは難しそうだった。


 魔物1匹を倒すのに剣1本を消費。

 決して良い結果とは言えない。


「剣は街で調達するればいいだけだろ。まぁ、俺とゴーザで何とでもなる。気にするんな」

「ごめん」

「いいさ。もともと俺が森を進むことを選んだせいだからな……」

「会話の途中で悪いが、追加がきた」


 ゴーザが視線を北へ向ける。

 倣うように視線を向けると、森の奥からオーガの集団が近づいてきていた。

 視認できるだけで倍以上の数のオーガが向かってきていた。


「またオーガ?」

「どうやら、この辺は彼らの縄張りのようだ。あの集団を倒したらすぐに移動したほうがいい」

「あぁ、そうだな。姐さんは後方へ。あいつらは俺とゴーザでやる」

「わ、わかった。任せる」


 ユリアはケビンの判断に従い、2人の後ろへ下がった。


「数が多い。一気に蹴散らす」


 そう言ってゴーザは手にした木の棒を右斜めに構えた。

 仄かな風がゴーザの周辺に巻き起こった。

 どうやら気功術で何かをしようとしているようだ。


「だな。精霊生成(ウィン・ロウ)。凍てつく闇夜に心踊りし鋭利な刃。雷と嵐の狭間に……」


 ゴーザに倣うようにケビンが杖を左斜めに傾けて呪文を唱え始めた。

 杖の先端が発光を始め、大気が揺れる。


 オーガの集団が勢いよく森を突っ走って近づいてきていた。

 ユリアは2人の背中を固唾を呑んで見守る中、2人が同時に動いた。


 ゴーザが手にした木の棒を、ケビンが杖を前方へ向けた。

 棒と杖が接近した。

 時が止まったかのような錯覚を感じた。

 その刹那。


 木の棒と杖が無音で弾け飛んだ

 

 シャボン玉が割れる瞬間のように唐突に。


 2人は反発するように左右へ吹っ飛んだ。

 ゴーザは空中で態勢を立て直して地面に無事に着地したが、ケビンは木に激突して倒れこんだ。


「ケビン!」


 ユリアは慌ててケビンの元へ駆け寄る。

 ケビンは右腕を押さえて脂汗を流していた。

 右腕の一部が抉り取られた状態で血に染まっていた。


「しっかりして!」


 ユリアは荷物から布を取り出して肩から脇の下にきつく巻きながら、ゴーザに声をかける。


「ゴーザは無事?」

「問題ない」

「悪いけど、オーガの相手は任せたわ」

「承知」


 ゴーザはユリアの指示に従い、拳を振り上げてオーガの群れへ1人で飛び込んでいった。

 残ったユリアはケビンを木の根元へ寝かせて、自分の杖を取り出した。

 すると、ケビンが掠れた声で訴えてきた。


「あ、姐さん。杖を俺に。傷は自分の魔法で治す」


 ユリアはケビンの言葉に不安な表情を見せた。

 ケビンの怪我の様子に見覚えがあったからだ。

 かつてユリア自身も経験したことがある。

 魔法の失敗による怪我だ。


「ねぇ、この傷って魔法の圧力っぽいんだけど。ケビン、魔法に失敗したの?」


 ケビンに杖を手渡しながらユリアは問う。


「ちげぇよ。ゴーザの『気』と俺の『魔力』が近づいたせいかもしれねぇ」

「何それ?」

「俺もわかんねぇ」


 険しい表情でケビンはそう答えた。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆




 結果的に、オーガの大群はゴーザがたった1人で殲滅してしまった。

 そしてケビンの怪我はケビン自身の魔法で傷跡を残さず完治してみせた。


「あたしって、やぱり役立たずね」


 思わず自虐的な独り言を呟いてしまうユリアだった。

 2人との実力差に密かに肩を落とした。


 3人はオーガ殲滅後、移動を開始した。

 そのまま東に向かい険しい山を登った。

 太陽が沈み始めた頃に頂上へと至った。

 さらに東に進み山を降り、木々が生い茂る中腹あたりで野宿をすることとなった。


 真夜中。

 空を見上げれば欠けた月と瞬く星々が目に映る。

 それをユリアは懐かしむように眺めた。


(昔は暇があれば空を見てたっけ。こういうのは久しぶりだわ)


