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友盟の絆  作者: Project_B.W
第1章 冒険者試験編
30/305

29話

 黒煙が会場を覆ってから数分後。

 煙は自然に霧散して視界が回復した。

 そこに立っているのはわずか2人。

 ケビンとユリアだけだった。

 観客席から歓声が沸き起こる。

 ユリアは困惑したまま呆然と立ち上がった。

 状況が全く掴めなかった。

 爆発が起こって煙が激しく上がって、それが消えたら結界の中にいた受験者18人も一緒に消えてしまった。


「どうなってんの?」

「周りを見てみろよ」


 ケビンに言われるままユリアは視線を巡らせると結界の外側に受験者達が倒れていた。


「まさか……」

「そ、簡単な結論だろ。俺が全員、ぶっとばした」


 冗談のような軽いノリでケビンが言うが、その内容は非常識そのものだった。


「自信がないなんて言ってたのに、強いんじゃないですか」

「なに言ってんだよ。ユリアちゃんだってまだ倒れてねぇじゃねぇか」

「あたしはまだ誰にも攻撃されてないからです。どうしてあたしには攻撃しなかったんですか?」

「んー。そうだなぁ。女の子だから」

「他にも女の子いましたよ」

「んー。気に入ったから。俺さ、デザートは最後にとっとくタイプなんだよね」

「なんか、ものすごく馬鹿にされてる気分ですけど。悪ふざけはやめて下さい!」


 ユリアは戦う意志をみせて杖を両手に持った。ユリアの反応に満足そうにケビンは笑った。


「俺はわりと本気で言ったんだけどな。ま、そういう話は試合終わってからにしようか」


 ケビンは徐に杖を地面に放り投げた。

 試合放棄にもとれるその行動にユリアが困惑しているとケビンが手招きをして挑発してきた。


「いいぜ。来なよ、ユリアちゃん。相手してやっからさ」


 杖を手放したにも関わらず、ケビンは余裕の笑みを浮かべていた。


精霊(ウィン)生成(ロウ)。四大の祖を王となす精霊の言霊……」


 ユリアは困惑を打ち消すように杖を構えて大声で呪文を唱え始めた。

 対するケビンは視線をユリアに釘付けにして両手を空を抱きかかえるかのように大きく広げた。


「ユリアちゃん。悪いけど、全力で倒させてもらうぜ」


 ケビンはそう勝利宣言をした。

 しかし、それでも杖を手に取らない。

 空に向けた手で円を描くように動かした。

 すると上空に魔力の光で作られた輪が出現する。

 続いて輪の中に魔力の光で文字を描く。

 ユリアはその時点で空中に魔法陣を描いているのだと気付いた。


魔力(マフ)錬成(エフ)。無限より来やがれ。世界創世に反する悪徒なる野郎ども。支配者から落とされたテメェらの闇をよこせ」


 ケビンが杖も持たずに呪文を唱え始めた。

 魔法にあるまじき乱暴で高圧的な呪文。

 放出した魔力(魔法陣)を空中に固定する離れ技。

 ケビンの行動全てが常識から逸脱していた。

 未知の相手に驚愕と戦慄を覚え、ユリアの背筋に冷たい汗が流れる。

 ケビンの力強い声に圧されて呪文を唱えるユリアの声が縮こまる。

 それでも気合で呪文を唱えて、ケビンより先に魔法を完成させた。


「駆け抜けよ。空へ抗う緑の大気。(フウ)


 ユリアは力強く唱えて杖をケビンに向けた。

 杖の先端から生まれた疾風が魔力の淡い光を伴いケビンへと直進する。

 疾風がケビンを捉えるより前に、ケビンの魔法も完成した。


「摂理から輪廻の無法地獄に囚われちまいな。崩壊(ボウ)弾丸(ガント)!」


 上空に浮かぶ魔法陣から拳程の大きさの無数の光球が噴水のような勢いで上空に吹き出した。

 光球は上空で四方に飛び散り、結界内に広がっていく。

 ユリアの風の魔法は上空から落ちてくる光球の群れの直撃を受けてあっさりと霧散する。

 魔法陣からは次々と光球が空に生み上げられて、雨のように落ちてくる。

 だが地面に落ちることは決してなかった。

 その光球は例外なく落下の途中で停止してしまうのだ。

 光の球は増え続け、ユリアを取り囲んでいく。

 上空に浮かぶ圧倒的な数の光球にユリアは呪文を唱えることも出来ずに慄いた。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 結界の中を埋め尽く光球。

