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友盟の絆  作者: Project_B.W
第1章 冒険者試験編
39/305

38話

「ルイ。そろそろ行かなきゃいけないんじゃない?」


 第4レースが始まったのを見てミュレンは話を中断した。


「そうね。私の順番はどんなメンバーがいるのか楽しみね」


 ルイが今回の中・長距離砲を搭載したボート群を眺めながらフフフと笑った。


「ルイさんもわからないって、いったいどんな改造したんですか?」

「改造自体はたいしたことしてないわ。どちらかというとミュレンと同じで技巧を見せるタイプね。さって、おったのしみにぃ~」


 そう言い残しルイは去っていった。


 第4レースを退屈そうに眺めながら2人は自分たちの専攻の研究の成果を語っていた。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 第4レースが終わり、第5レースに参加する舟がスタートラインに並び始める。

 そのシルエットにミュレンとヴィルナは驚愕した。


 攻城投岩兵器カタパルトを積み、どう考えても1度発射しただけで沈没しそうな舟や、改造の意味を取り違えたのか過度な装飾を施したゲテモノ舟などなどがずらりと並んできたのである。


 そんな中、ルイの舟はボートに小型の弩型兵器バリスタを積んだだけのわりとシンプルな物で、周囲の舟と比べれば地味に見える改造だった。


 ミュレンとヴィルナは特殊な舟の群れに呆れながら眺めて回った後、最後にルイの舟へ視線を向けた。


「見たところ推進システムが見あたりませんね。舟底に隠しているんでしょうか?」

「ありえそうだけど、ならスタート地点までそれで移動するはずでしょ。ほら、他の舟に牽引してもらってるし」


 ミュレンの言う通り、ルイは長い櫂を持った男の舟の縁をつかみ牽引してもらっていた。


 ルイがスタート位置に着いたことで全員がそろい、本日の最終レースでもあることから拍車がかかり観衆から「がんばれよー」などの歓声が上がっていた。

 試験官が赤い旗を振り上げた事で、観客にも緊張が走り固唾をのんで旗が振り降ろされるのを待つ。

 そんな中、投石器を搭載した1艘の舟からギシギシと音が鳴っていた。

 スタートと同時に射出するのだろう。


 そして、スタートの赤い旗が振り降ろされた。


 旗が降りたのと同時に、先程からギシギシと音を鳴らしていた舟に搭載されていた投石機(カタパルト)がうなりをあげて小さい石を大量に射出した。

 場内に広く降り注ぐ石はいくつかの鐘を鳴らすことに成功したが、舟は射出の勢いに負け、もんどり打って倒れた。

 他の舟は衝撃で大波が来ることを予想し誰も前進していない。

 最初の波が過ぎた後、各々のタイミングで前進していった。


「あーあ、あれはもう復活できないわね。バランスが悪すぎよ」

「一か八かの賭けだったんでしょうね。あれでも一つも鐘を鳴らせない人たちよりも得点は上でしょうから、それなりの結果だと思いますよ。それにしても、どこにいったのでしょうか?」


