22話
初回で敗退してしまったユリアとは対照的に、順当に勝ち残っていくルーディスとレイリア。
ユリアは劣等感を覚えながら、彼らの試合を観戦していた。
3回戦が終了する頃には、注目の対戦に観戦する受験者がおのずと集まるようになっていた。
特にレイリア、クリストフ、ゴーザの試合は多くの受験者が付き、その実力が知れ渡ることになった。
とりわけゴーザはこれまでの試合を開幕直後の先制攻撃のみで勝利しているので、見逃すまいとする受験者はかなりの数になっている。
ルーディス、レイリア、ユリアの3人は観戦スペースで次の試合の開始を待っていた。
それはDブロック第6回戦(予選決勝)。注目の一戦、クリストフとゴーザの対戦だった。
クリストフは舞台に上がり、大剣を掲げて大声をはりあげた。
「この試合が事実上の決勝だ!俺の勝利をその目にしっかり焼き付けろ!」
「あら、私らの事は眼中にないんだ」
湧き上がる歓声の中、レイリアは冷静につぶやく。
「僕は出会った時からナメられてたからなぁ。レイの場合は女に負ける気がしないって事じゃないかな?」
「なにそれ、ムカつくなぁ。差別よ、差別。だいたい、あんな脳筋に私が負けるわけないじゃん!」
ルーディスの言葉に憤慨したレイリアがクリストフを睨みつけた。
「でも、男性の方が肉体的に有利なのは事実じゃない?」
当然のユリアの疑問に、「そうね」と、ユリアに向き直り言葉を続けた。
「確かに筋肉のつき具合に差があったり、ユリアみたいに胸に余計な脂肪がつきやすかったりするけど」
顔を赤くし「あたしの事はどうでもいいの」と言うユリアを無視してレイリアは続けた。
「結局は鍛え方次第よ。女だって強くなれるわ」
「そうかもしれないけど。というか、そろそろ試合始まるよ」
話が余計な方向に流れる予感がしてユリアは話を逸らした。
しかし、舞台上ではクリストフのパフォーマンスが続いていた。
「俺の剣は何でも叩き切ってきた。俺に切れない物なんてない!目ん玉くり抜いてよく見とけ、今からアイツを倒して俺が一番だという事を証明してやるぜ!」
「おーーーーーーーーーーー!」
湧き上がる歓声の中、ユリアは首を傾げた。
「目ん玉を……くり抜いて?」
「ひ、ひん剥いてって言いたかたんじゃないかな」
まわりの目を気にして笑いを堪えて応えるルーディスだったが、レイリアが隣で爆笑しているので、あまり意味は無かったのかもしれない。
「見えなくても脳内に焼き付けられるって自信の表れか、ただのバカなのか……」
レイリアが面白そうに笑った。すると、
「あの人をみると、後者の方みたいだけどね」
ルーディスが指した先では、オービルが頭を抱えていた。
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試験官の試合開始の合図と共に、クリストフの直前の空間が揺れた。
ゴーザの先制攻撃を警戒したクリストフが、目の前の空間を大剣で薙いだのだ。
「へへ、先制攻撃防いだぜ!次は俺の番だな」
クリストフの挑発に、ゴーザは黙ったままだ。
「くそっ、すかしやがって。気にいらねーぜ!!」
これまでの大振りの戦い方と違い、クリストフは細かく整えられた連撃をくりだす。
「リーチと筋力と持久力ではクリストフの有利かな。それに、あんな戦い方もできるなんて意外ね」
レイリアがそう評価するが、ルーディスが冷静に「戦いって、それだけじゃないけどね」と返す。
もちろん、レイリアもその事はわかっているので、ただ頷くだけだ。
ゴーザは全ての連撃を躱し、無言のまま拳を握り締めた。
「次はあんたの番だ。かかってきな」
挑発するように、大剣を揺らすクリストフを冷ややかに見つめ、ゴーザは走った。
迎え撃とうと、剣を振リおろすクリストフだったが、素早く足元に潜り込まれ足払いを受ける。
踏ん張って耐えたが、体勢を崩したクリストフ。
畳み掛けるようにゴーザが襲いかかる。
危険を感じたクリストフは咄嗟に間合いをとった。
「野性的な勝負勘って奴かしら?確かに推薦枠を受けられる実力は一応あるみたいね」
感心するレイリア。ルーディスもそれに頷く。
その2人より試合に釘付けになっていたのはユリアだった。
「すごい……こんな激しい試合を見るのははじめてだわ」
舞台上では、息つく暇もないほどの攻防が続いていた。
合間にみられるクリストフの口上も、試合を盛り上げていた。
「うん。確かに、激しいわね。でも、次に当たるルーディスはどう見る?」
「ゴーザさんの初手でもう勝負はついてるよ。後はもう消化していくだけでしょ。そろそろ終わるんじゃない?」
決着がつきそうだというルーディスの発言にユリアは驚いた。
ユリアには拮抗した試合が繰り広げられているように見えたのだ。
「どういう事?全然そう見えないんだけど」
「見てればわかるよ」
ニッコリと微笑むルーディスの顔を無警戒に見てしまったユリアは、言い知れぬ緊張でまたも頬を赤らめてしまった。
