23話
予選が全て終わり、勝者4名が出揃った。
Aブロック勝者、レイリア・アトリス
Bブロック勝者、ドゥネル・マーキス
Cブロック勝者、ルーディス・オルラント
Dブロック勝者、ゴーザ・バイル
専攻実技試験、武道の部の決勝トーナメントが遂に始まる。
使う舞台は中央のBブロックで使用した場所である。
ちなみにボックス席から一番よく見える舞台でもある。
決勝トーナメント。準決勝第1試合。
レイリア対ドゥネル。
両者が試験官の呼びかけにより舞台に上がった。
レイリアの武器はエストック、対するドゥネルはファルシオンと短剣の二刀流だった。
観戦スペースでルーディスとユリアは試合が始まるのを待っていた。
「たぶん、一瞬で決まるよ」
ルーディスがユリアに宣言する。
「なんでわかるの?」
「二刀流には攻めの為と守りの為の2通りの目的があるんだけど、彼は攻めに特化しているみたいだからね。二刀流の特性を知り尽くしたレイリアには通じないよ」
「へぇ、レイリアって二刀流の方に知り合いでもいるの?」
「知り合いって言うか、本人が2つの剣を操るのを得意としているんだけど」
そういって、苦笑いするルーディスに、ユリアは素直に驚いた。
「え?だって、一度もそんな素振り見せなかったじゃない。いつも持っている剣も1本だけだし」
「2本持ち歩くのは重いからね。必要なときは僕の剣を貸してるんだよ。レイが二刀流になったきっかけがあるんだけど、それは時間があるときに本人交えてゆっくり話すよ」
「うん。そうね、今はレイリアの応援しましょ」
二刀流の経緯にも興味はあったが、今は試合の方が大事だった。
ユリアは気持ちを切り替えて舞台に目を向けた。
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ドゥネルは、感激で体の震えが止まらなかった。
オルトレイクシティの武術大会ジュニアの部現覇者の自分が、ハザンシティ武術大会で最年少王座を取ったレイリア・アトリスと対峙しているのだ。
しかし、彼女は二刀使いだと聞いていたのに、エストック1本を持っているのみだった。
二刀流でないのは残念だ。
二刀流は体力を使うから、スタミナ温存する為に1本に絞ったのだろうか。
だが、勝負について言えば有利とも言える。
(機会があれば大会中に二刀流の彼女と模擬戦を申し込むとしよう)
期待に胸が膨らむが、今は試合に集中しなければいけない。
ドゥネルは興奮を抑えて二刀の剣を広げた。
対するレイリアは剣を鞘から出さず、柄に手をかけるだけで静かに佇んでいた。
そして試験官の開始宣言がなされた。
ドゥネルは足を進め右手の長刀を横に薙ぎ払い先制攻撃。
レイリアは体制を低くしそれをかわす。続けて二の太刀に左手の短刀を振り下ろす。
短刀はレイリアの背中へ向かっていく。
タイミングもバッチリで、この一撃は確実に入るだろう。
しかし相手を甘く見てはいけない。
その後にカウンターが来るかもしれないのだ。
しかし、その時ドゥネルが見たのはレイリアの冷たい笑顔だった。
そして、次に感じたのは首筋に当てられたエストックの冷たい感触だった。
「それまで、勝者レイリア・アトリス」
ドゥネルは何が起こったのかわからなかった。
「確かに、俺は背中に一撃を与えたはずだ……」
思わず戸惑いを声に出していた。
(彼女はどうやってあれを躱した?いつ俺の背後に回った?そして、いつ彼女は剣を抜いた?)