 2人は個性的な舟のなかに紛れてしまったルイの舟を探し視線をきょろきょろさせていた。


 そんな中、1人の見物人が鐘がある方向とは逆の方向に進む舟を見つけて叫んだ。


「おい! あれは……何やってるんだ?」


 見物人の声に2人がその舟を見てみるとルイの舟だった。


 どうやら、バリスタで射出した銛を岩に引っかけ、自動巻き上げ機で舟を引っ張っているようだ。


「なるほど、牽引で移動するんですね。でも、あんなところまで進んでどうするんでしょう?」


 ルイが舟を停止させてバリスタに先が丸めた布で先を覆った棒をセットし、発射した。


 『ヒュゴッ!!』という風を切る音がし棒が飛んでいく。

 2人は固唾を飲んでその行く先を見守った。

 しばらく間が開いた後『カラーーン!!』という鐘の鳴る音が辺りいっぱいに響き渡った。

 それはこの試験で一番大きな音だった。


「え? ええ!! あの距離を狙い撃ったの?」

「そりゃ、あの位置からバリスタでやる事っていえばひとつだわね。にしても……ふふふ、ルイの考えそうなことだわ」


 目を剥いて驚くヴィルナに冷静に分析するミュレン。反応は対称的だった。


「よくまぁ簡単に言えますね。あんな小型のバリスタ、完全に射程範囲外ですよね。ゆうに800メルトは超えますよ」

「ちょっと、ヴィルナ。一流の技術者を目指している人間でしょ。有効射程って言葉が絶対的な意味をもたないのはわかるでしょ」

「それは分かりますけど、でも……到達距離もギリギリじゃないですか」

「ルイならやるわ。やれるからこそ、あの位置なのよ」

「そういえば、ルイさんってネイザン工房の方でしたね。あの多くの兵器を生み出している。扱いになれていらっしゃるのも当然ですか」


 それを聞いたミュレンは悲しそうな顔をして、ヴィルナに語り出した。


「本国内にも多いけど、あなたもネイザン師を武器商人と勘違いしない? ネイザン工房で研究されている物で兵器転用された物はほんのわずか。最初から兵器として発明された物でも自衛の為に生みだした物なのよ。そういう言い方はやめた方が良いわ」


 ネイザン工房から生みだされ実際に兵器に転用された物は数多くある。

 しかし、それは全体の発明の1割に満たず、自由な発想を基に確固たる技術を追求する事がネイザン工房の誇りなのだ。


「すいません。よく知ってもいないのに」

「いいのよ。私も野戦実技で語り合う前は似たようなものだったし。ああいう()だから勘違いされやすいのよ。折角知り合ったのだから、あなたも友達になってくれるとうれしいわ。なんにせよ、ネイザン師から動作テスト任されることもあるくらい、道具の扱いは上手いのよ」



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 そんな会話があった事など知らず、ルイは次の鐘に照準を合わせていた。


「ちょっと、この風は予想外だったな。少し右寄りかな?」


 波に揺られながら小指のつま先大に見える鐘を見据え射出した。

 再度大きな射出音がし鐘の音が大きくなった。


「よし。あったり~。次はあの岩の向こうね」


 ルイは岩島に隠れている鐘を頭の中で精密にイメージし狙いを定め射出した。

 鐘の音と共に歓声が上がるのが聞こえてくる。

 気分が乗ってきたルイは鼻歌混じりに次の標的に狙いを定め次々と射出していった。


 そして、ついに一つも外すこと無く最後の鐘を鳴らし終えた。

 会場がその腕前に騒然としているなか、ルイは「さて、ここから力仕事ね」と呟きオールをとりだした。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 結局、見かねた他の受験者に再度牽引してもらったルイは、海岸で知り合いを見つけ声をかけた。


