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友盟の絆  作者: Project_B.W
第1章 冒険者試験編
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04話

ちょっとした百合回ですw

 その夜、ユリアはレイリアと同じベッドで眠りに付いていた。

 どうして同じベッドに寝ているかというと、二人部屋には当然ベッドが2つしかなく留守にしているレイリアの姉に断りもなくベッドを占領するわけにはいかなかったからである。

 部外者であるユリアは床で寝る事を考えていたのだが、レイリアにそれは却下された。

 レイリア曰く『それは友達に対する扱いじゃない』だそうである。

 就寝して一時間ほどが過ぎた頃、眠りが浅かったのか、ユリアはふと目を覚ました。

 しばらくぼーっとしていると暗闇に目がなれ、高窓から差し込んでくる月光のおかげもあり部屋の様子がぼんやりとわかる。

 部屋の片隅に乱雑に置かれたレイリアの荷物。

 高窓にはユリアの服が引っ掛けられ、ハンガーにはユリアの下着や着替えがぶら下がったままだ。

 隣に視線を向ければレイリアの寝顔がある。

 暗闇でもレイリアの赤い髪は夕暮れのように綺麗だった。

 ユリアは失礼かと思いつつもレイリアの前髪を撫でる。

 それがくすぐったかったのか、レイリアは目元に皺を寄せて口から小さな吐息を漏らす。

 そんな些細な仕草にユリアは微笑みながら、今日の出会いを思い出していた。

 ユリアが冒険者協会入会試験を受けると決意したのはつい最近。

 だからどうやって試験の申し込みをすればいいかを本当は知らなかった。

 どういう手順を踏めばいいかとか、どんな試験があるのかとかも実はほとんど知らない。

 試験会場であるこの町に到着したのも今日の朝だ。

 食堂でルーディスに出会わなければレイリアと知り合いになることもなかっただろうし、レイリアに試験の話をしなかったら、申込み方法も判らないまま試験に参加することが出来なかったかもしれない。

 ルーディス達と知り合えたのは幸運だったと思う。

 親切にしてくれて、知り合ってまだ1日も経っていないのに『友達』と呼んでくれた。

 でも、知り合ったばかりの他人に頼るのはあまりにも図々しいだろう。

 けれど、今はその図々しさをあえて飲み込んで彼らの好意に甘えようと思う。

 自分が未熟な自覚がある。

 今の自分には力がない。

 世間を何も知らないし、判らない。だから今は覚えることと、慣れることをしていかなくてはいけない。

 その代わり、自分が一人前になって独立できるようになったら今日の借りとこれから受ける借りをまとめて返そうと思う。

 今日、掛けた迷惑とこれから掛けるであろう迷惑のお返しをまとめてしよう。

 この目の前の大雑把で豪快な少女と冷静で優しいけどおっちょこちょいな面もある少年と、これから試験で知り合うだろう人達に。

 レイリアの寝顔を覗き見しながらしんみりとそんなことを考えていると、唐突に扉が開く音が聞こえた。足音が部屋の中に入ってくる。

 不法侵入者か、とユリアが一瞬緊張するが次に聞こえてきたのはほんわかとした女性の声だった。


「レイちゃん、たらいまー。あなたの可愛いお姉ちゃんが今帰ってきましたよー。ってあれぇ。返事なしなの。お姉ちゃん悲しいよ~」


 間延びした、どこか子供っぽい言動。

 その言葉の内容から声の主がレイリアの姉であることが判る。

 不法侵入者ではないことに安堵したユリア。

 起き上がって挨拶をしておこうかと一瞬考えたが、今はこのまま寝たフリをしていようと考え直す。

 レイリアも寝ているしことだし、この状況を1人で説明する自信がない。

 扉を閉める音、荷物を置く音が続けて聞こえ、着替えを始めたのか衣擦れの音がする。

 ユリアはその音を遮るようにシーツの中へ頭ごと入って目を閉じる。

 床を叩く素足の音がペチペチと室内に響き、気配が近づいてくる。

 ユリアは空いているベッドに向かっているのだろう、とぼんやり考えていたがそうではなかった。


「ルイちゃん、いっきま~す」


 刹那、床を蹴る音が響き、レイリアの姉らしき女性がベッドに向かって飛んだ。

 ただし、空いているベッドにではない。ユリアとレイリアが寝ている方のベッドにだ。

 しかもユリアの真上に。

 ドスンという衝撃音と同時にユリアの全身に女性の全体重が圧し掛かる。

 でも痛いとは感じなかった。

 どうやら女性は相手に衝撃を与えないように気をつけてベッドに飛び込んだようだった。

 そのおかげで痛みに対する声を上げずにすんだ。

 だが、女性はベッドに潜り込んできて、ユリアに抱きついてきた。

 きっとレイリアと勘違いしているのだ、と思った。

 しかし、このまま声を上げて人違いをアピールするのも気まずい結果になりそうな気がする。


(ど、どうしよう……)