疑問ばかりがドゥネルの胸中に浮かぶ。
「私が剣を構えていたら、当たってたかもね。あなたが見たのは私の幻……な~んてね」
レイリアはいつもの笑顔にもどり、湧き立つ観衆にガッツポーズをとってみせた。
それを見たドゥネルは、先ほどまで気負っていた感情をため息と共に吐き出した。そして、
「まだ、あなたの背中には追い付けないですか。残念ですが、今度は負けませんよ」
ドゥネルは悔しくも晴々とした顔でレイリアに握手を求めた。
レイリアは一瞬とまどったが、「そう簡単には追いつけないわよ。ジュニアチャンピオン」と握り返した。
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準決勝第2試合。
ルーディスとゴーザの対決となった。
この頃になると、ゴーザの強さにファンになった女性から黄色い声が上がるようになっていた。
試験官の合図でルーディスとゴーザは舞台に上がった。
ルーディスは剣を正眼に構え、ゴーザは拳を正面に向けて前傾姿勢をとった。
ルーディスはゴーザの構えから、先手をとりにくるであろうことを察した。
対戦形式の場合、先手の優位が試合の流れに繋がる。
つまり勝敗に直結するのだ。
ゴーザは今までの試合全て先手。
しかも攻め方や間合いが毎回違っていた為、行動が読み辛い。
だが、逆に言えば予測さえできれば流れを引き寄せることができる。
ゴーザの行動予測を見ていたルーディスを遮るように試験官が試合開始を宣言した。
「開始!」
予想通り、先に動いたのはゴーザだった。
「くっ……」
しかし、先にうめき声をあげたのもゴーザだった。
ルーディスがゴーザの真横(大抵の場合死角になる)からの攻撃をかいくぐり、剣の柄頭をゴーザの鳩尾に叩き込んだのだ。
それでもゴーザが咄嗟に身を引いた為、急所からは外れダメージは浅かった。
すぐさま追撃をかけ、剣の間合いに追い詰めていく。
一瞬の間に攻防が入れ替わり、これまで会場をわかせていたゴーザを追い詰める少年に誰もが目を疑った。
そして、一瞬のスキをつき反撃をしかけたゴーザを、またも躱し、今度は背中に柄頭を叩き込んだ。
しかし、ゴーザは攻撃を受け流し、大きく距離を取った。
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ゴーザは、これまでの手合わせで、ある確信があった。
「君は……先読みが出来るのか?」
別に答えを期待したわけではなかったが、ゴーザはそう声をかけた。
これまでも、そういう事ができる相手と戦ったことはある。
答えがなくとも、態度で察する事はできる。
「先読みとは、若干違うような気もしますけど。相手がどのように攻撃を仕掛けてくるのかはわかります」
真面目に答える、ルーディスという少年にわずかに頬が緩む。
「それを先読みと言う。柄頭でのカウンターは狙ってやっているのか?」
「いえ、ただの僕の技量不足です。あの間合いからはアレしか知りません」
またも、正直に答えるルーディスに「なるほど」と短く答える。
それからは、お互い慎重な攻防に移行する。
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「相手にプレッシャーがかかったわね」
レイリアの呟きにユリアが首を傾げた。
「どういう事?」
「ゴーザはルーディスに油断しなかった。全力で初手を打ったんだと思う。けど、ルーディスはそれを予測して全力のカウンターを返した。ルーディスはゴーザの質問にバカ正直に、その能力がある事を答えた。ルーディスのそれでも負けないって気迫が相手へのプレッシャーになってる」
「ルーディスの能力って?」
レイリアが発言した能力という言葉に引っ掛かりを感じたユリアがさらに質問を投げかける。
「ルーディスは先読みができるんだよ」
「相手の動きを予測するなんて誰でもやることだと思うけど」
レイリアの簡単な説明にユリアは首を傾げる。
「そういうんじゃなくて、なんていうのかな。相手の動きとか流れとか、そういうのが感覚的に解るっていうか、まあ、そんな感じの能力」
レイリアもルーディスの能力を完全に把握していないのか、曖昧な返答をしてきた。
「一瞬先の未来がみえる、みたいなこと」