「ミレーユじゃない。あなた、また親父さん手伝ってるの?」


 ルイの声に反応したのはレース前のヴィルナと会話をしていた女の子だった。


 ミレーユと呼ばれた女の子はあきらめに似た様子でルイの側まで近寄ってきた。


「わかってるなら声かけるんじゃないわよ」

「おこっちゃやーよ」

「……あなたが受験してることを知ったときにあきらめてたとはいえ、台無しじゃない」


 ピンクの髪にフリルが多く着いた服を着た、可愛らしい見た目と違い乱暴な言葉を話す。


「だから、全部終わってから声かけたじゃない」


 ルイは軽く受け流し微笑んだ。


「ったく、それで何か用? これからお父様に報告いかなきゃいけないんだけど」

「時間はとらせないわよ。ただの売り込みだから」

「そんな事だろうと思ったわ。その小型のバリスタでしょ。性能はさっきのでだいたいわかったわ。とりあえず5門を私の権限で、お父様の認可が下りれば追加で発注するわ」

「毎度あり。でもそんなに海の魔物って活発化してるの? 私も兄弟子のクルトさんからの手紙だけだからよくわからないのだけど」

「季節柄ね。ただ……毎年みたく特に数が増えた訳じゃなくて、凶暴性が増した感じといった感じなのよね」


 やれやれといった感じでミレーユはため息をついた。


「それじゃクルトさんは忙しいよね」

「クルトさんなら、また新しい船のデザインしてたみたいよ。建造前からミーアの海軍が買い取る契約を取り付けたみたいだけど」

「ミーア海軍? 貿易船じゃなくて?」


 意外な買取先にルイが驚いて声を上げた。


「まあ、お父様の方で外大陸の貿易船には護衛艦をつけてもらえるように交渉してたから、その関係でしょうね。実践データがとれれば国でも量産できるし、船舶管理機構旅団としても安心して貿易できるから。あ、もうそろそろ良いかしら? 早くお父様に報告しなきゃいけないから」

「うん、ありがとうね。クルトさんによろしく」


 子供のように(実際見た目は子供にしか見えないが)走り去っていくミレーユを見送り、ルイもミュレンとヴィルナの所へ戻ることにした。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 ルイが戻るとそこにはミュレンの姿はなく、ヴィルナだけがそこにはいた。


「あれ、ミュレンは?」


 ワザとらしくキョロキョロと周りを見渡すルイの滑稽な仕草に、ヴィルナは思わず吹き出してしまった。

 さすがに失礼な反応だと思ったようで「ごめんなさい」と謝ってからルイの質問に答えた。


「実は、ケビン・カラミティがあらわれまして……」

「ケビンって、魔法の部で会場を騒がせたあの?」


 思い切りイヤそうな顔で語るヴィルナに首をかしげたルイだったが、すぐにその理由が分かった。


「はい。実はケビン・カラミティにナンパされたという受験者が何人もいるという噂がありまして。私も昨日ケビン・カラミティと話をしてます」

「それで、ミュレンに目を付けて連れて行ったと?」


 ヴィルナは顔を横に振る。


「いえ、どうやらルイさんを待ち伏せしているようだったので、ミュレンさんが詰め寄ったという感じで」

「ふぅ~ん、私をねぇ。私も彼と話をしてみたかったから別に追っ払わなくても良かったのに」

「え? ああいうのがタイプなんですか?」


 ルイの反応が意外だったのか、ヴィルナが驚いていた。


「違うわよ。だったらミュレンが追い払ってくれるわけ無いじゃない」


 ヴィルナの少し引いたようなリアクションに苦笑いしつつルイは否定で返した。


 ルイがここまで信用するのは、野戦実技の時に恋話(こいばな)で盛り上がっていたからなのだが、ヴィルナは知る由も無いため、「そう……なんですね」と少し戸惑った反応になっていた。


「ただいま~。やっぱりルイ帰ってたわね。ナイススナイピング」


 そこへミュレンが帰ってきて今回のレースの感想を一言で伝えた。


「ありがと。それよりケビンが現れたんだって?」

「ええ、何を企んでるのか解らないけど。やっぱ彼は胡散臭いわね……気をつけなよ」


 どうやらミュレンもケビンがなにかを企んでいることには気づいているらしい。


「うちの弟が拾ってきた女の子にも声をかけてるみたいだし。ホント、何を考えてるんだか」

「団体戦の人集めもかねてるんじゃないですか? 昨日の医療の部で私の他に何人かの男性とも話していましたから」

「それにしては手が込んでるけど……どう考える?」


 ヴィルナの言葉にミュレンは否定しながらルイに振る。

 ルイはしばらく考え、真剣な顔で返答した。


「そうねぇ、やっぱり会って話した方が早そうだわ。何にせよ、私をターゲットにしているのなら、また向こうから近づいてくるでしょ。それより、面白い事思いついちゃったんだけど、2人も参加しない?」


 ルイはこの後、試験中にひらめいた技術考証を、工房を借りて3人で検証するのだが、夜通しの作業になったため、レイリアに怒られる事になるのだった。

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