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友盟の絆  作者: Project_B.W
第1章 冒険者試験編
56/305

55話

 冒険者協会試験閉会式。

 それは開会式と同じ大ホールで行われる。

 朝の早い時間帯からこの大ホールには次々に受験者達が集まっていた。


 ちなみに試験の結果発表は閉会式の後に発表される。

 昔は結果発表が先だったらしいが、不合格者が閉会式に参加しなかったり閉会式で騒ぎを起こしたりするケースがあった為に順番を逆にしたらしい。


 ざわめく声は開会式とは違う別種の緊張感で支配されていてどこか重い。

 結果を知らないまま閉会式が行われるのだから、落ち着かないのは無理もない。

 そんな微妙な雰囲気に呑まれユリアの表情も強張っていた。


 右隣の席に座っているルーディスチームと左隣に座っているケビンとゴーザはユリアを心配そうに見つめている。


 そんな彼らの視線がユリアには辛かった。

 彼らは自分に気を使っているつもりなのだろう。

 でも、それが余計に辛い。

 何故なら彼らに余裕があるようにしか見えないからだ。

 試験に合格しているという自信を見せ付けられているようだった。

 合格すら怪しいユリアと彼らは違う。


 不安を沈黙という態度で耐えながら閉会式が始まるのをユリアはじっと待った。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 閉会式は開会式と似たような感じで始まった。

 冒険者協会のディーク派代表カンティルノ・ディークが司会として壇上の端に登り、口を開く。


「これより協会長の宣言を持って第三十五回冒険者協会採用試験閉会式を開会する。全員、起立」


 カンティルノの声に受験者達が――ルーディス達がその場に立ち上がる。

 それに合わせて協会長が壇上に登り、その中央に立つ。


「まずは受験者達と試験の進行に携わった者達に労いの言葉を送ろう。諸君、ご苦労だった。それではこれより冒険者協会採用試験閉会式を執り行う」


 協会長の開式の辞で閉会式は始まった。

 カンティルノの「着席」という言葉で受験者達を座らせた。

 そこから協会長の長い挨拶が始まり、続けて協会理事長、協会理事と代わる代わる壇上に登り挨拶をした。


 面白くもない挨拶が続いて最後に再度、協会長が壇上に登り閉式の辞を述べて閉会式は終了した。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 大ホールの外に出ると入り口に巨大な掲示板が設置されていてそこに結果が張り出されていた。


 受験者が一斉に掲示板に殺到する。

 そして騒ぎ出す。

 受験者達の視線がルーディス達に集中した。

 その理由はすぐに知れた。

 合格者発表欄の隣に部門別の上位者のランキングが張られていたのだ。


 その結果は以下の通り。


------------------------------------------------------

【共通筆記】

  <第1位>ルイ・アトリス

  <第2位>ミュレン・リリムダル

  <第3位>ルーディス・オルラント


【野戦実技】

  <第1位>クリストフ・ゴーダ

  <第2位>ゴーザ・バイル

  <第3位>クレイ・メイリス


【武道の部・総合】

  <第1位>ゴーザ・バイル / レイリア・アトリス ※同率

  <第3位>ルーディス・オルラント


【魔法の部・総合】

  <第1位>ケビン・カラミティ

  <第2位>マステラ・ミーナ

  <第3位>ムーロン・ヴェンデリン


【医療の部・総合】

  <第1位>ヴィルナ・リル

  <第2位>ミロイド・バンブルビー

  <第3位>ルイ・アトリス


【工学の部・総合】

  <第1位>ルイ・アトリス

  <第2位>ミュレン・リリムダル

  <第3位>ヴィルナ・リル


【団体の部】

  <第1位>オルラントチーム

       ルーディス・オルラント / レイリア・アトリス / ルイ・アトリス


  <第2位>ヴェンデリンチーム

       ムーロン・ヴェンデリン / ミロイド・バンブルビー / ケネス・ウルス


  <第3位>ローランチーム

       ブルクス・ローラン / ダミアン・ロッツェル / ヴィルナ・リル


【個人総合】

  <第1位>ルイ・アトリス

  <第2位>ムーロン・ヴェンデリン

  <第3位>ルーディス・オルラント

------------------------------------------------------


 上位者のほとんどがルーディスチームとその関係者で占められていた。

 ルーディス達に向けられた視線は受験者達の好奇の目だったのである。

 ルーディスは照れくさそうに、レイリアとルイは誇らしげにその視線を受け止めていた。


 そんな中でユリアだけが浮かない顔をしていた。

 上位者に名前がないのは当然のこと。

 でも、ユリア・フィナードの名前は合格者一覧の中にすらなかった。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 気がつけば、ユリアは掲示板の前から逃げ出していた。