 対応に困っているユリアだったが、現実は考えをまとめる時間を与えてくれない。

 抱きついてきた女性は赤ん坊をあやすような手つきでユリアの頭を撫で回した後、ゆっくりと背中を這わせるように手を伸ばしてくる。ユリアの下半身に両足を絡めてくる。

 そしてユリアの眼前に女性の顔が急接近してきた。

 ユリアの視界を覆ったのはレイリアより少し色素の薄い赤い髪の女性。

 下着だけという姿で、うつろな半眼でだらしなく口を空けていた。

 ここまで近づけば相手が妹でないことを理解するだろう、と淡い期待をしてみたが目を開けているにも関わらず気付く気配はない。

 どうやら寝ぼけているようだった。


(うひゃっ、こないでぇっ)


 キスされそうな勢いで近づいてくる赤髪の女性の顔を前にして、ユリアは心の中で悲鳴を上げる。

 だが、女性の顔はユリアの視界の右側に逸れていった。

 女性の顎がユリアの右肩に乗っかる。


(び、びっくりしたぁ)


 安堵に思わずもれる溜息。しかし、その安心は勘違いだった。

 女性は頬をユリアの頬に摺り寄せてきたのだ。いきなり頬擦りを食らいユリアは悪寒に震えた。

 ユリアの頬に自分の頬を摺り寄せながら女性は顔をゆっくりと首筋に移動していく。

 そして女性が顔をユリアの胸の谷間に突っ込んできた。

 しかも背中に回していた手がいつの間にか下半身に移動していて尻を弄っていた。


「ふひゃあぁぁっ!」


 ユリアはたまらず悲鳴を上げた。

 これは気まずいから寝たふりをしていようとか、そういう次元ではない。

 レイリアでないことを訴えないと、貞操が危ない。


「ちょ、待って。お待ちなさいってばっ!」


 ついに耐え切れなくなってユリアは女性の頭を乱暴に掴んで、引き剥がす。そのユリアの危機的な声に反応して隣で寝ていたレイリアが目を覚ました。


「う~ん。どうしたの?」


 レイリアは寝ぼけ眼を擦りながらユリアに頭を掴まれた女性を見て、一転して嬉しそうな顔をした。


「あぁ、姉さん、おかえり~」


 レイリアの明るい声にユリアに抱きついている女性が振り返った。

 そこで赤髪の女性はレイリアと視線を合わせて首を傾げる。


「あれ? そっちにレイちゃんがいる。じゃあ、このコだぁれ?」

「んー。めんどくさいから朝、説明する。明日は開会式なんだから姉さんも早く寝たほうがいいよ」

「ちょっと、レイリアっ、この状況を見て平然としてないでよ。もっとなんかあるでしょ」

「大丈夫よ、ユリア。逆らわなければ被害は最小限ですむから……たぶん」

「たぶんって、フォローになってないっ」


 レイリアはどうでもよさそうに答えて寝返りをうつ。

 現状を打破したいユリアはレイリアの淡白な反応に激しく動揺した。

 頼るべき相手に見捨てられて泣きそうだったが、嘆いている場合ではない。

 こうしている間にもレイリアの姉はユリアの全身を撫で回しているのだ。

 このままでいくとお嫁にいけない身体になってしまいそうで怖い。


「あ、あの。冷静になろうよ。えっと、レイリアのお姉さん。抱き付かれてもあたし困るんだけど」


 ユリアは当人に向かって必至に苦情を訴えるが、対象者であるレイリアの姉は不都合な言葉はちゃっかりシャットアウトしていて聞いちゃいなかった。


「その呼び方は関心できまっせ~ん。私はルイ・アトリス。25歳で~す。ルイちゃんって呼んでねぇ。で、お嬢ちゃんはどちらさま?」

「えっと、ユリア・フィナード。19歳で……って、ひゃっ。抱きつかないでよ!」


 こんな状況でも挨拶しない訳にはいかないと思って律儀に答えたのに、その最中に赤髪の女性――ルイ・アトリスに押し倒されて強引に抱擁された挙句に胸を揉まれた。


「ふにゃ~。う~ん、大きいなぁ。ぷにぷに~って、柔らかいこの感じがたまんなぁい」

「話聞いてぇ。って、いやぁぁっ」


 狂乱状態で悲鳴を上げるユリア。その声にまぎれて冷静なレイリアの反応が返ってきた。


「ユリアって私より年上なんだ」


 レイリアのその言葉はユリアにとって意識の片隅にこびりついたゴミだ。


「そんなことどうでもいいから、貴女のお姉さんをなんとかしてぇ~」


 レイリアに必死で救いを求めるユリア。

 しかしレイリアの返答は素っ気無い。


「あー。一見ちゃんと受け答えしてるように見えるけど、寝ぼけてるから無理」

「ちょ、レイリアぁっ!」

「じゃ、こんどこそ、おやすみ~」

「少しは助けようという気は……ひゃん。ちょっと変なところ触らないでぇ」


 ユリアの訴えは我関せずと言わんばかりのレイリアの無視によって却下された。


「誰か、た、助けてぇ」


 ユリアが悲鳴を上げるが、もはや誰も聞いてなどいなかった。