 その数は千を余裕で超えていた。

 光球がどんな効果のあるものかは判らない。

 しかし、風の魔法をかき消したのだ。

 攻撃力のある魔法である可能性は高い。

 そんな理屈は魔法を使えないレイリアにも簡単に想像は出来た。

 先ほどまで試合の不満を漏らしていたレイリアだったが、今は一転して拳を握り締めて興奮していた。


「ゴーザさん。あの金髪、危険な感じがする」

「あぁ。そうだな。これだけ派手な技を見せて尚、何かを隠しているように窺える。僕やキミは恐らく正面からは戦えない」

「ゴーザさんなら気功術で何とか出来たりするんじゃない?」

「たぶん、無理だ。空に浮いているあれが何であれ、あの数では全てを防ぎきれん。それに防ぎきったとしても次がくる。次の手が来る前に接近できなければ勝機は薄いだろう。まぁ、手合わせしてみないと判らん」

「なるほど。確かにね。私もあの人と戦ってみたいな」



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



「解せないわ。実力差は歴然なのに何でわざわざ大げさな魔法を使うのかしら? というか、なんでユリアちゃんだけ煙の中で倒さなかったのかしらね?」


 試合会場を見下ろしながらルイが同意を求めて隣を振り向く。

 しかし、同意を求めた相手は顔を真っ青にして激しくうろたえていた。

 どうやらルイの言葉をまったく聞いていなかったようだ。


「ルー君、落ち着いたら?」

「僕は落ち着いてます」


 ルーディスは余裕のない顔で余裕だと訴えた。

 虚勢を張っているのは一目瞭然だ。


「心配しなくてもユリアちゃんは死なないし大怪我もしないわよ。それぐらいの加減はできる男よ、あれは」

「実力がかけ離れているにも関わらず、大人気なく大技を使っている男がですか?」

「大人気ないと言えばそうだわね。でも何か理由があるとは思わない? 企んでいるって言うのかな? なんかそういう目をしてる。杖も使わず魔法を使うなんて前代未聞なことしでかしてくれた訳だしね。何かを狙ってるとしか思えないわ。なかなか面白い男ね」

「あの男が何を考えているかなんて僕には理解できないし、したくもない」


 その時、観客席からどよめきが上がった。

 会場に目を向けると光の球の放出が止んでいた。

 ケビンが天に向かって右手を伸ばし人差し指を立てた。


『いくぜ、ユリアちゃん。受け止めてみせろ!』


 ケビンはそう警告すると、人差し指を立てた右手を静かに降ろす。

 その指が示す先にはユリアの姿がある。

 その動作の意味を理解したルーディスは思わず立ち上がって叫んでいた。


「やめろー!」


 ルーディスの怒号が混じった悲鳴は観客の声に掻き消された。

 空に浮かんでいた光の球が動き出したのはまさにその瞬間だった。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 結界の中で千を越える光の球が空を揺蕩っていた。

 対戦相手のユリアは驚きに言葉を失い、動くことさえ出来ずに呆然と立ち尽くす。

 ケビンの口元には微笑が浮かんでいたが、視線は鋭くユリアを捉えて離さない。


(さて。ユリア・フィナード。これでアンタは絶体絶命だ。暗黒竜の動きを封じたアンタの力、使ってみせてくれよな)