 感慨に耽っていると、ゴーザが周辺から薪を集めて戻ってきた。

 ケビンが魔法でそれに火をつけた。

 焚火によって視界の近くに明かりが灯ると、空の景色がぼやけた。


 焚火を囲うように3人は座り、携帯食で軽い食事を摂った。


「それで、さっきオーガに襲われたとき、ケビンが怪我したのはなんだったの?」


 落ち着いたところでユリアが話を切り出した。

 ゴーザが気功術をケビンが魔法を使おうとして失敗した昼間の事故のことだ。


「正直、わかんねぇよ。けど、状況からある程度の推測はできるかな」

「そうなの?」

「あぁ。そこでだ、ゴーザ。試してみたいことがある」


 ケビンはゴーザに視線を向けた。


「わかった。何をすればいい?」

「今から魔力を飛ばす。気功術で『気』を魔力にぶつけてみてくれ」

「承知した」

「んじゃ、やるぞ」


 ケビンは右腕を上げて、人差し指を正面へ向ける。

 指先に魔力の光が集まり拳ほどの大きさまで膨れ上がる。

 そしてケビンは魔力の光を指先から放った。


 木々の間隙を縫って飛翔する魔力の光。


 ゴーザは右腕を魔力の光の方へ向けた。

 親指で中指を固定。

 狙いを定めて中指を弾いた。

 その瞬間、風圧に乗せた見えない『気』の塊が放出され、魔力の光を追跡する。

 そして、光り輝く『魔力』と透明の『気』が激突して、霧散した。


 その様子を確認したケビンは眉を顰める。


「おや? 想定と違ったな。昼間の現象が再現されるはずだったんだけどなぁ」

「昼間の再現って、ケビンが怪我したときに発生しときに棒と杖が吹っ飛んだアレ?」

「そう。『気』と『魔力』を重ね合わせると対消滅現象が発生する、って思ってたんだが」


「それはないのではないか? 僕は何度か魔法使いと組んだことがあるが、昼間のような事態に遭遇したことはない。気功術使いでそのようなことを経験したというのも聞いたことがない」


「言われてみれば確かにそうだよな。単純に『気』と『魔力』の組み合わせで昼間の現象が起きるならもっと一般的に知られているはずか。なら別の条件があるのか。どちらにしても原因究明は必要だぞ。今回は何とかなったが戦闘中にまた同じことが起きたら危険だからな。俺の方で考察はしてみる。ゴーザ、悪いが空いた時間に協力してくれ」


「わかった」

「それと、忘れないうちにこれを」


 ケビンはゴーザに右手を差し出した。

 手のひらに乗っていたのはエメラルド色の宝石がついたピアスだった。それも片耳分だけだった。


「僕にピアスをつける習慣はない」

「御守りだ。身につけなくていいから持ってろ」


 ケビンはゴーザにピアスを無理やり押し付けた。


「姐さんにも」


 そう言ってケビンはユリアにも同じピアスを手渡した。

 同じく片耳分だけだった。


「ありがと。でも御守りって? どういうこと?」


 ユリアの質問にケビンは含みのある笑みを浮かべた。


「御守りはただの御守りだ。気にすんなよ」



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 翌朝。

 山を降り獣道を抜けたユリア達は街道へ合流した。

 道なりに進み、夕刻前に無事に目的地であるパメリアシティへと到着した。


 デルモン地方、準国土領パメリアシティ。

 ミードレイモン王国の首都と港町の中間に位置する町である。

 東西を繋ぐ中央街道上に存在するこの町は目立った産業はないものの、人の往来が多いため、様々な物や人が集まる活気にあふれる町だ。


 ユリア達は町で宿を確保して、自由行動とした。

 ゴーザは稽古、ケビンは散策、と称して町へ繰り出して行った。


 ユリアは出かける気力もなく1人で宿に残った。

 久しぶりのベッドの感触に安心感を覚えて気が付くと深い眠りに付いていた。

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