 ルイの魔の手はユリアの身体を蝕んでいく。

 深夜の宿にユリアの小さな悲鳴が飲み込まれていく。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 朝。

 高窓から室内に射し込んできた太陽の光でレイリアは目を覚ました。

 大きな欠伸を1つして、その勢いで瞳から滲み出た涙を拭った。

 上半身を起こして何気なく隣を見るとレイリアの目が点になった。


「なにこの逆転現象?」


 横向きに寝転がっているルイの背後からユリアが抱き付いていたのである。

 深夜の騒ぎを覚えているから余計に不思議な光景だ。

 立場が反対になっている。


「おはよ~。レイちゃん」


 良く見るとルイも目を覚ましていた。

 しかし、ユリアに背後から抱き付かれているせいで起き上がれないようである。


「おはよ、姉さん。どうなってるの?」

「んー。なんか、このコ睡眠中の抱き癖があるみたい。さっきまで枕を抱きしてめたのよ。悪戯のつもりで取り上げてみたら、抱き付かれちゃった。なんか、さっきから私胸揉まれまくってる。揉むことはあっても揉まれる事なんてなかったから新鮮だよー。やばいよー。なんか新しい世界に目覚めちゃいそう」


 アブナイ発言をするルイにレイリアは苦笑いする。


「姉さん的にはそれでいいの?」

「いいの、いいの。いっそのことレイちゃんもおいで~」


 ルイはレイリアに向かって両腕を広げてみせる。

 セクハラを食らっているはずなのにルイのテンションは何故かめちゃくちゃ高かった。


「いや、私は遠慮したいかなぁ」

「だめ~。問答無用っ!」


 ルイは両手を伸ばしてレイリアの後ろ首に引っ掛ける。

 そしてレイリアの身体を引き寄せた。

 言葉とは裏腹にレイリアは抵抗する姿勢を全く見せずに結果的に、ルイに抱きしめられる形となった。


「捕っかまえたぁ」


 楽しそうに微笑む姉の姿にレイリアの顔も自然と笑顔になる。

 まぁ別にいいか、なんて思って姉の抱擁を甘んじて受けていると、扉を叩く音が聞こえてきた。

 その直後に男性の声が続く。


「ルーディスだけど。みんな起きてる?」


 扉の向こうからルーディスの声が聞こえてきた。


「起きてるよ。こっちはえらいことになってるけど、まぁいいや。入っておいで、ルーくん」


 返事をしたのはルイだった。

 その声に反応して扉がゆっくりと開く。


「ルイ姉さん。ちゃんと戻ってきてたんですね、よかっ……おわっ」


 ルーディスは扉を空けた瞬間、変な声を出して硬直していた。

 そりゃ驚くだろう、とレイリアは思う。

 女3人がベッドの上で絡み合っているのだから。しかもユリアは昨日と同じ薄手の服。

 レイリアはタンクトップに短パン。

 ルイに至っては下着姿である。

 露出の激しい3人が艶かしい恰好で抱き合っている扇情的な姿は刺激が強すぎたようで、ルーディスの顔は相当に慌てふためいていた。

 ルイはルーディスの反応に満足した様子で意地悪な笑みを浮かべて話しかけた。


「どうよ、ルーくん。この惨状?」

「な、な、なにをしてるんですかっ」


 ルーディスは声を掛けられて正気を取り戻したかのように慌てて視線をベッドから逸らす。

 しかし、その目線の先には干してあるユリアの下着がぶら下がっていた。

 ルーディスは顔を真っ赤にしてレイリア達に背中を向けた。


「こら、ルーくん。私は感想を求めているんだけど? あれ? 私もしかして言葉間違えた? あぁ、そうか。仲間に入りたいってこと? いいよ、ルーくんもおいでー」

「遠慮します。ってか、そうじゃなくてですね。そろそろ出かける準備をしないと朝食どころか開会式に間に合いませんよ」

「ルーくん。話をするときは相手の顔をちゃんと見てから話しなさい」

「この状況で真面目なこと言われても困ります。ぼ、僕は外で待ってますから早く着替えてきて下さい。それじゃ」


 ルーディスは勢い良く扉を閉めて早々に退場していった。

 その様子にルイはけらけらと笑う。


「あらあら、ルーくんには刺激が強かったかしらん?」

「ユリアが寝ててよかったかもね。起きてたら昨日以上にルーディスは悲惨なことになってたかも」

「んー、何のこと?」

「うん。今から教えてあげる。昨日のルーディスはちょ~笑えたんだから。きっと原因は……」


 レイリアは楽しそうにそう言いながらユリアの顔を覗き込む。

 すやすやと寝息をたてるユリアは愛らしい寝顔をしていた。

2017/07/01:ルー君→ルーくん 数か所

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