 ケビンは右手を上げて、天に向けて人差し指を立てた。


「いくぜ、ユリアちゃん。受け止めてみせろ!」


 振り下ろされたケビンの右腕。それを合図に光球の群れが流星の如くユリアに向かって落ちた。

 無数の光球がユリアを直撃して、その身体を後方に吹き飛ばす。

 しかし地面に倒れることは許さなかった。

 巧みに光球を操り、ユリアの後方から光球をぶつけて身体を前方上空に吹き飛ばしたのだ。

 ケビンは指先と魔法陣で数百個の光球の軌道を操っていた。

 四方八方から光球を落とす。

 ユリアが後ろに倒れる前に後方から光球をぶつけ、右に身体が傾いたのが見えたら左側から光球をぶつけた。

 毎秒、数十の光球がユリアを襲う。

 直撃を受けるたび、その身体は空中を何度も跳ね上がる。

 ユリアは何も出来ずに光球に蹂躙され続けた。

 いつの間にか観客席の歓声が批難と怒号に変わっていた。

 ケビンが放った光球は魔力を吹き飛ばす弾丸だ。

 物理的な攻撃力はない。

 ただ、人間に直撃させた場合、魔力を吹き飛ばした際に肉体が一瞬だけ小さな拒絶反応を起こす。

 光球1個では身体に感じないほどの衝撃だが、数を当てればユリアの身体を吹き飛ばすぐらいの威力は生まれる。

 ケビンの視線はいつの間にか、ユリアの瞳に釘付けになっていた。

 これだけの幾百の光球を受けながらユリアの瞳はしっかりと見開いていた。

 その目には諦めの色が浮かんでいるのに、しかし苦痛や恐れというものをまったく見せなかった。


「キミは思った以上の人物かもな、ユリアちゃん」


 そう呟いて口元を綻ばせたケビンは、徐に左手を空に向けた。


「楽にしてやる。これで終わりだ」


 左手を振り下ろした直後、空中に残っていた幾つもの光球が一斉にユリアを襲った。

 刹那、ユリアを中心に光の爆発が起きて閃光が会場内を走った。

 光が消えると、そこには仰向けに倒れたユリアの姿があった。

 しかし、その目はしっかりと開かれていた。

 最後の1撃は気絶してもおかしくないほど攻撃だった。

 にも拘らずユリアは意識を保っていたのだ。


「し、試合終了。勝者ケビン・カラミティ」


 審判の終了宣言。

 ケビンは驚きを隠せないままユリアの側に駆け寄った。

 しゃがみ込んでユリアの顔を覗く。


「大丈夫か、ユリアちゃん」

「大丈夫に見えますか?」


 ユリアが非難するような声音にケビンは肩を竦めた。


「悪かったよ。でも肉体的な痛みはないはずだから動けるだろ。ほら」


 ケビンはユリアに手を差し伸べた。ユリアは渋々とケビンの手をとって立ち上がる。

 しかし、立ち眩みを起こしたようで、ふらついて蹈鞴(たたら)を踏んだ。

 頭を抑えながらユリアは言う。


「確かに身体は何ともないですけど、頭がくらくらしてます。ひどいですよ、まったく。少しは手加減してくれても良かったんじゃないですか」

「いやぁ、悪い悪い。なんて言うかほら、可愛いコってイジメて気を惹きたくなるじゃん」


 茶目っ気を含んだ口調でケビンが冗談めかして言う。

 ユリアは引きつった笑みを浮かべて呟いた。


「そんなこと言われても全然判りませんから……」



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



「無事か。よかった」


 ユリアが立ち上がるのを確認したルーディスは大きな溜息と共に肩を落とした。


「だから言ったでしょ。慌てることなんてなかったのよ。まぁ、別の意味で向こうは慌ててるみたいだけどね」


 ルイは顎をしゃくって試験官席を示した。

 深刻そうな表情で試験官達が顔を付け合せて話し合っていた。


「騒ぎになってるみたいだね。当然といえば当然だけど」

「そうね。ケビン・カラミティは洒落にならないことしでかしてくれたわ。杖なしで魔法を使えた人間は前例がない。でも彼は容易いことのようにやってしまった。歴史に名を残せるほどの大業と言ってもいいわ。協会は各国の技術を取り込んで高水準の魔法技術を持っているけど、ケビン・カラミティはそれを目に見える形で誰にでも判るやり方であっさりと追い抜いてしまった。協会の面目丸つぶれよね。さて、協会はどう動くかしら」


 ルイは楽しそうに呟くと、ルーディスが質問をしてきた。


「良く判らないんだけど、優秀な人材が現れたことは喜ぶべきことなんじゃないんですか?」

「まぁ、普通はね。でも彼の実力はちょっと異常だから悩ましいところね。確かに彼をうまく使えば各国の魔法組織を出し抜いて協会の魔法派閥ユンカーン派の地位が確固たるものになるかもしれない。けれどね、新人である彼の方が幹部達より優秀となればお偉いさんの立場がなくなるわけよ。だから難しい選択になる」

「メンツを守るか、利益を求めるかによって選択肢が変わるわけですね」

「そういうこと。でも、わたしはメンツをとることをお勧めするわね」

「どうしてです?」

「協会の連中があの男を手なずけられるとは思わないからよ」

「なるほど」

「納得したんならよし。それじゃ、ほら。行ってらっしゃい」

「え? 行くって……」


 ルイは目を細めて笑う。


「ユリアちゃんのとこよ。また1回戦で敗退したのよ。きっと昨日以上に落ち込んでる。慰めてきなさい」

「あ……でも」

「どうせ、ユリアちゃんのことが気になって試合なんて頭に入らないでしょ。ほら、行った行った」


 そう言ってルイはルーディスの背中を叩いた。

 ルーディスはルイ急かされる形で席を立ち、観客席を離れていった。


「さてと……」


 ルイは1人になると真剣な面持ちになって試合会場に視線を戻した。

 顎に手を当ててケビンという男の行動の意味を真剣に考え始めていた。


「あの男、不自然すぎ。そもそもなんで冒険者協会の試験なんか受けてるの? これほどの技量の持ち主なんだから地元かどこかの組織で噂になって然るべきはず。それなのに無名だなんて異常。それに行動も不可解。何故彼はユリアちゃんだけ残したのかしら。黒煙の中で全員倒してしまってもかまわなかったはずなのに。ゴーダチームみたいに目立ちたかっただけ? でもそれならユリアちゃんに使った魔法は効果範囲は広域なんだからを最初から使って全員をいっぺんに仕留めればよかっただけよね。どういうことなの?」


 ユリアに優しく手を差し伸べるケビンのその憎たらしいほどの笑顔を眺めながら、ルイは頭に彼に関する情報を図形として描き続けた。

 ケビンとユリアが会場を立ち去るその瞬間まで。

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