「ちょっと違うけど近いかな。まぁ、うん。たぶん、そんな感じ。そういう能力持ってる人の大半は経験則からくる直感みたいなとこあるけどね」
「なるほど、だから今2人とも慎重な動きになってるのね」
そこで、ようやくレイリアの解説に納得し、頷くユリア。
「でも、そうなればなるほど、ルーディスが不利に、そして私が有利になっちゃうんだよね」
「え?どういう事?」
レイリアの言った言葉の意味が理解できずユリアは思わず聞き返した。
「彼は、おそらく先読みが上手い相手と何度か戦って、そして勝ってきている。推測だけどね。でも、それだけに時間をかけてじっくりルーディスの首を締め付けるスベを知っている。でも、そうなると決勝戦で温存しとかなきゃいけない体力まで削っちゃう。私は完全な彼とどうしても戦いたいのに!」
話しているレイリアの表情がどんどん戦闘モードの冷たい表情になっていき、ユリアは正直ゾクッと背中が凍る思いがした。
「ルーディスが勝てる見込みはないのかしら?」
「ん~、初手が完全に決まってれば勝てたかもねぇ~。浅かったからなぁ。こうなると相手のミス待ちになるだろうね」
ここまでの実力者にそれはないだろうけど。
とレイリアは心の中で付け加えた。
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一方ゴーザも、内心迷っていた。
剣の腕だけなら対処可能な相手だ。
しかし、先読みの才能はこれまで戦ってきた相手と段違いだった。
決勝戦では、激しい戦いが予想できるだけに、ここで体力を使いすぎるのは避けたい。
場合によっては今後の試験に影響を及ぼす可能性すらあるだろう。
とはいえ、下手な小細工では返り討ちにあうのが目に見えている。
(ならば……)
ゴーザは隙を見せず、拳を引き深く呼吸する。
その瞬間、ルーディスは姿勢を変えて防御の構えを取った。
(読まれた? ならば、手を変える)
ゴーザは左足を前に一歩進めた。
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一瞬だけのことだったが、ルーディスはゴーザから発せられた覇気に肝を冷やした。
とっさに守りに入っていなければ、やられていただろう。
その覇気はすぐに無くなったが、油断はできない。
また、踏み込む機会を伺い剣を構え直す。
動いたのは同時だった。
ゴーザの動きに合わせてルーディスは横薙ぎの攻撃を放つ。
ゴーザはルーディスの一閃を手甲で受け流し素手の間合いに入る。
予測線に沿って剣の柄頭をゴーザにに向かって打ち付ける。
次の瞬間ルーディスは宙を舞った。
投げ飛ばされたのだ。
間髪いれずにゴーザがルーディスを追走。
ルーディスは投げ出された空中で体勢を整え、綺麗に着地。
そのまま間合いを詰められないようにタイミングを計って剣を振った。
正確にゴーザの軌道をとらえた一撃。
だが、ゴーザは慌てる事なく大きくジャンプした。
瞬間、視線から外れてしまったゴーザにルーディスは肩を掴まれた。
勢いよく身体が回転して、地面に向かって落ちていく。
そして後頭部が地面に激突する寸前。
試験官に支えられていた。
「それまで、勝者ゴーザ・バイル」
湧き立つ歓声の中、試験官がゴーザの耳元で注意してきた。
「少々やりすぎだ」
しかし、ゴーザは静かに答える。
「ルールは遵守しているはずだが?」
沈黙の後、試験官は「まあ、良いだろう。次は気を付ける様に」と言ってきた。
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レイリアがずっと冷たい笑顔のままなので、ユリアは困っていた。
「ルーディスには悪いけど、見事ね。素手だからこそ突けたルーディスの弱点。視覚外からの投げ技は参考になるわね」
レイリアのつぶやきの半分も理解ができないが、確かに先ほどの試合は強烈だった。
舞台を降りたルーディスが合流してきたので、ユリアは労いの言葉で出迎えた。
「お疲れ様。なんか、とっても凄かったよ。正直動きの半分も理解できなかったというか。とにかく凄かった」
「あはは。ありがとう。でも、次の決勝戦はもっとすごい戦いが見れるよ」
レイリアへ視線を向けたルーディスが「僕も見た事がない、全身全霊のレイの本気をゴーザさんなら引き出せる。きっと、今までとは次元が違う戦いになる」と確信めいた言葉を吐いた。