その表情を誤魔化すようにユリアは黙って試合に視線を向けた。
お互い一撃も攻撃を食らうこと無く試合が進み、体格的に有利なクリストフが優勢とみられる展開になっていた。
クリストフが剣を大きく構えて、ゴーザがそこへ突っ込んだ。
無策にただつっこんだように見えた為、クリストフはゴーザが諦めたと踏んだのか、大剣を真横に薙いだ。
ゴーザはその攻撃を真正面で受けて、吹っ飛んだ。
その瞬間、後頭部に鈍い衝撃を受け、クリストフはそのまま倒れた。
「な、なんだと……」
「……」
ゴーザは何も言わず、ただ冷たい眼でクリストフを見下ろしていた。
「どういう事なの?ルーディス」
ユリアは一時も舞台から目を離してはいない。
なのに何が起きたのか判らなかった。
大剣で真横に吹っ飛ばされたゴーザが、次の瞬間にはクリストフの後頭部に膝蹴りを決めていた。
しかし、ルーディスは簡単に答えた。
「剣を鈍らせた上で、ゴーザさんが仕掛けただけだよ。まさか……」
「まさか、その剣を利用して後ろを取るとは思ってなかったわ」
ルーディスの言葉を、途中からレイリアが引き継いだ。
「よく見えなかったかもしれないけど、クリストフの剣を肘と膝で挟んで、そのまま背後まで連れていってもらったんだ」
「言うのは簡単だけど、結構難しいんだよ。てっきり剣を砕いておしまいにすると思ってたんだけどな」
どちらにしても超人技だと内心思った。
けれど、それ以上にユリアは気になったことがあった。
「さっき初手で勝負がついてたって言ってたけど、結局はどういう事なの?」
「クリストフのバカ力を利用してあのバカでかい剣を潰していったのよ。その為に初手をワザと逃げたってところかしら」
「え?よくわからないのだけど」
「心理戦でクリストフが勝手に負けたって感じ?」
「まだ勝敗はついてないわ。さて、どう決着をつけるのかしら?」
クリストフは足を震わせながら、剣を杖がわりに立ちあがった。
そして懲りずに大言壮語を言い放った。
「まさか、アレを食らってたてついてくるとは思わなかったぜ。さすがの俺もちょっと効いたけどよ。てめぇもダメージいってるんだよなぁ」
ゴーザは冷たい視線をただクリストフに向けるだけだった。
「ちっ、ダンマリかよ。そんなんじゃ、イザって時に”まいった”って言えねーぞ」
「君は、誰と戦っている」
はじめてゴーザが言葉を放った。瞬間、大剣を蹴り上げられ、支えを失ったクリストフは尻餅をつくように倒れた。
「舞台の外に敵はいない」
そう言って殺気を放ち威圧するゴーザ。
それにひるんだクリストフを見て、試験官は試合を止めた。
「それまで、勝者 ゴーザ・バイル」
試験官の宣言で、正式に勝負は決した。
「まて、まだ終わっちゃいねー。俺はまだ戦える」
さらに言い募るクリストフを試験官は、睨みつけて恫喝した。
「いい加減にしないか、クリストフ・ゴーダ!私は、勝負はついたと言ったんだ。まだ動けるのならそのまま舞台の外へ出ろ。そうでないなら、私が外へ放り出す」
「…………そうか、そうだな。わかった」
言われ慣れていない、恫喝に一瞬呆然としたのち、素直に試験官に従った。
しかし、黙っていなかったのはクリストフではなくオービルの方だった。
「貴様、誰に物を言っているのかわかっているのか!こいつはクリストフ・ゴーダ。ゴーダ家の人間なんだぞ」
試験官は、外野の声を気にせず、ヨタヨタと舞台の外へ向かうクリストフを見ているだけだ。
「この事は、後で……」
「うるせぇオービル!これは俺の問題だ、家族を引き合いにだすんじゃねー」
クリストフの叱責にオービルは驚いたように肩を震わせ、そして悔しそうに唇を噛んだ。
「すまない」
「そう思うのなら、ちょっと肩かしてくれよ。ちょっとばっかし足がふらついているんだ」
「ああ……」
オービルはクリストフに肩を貸し、そのまま会場の外へ出て行った。
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「意外と、芯はシッカリしてるみたいね。まっ、ただの甘ちゃんなら冒険者にならないだろうけど」
観客席からゴーザ・クリストフ戦を見下ろしていたルイは隣に女性-野戦実技の時に合流した知り合い-に話しかけた。
「ゴーダ卿がオルガ卿と違った協会のアプローチでも考えてるんじゃないかな?その尖兵として甥を送り込んだとか?」
「なるほどね。そういう事か。にしてもどっからそういう情報持ってくんのよ」
「そりゃ師匠や先輩たちの受け売りでしょ。うちの門派は強くはないけど広いから。情報はあなたの所より入ってくるわよ」
ルイの言葉を打ち消すように彼女は言葉を返す。
「確かに、業種柄広いわよね。ま、なんにせよゴーダチームの存在はこの試験のカンフル剤としては最適なのは確かよね」
その言葉を肯定するかのように、彼女はただ笑うだけだった。