「ユリア!」


 呼び止めるルーディスの声を振り切ってユリアは走る。

 大ホールの入り口が見えない場所まで走ったところで後ろから腕を掴まれた。

 その反動でユリアの足は止まる。


 ユリアが振り返るとルーディスが自分の腕を掴んでいた。


「ユリア、待って。落ち着い……」

「うるさいっ!」


 労わるようなルーディスの言葉をユリアは怒鳴って黙らせた。

 それはただの八つ当たりだった。


 怒りの矛先を向けられたルーディスはユリアの勢いに臆しながら、それでも優しく声をかける。


「ユリアが逃げたくなった気持ちは少し理解できるよ。だからちょっと落ち着こう」

「ルーディスに判るはずないわ。そんな気安い慰めなんていらない」

「判るよ。悔しいんだよね。辛いんだろ。でも……」

「やっぱ、判ってないじゃん。馬鹿じゃないの! 余計なおせっかいだっての」


 その一言でルーディスが傷ついた表情を浮かべたが、ユリアはまったく気がつかない。


「そ、そんな言い方しなくてもいいじゃないか!」

「うるさい、うるさい、うるさぁーいっ! ほっとけってば!」


 その瞬間、ユリアはルーディスの頬を引っ叩いた。

 そしてユリアの腕を掴んでいたルーディスの手を強引に振り解く。


 ユリアはルーディスに背を向けて走り出した。

 今度はルーディスは追いかけてこなかった。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 

 ユリアに逃げられたルーディスは、失意のまま仲間達と合流した。

 ルイが状況の説明を求めてきたので、ルーディスはユリアが不合格を知ってからの経緯を説明した。

 すると、


「デリカシーなさすぎ」

「おまえ、もしかしてアホなのか?」


 ルイとケビンの非難の声が返ってきた。

 レイリアとゴーザも呆れた様子でルーディスを眺めている。

 全員の責めるような視線にルーディスはうな垂れてしまう。


「すいません」

「そこで俺達に謝ってどうするよ。やっぱりアホなのか?」


 同じ言葉でケビンが罵る。

 いや、煽っているのかもしれない。

 でも、その通りだと思ったから反論が出来なかった。


「まぁ。ルーくんもアレだね。ユリアちゃんの事となると冷静じゃなくなるわよねぇ~ん。あぁいう場面では追いかけちゃダメでしょ。一人にさせてあげなきゃ」

「そんなことは……。僕はただ、ユリアが泣きそうな顔をしていたから、心配で」

「姐さんは泣いたか?」

「いえ」

「そうだろうさ。泣きそうな顔をしていたように見えたのはテメェの錯覚だっつーの。試験に落ちたぐらいでへこたれるような女じゃねぇよ、姐さんは」

「それは私も同感。なんていうのかな、挫折に慣れているような感じするのよねユリアちゃんって。すぐ落ち込んでちょくちょく悩むけど、切り替えるの早いもん」

「あぁ。それは俺も感じたな。団体戦のとき、姐さんが迷う場面は多かったが、動くべき場面では決断を迷わなかった。姐さんって金持ちか貴族の令嬢みたいだからな、人に命令するのに慣れているのかとも思ったけど、そういうのとは少し違った。アレは最善策を必死に考えてひねり出しているような感じだったぜ」

「そういうあのコを見てると、さ。昔、何かあったのかなぁって勘繰っちゃうわよね。冒険者になろうとしている道楽な金持ちもいないわけじゃないけど、ユリアちゃんはたぶん違う。悲壮感は感じないから没落貴族とかではないんでしょうけど」

「まぁなんにしても心配は杞憂だぜ。この程度の挫折……というのは大げさか。この程度の躓きは放っておいても姐さんは多分、自分で勝手に立ち直る。それよりも問題なのはテメェの方だ、ルーディス」


 ケビンがルーディスの額を指先で弾くように叩いた。

 突然だったので驚いて思わず「うわっ」と口から悲鳴気味な声を上げてしまった。


「行動に問題大ありだ。合格した人間が不合格になった人間励ましたって逆効果だってことぐらい判るだろ。あの時、テメェは姐さんを追いかけるべきじゃなかった。でもまぁ、追いかけたくなる気持ちは判るぜ。男としては落ち込んでいる女を放っておけないもんな。特に惚れた相手は」


 最後の言葉は気を利かせたのか、ルーディスだけに聞こえるように小さな声で呟くに留めた。一瞬、呆けた表情をしていたルーディスだが、言葉の意味に気付いた途端に赤面した。


「え、いや。あの……」

「だから俺はお前の行動をアホだと思っても馬鹿にする気はねぇ。心配で追いかけたんだろ? だったらその気持ちをそのままぶつけろ。それを言葉にしろって言ってるわけじゃねぇぞ。人は言葉を解する生き物の性として言葉で物事を伝えようって考えちまう。でも、それが相手に重荷になることもあるし、言葉を聞き違えてすれ違うこともある。心のゆとりがない場合は特にな。そういうときは言葉だけじゃ足りねぇ。助けになりたいのなら言葉だけじゃなく態度と行動にも誠意を乗せて気持ちを相手に示せ。その行動で相手を怒らせても、相手に責められても気にする必要はねぇ。そうだろ? その行動は自分の『誠意』の結論だ。恥じることも後悔することもねぇ。押し通せ。男だろ」


 ケビンの言葉で目が覚めたように赤面していたルーディスの顔が真剣な表情に変わる。


「僕は余計なことを考えすぎてたんですね」


 ルーディスは団体戦のときに「半端に考えすぎだ」とケビンに指摘されたことを思い出した。

 また同じような事をケビンに指摘されていたのだと気がついた。


「ケビンさん。僕はあなたのことを誤解していたんだと思います。今までの非礼をお詫びします。それから、ありがとうございます」


 ルーディスは真正面から真摯な眼差しでケビンを見据え、頭を下げた。

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