20話
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8日目から専攻実技が始まる。
共通条項として以下の点に注意しなければならない。
・試験前日までに、参加の有無を申請する事。申請無き場合、不参加とす。
参加申請した試験を無断で棄権した場合、総合評価より減点とす。
・試験で用いた貸与品は破損しても減点対象としない。また、紛失した場合失格とす。
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◆試験8日目 実技試験武道の部
協会から通知された内容は近接戦闘をメインにした試合形式のトーナメント戦である。
4ブロックに分かれて予選が行われ、勝ち抜いた4名による決勝トーナメントが行われる。
試合時間は5分。
試験官の呼びかけより1分以内に所定の位置にいない場合不戦敗とする。
予選準決勝以降、1回戦毎にインターバルが設けられる。勝敗は試験官がジャッジする。
朝早く他の全員が起きてくる前にレイリアは目を覚まし、ケネスを叩き起こして、ウォームアップに連れ出した。
ルーディス達が起きて来る時間に宿に戻ってはいたが、気分が昂りスクワットをするなど体を動かしていた。
ケネスは息も絶え絶えに待ち合わせ場所である食堂の机に突っ伏していた。
「ケネスさん。大丈夫ですか?というか、レイリア。ずっとあんな感じだけど、だ、大丈夫なの?」
ユリアは朝からレイリアの闘志満ちた様子に圧倒されていた。
ケネスを心配しながら、近くにいたルーディスに聞いた。
「ケネスは医療だけ受けるって、他は申請してないから大丈夫だよ。まあ、レイは昔からこういう対戦形式の戦いの前はこんな感じだから気にしなくていいよ。それよりもユリアはリラックスした方がいいと思うな」
レイリアとは対照的なルーディスの落ち着いた態度にユリアは少しだけほっとしつつも、表情を陰らせた。
「そう、よね」
ユリアは不安そうに頷いてルーディスに応えた。
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試合会場である冒険者武道会館は開会式を行った講堂が2つ収まる大きさで、入り口の前に剣と槍を構える2体の巨大な戦士像が飾られている。
剣を持った像の足元に設営された受付で番号札を渡され、受付の誘導にしたがい隣(槍の像の足元)の武器貸与のテントの中に入る。
「使い慣れた自分の武器じゃだめなのね」
ずらりと並んだ武器を見てユリアはつぶやいた。
ちなみに刃を潰されたり緩衝材が巻かれる等して安全性を重視した各種武器が置かれていた。
「武器の持ち込みは鈍器限定でオッケーらしいよ」
隣にいたルーディスが、ファルシオンの感触を確かめながら答える。
「でもそれって、自分で緩衝材を巻かなきゃいけないんでしょ。それじゃ使い慣れた武器でも重さとか変わるじゃん。そのちょっとの変化で全力を出し切れなかったりするよね。う~ん。これも違うなぁ」
レイリアがエストックを握り締め、首をかしげる。
「ユリアはもう決まったんだ」
ロングソードを持ったユリアにルーディスが声をかける。
「ええ。選ぶというよりも、あたしはこういうのしか使った事がないのよね」
「そんな適当で良いの?自分にあってないと大変だよ」
レイリアが驚いたようにユリアに忠告する。
「うん。道場でも決まった物を使うことって少なくって、自分が武器に合わせる方が楽なのよね」
「ふ~ん。決まった武器を使ってないのは意外ね。私は重さとバランスが合ってないと全力出せないからなぁ……これもダメ、軽すぎ」
レイリアは、そういうとレイピアをあった場所に戻した。
結局、ルーディスはブロードソード、レイリアは先ほど違うと首をかしげていたエストックを選んだ。
「レイリア、その剣は違うって言ってなかった?」
「片手だとちょっと重いけど、しょうがないよ。両手持ちも考慮してこれにするわ。本当は姉さんの剣が一番使いやすいんだけどね」
レイリアはいまだ納得がいっていない顔のままユリアに応えた。
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ルーディス、ユリア、レイリアの3人は、入り口で案内された控え室には入らず冒険者武道会館の闘技場へ向かった。
広い場内をぐるりと囲むように階段状になった観客席があり貴賓用のボックス席も用意されている。
中央には5メートル四方の舞台が4つ用意されており、いかにも武道派な人たちが今や遅しと、試合開始を待っていた。
「ルーディス、ユリア。あれが対戦表じゃない?」
会場に大きな掲示板があり、トーナメント表が張り出されていた。
ルーディス達は自分の番号と照らし合わせ、出場ブロックを確認していく。
「よっし!私初戦だよ。Aブロック!」
「僕はCブロックでもうちょっと後だ……ユリアは?」
「あたしは……あ、あったわ。あたしはDの最後の方ね」
そう応えるユリアの顔は会場の雰囲気に呑まれ強張っていた。
Aブロックの1回戦第1試合。
さっそくレイリアの出番だ。
初戦の相手はオービル・フォーネだった。
舞台の隅に待機用のスペースが2か所あり、レイリアはそこで試合開始を今や遅しと待っていた。ルーディスたちはレイリアの近くで声をかけてくれている。
舞台を挟んだもう片方にはオービル、そして舞台の周りを囲むように他の受験者が観戦できるようになっている場所にはクリストフがおり、余裕がある表情をしていた。
観客席も武道の部を受けない受験者や、レイトの町の住人で埋まっていた。
全体を見渡せる上の方の客席にルイの姿があり、レイリアに声援を送っているのがみえた。
「両者、前へ」
試験官に呼ばれ、所定の位置へ着く。
「ふん。初戦の相手がお前みたいな小娘か……やる気がおきんな」
オービルが挑発するように言う。
「あら、そう。じゃあ一瞬で決着をつけてあげましょうか?」
相対するレイリアも軽い口調でオービルに言葉を返す。どちらも余裕のある態度である。
「降参するつもりか?そうしてくれると俺も無駄な体力を使わなくてすむ」
「後で吠え面かかないことね」
「君達、いい加減にしないか。これ以上騒ぐようなら減点評価とする」
痺れを切らした試験官が2人の会話に割って入ってきた。レイリアとオービルは渋々黙った。
「では、開始!」
試験官は2人が大人しくなったのを確認してから開始を宣言した。
オービルは、かかってこいとばかりに手招きをしてレイリアを挑発した。
「そんな余裕いつまで続くかしらね。そっれじゃ……」
レイリアの表情が一瞬で笑顔から能面に変わった。そして。
「行くよ」
宣言した直後、レイリアはオービルに走り詰め寄り体を回転させながら剣を大きく振りぬいた。
大振りの攻撃をオービルは難なく避けて、すかさずカウンターの姿勢に入る。だが、その途中で何かを感じとった様子でレイリアとの距離をとった。
「へぇ、バレちゃったのか。ちょっと意外だなぁ」
クールに淡々と語るレイリア。
オービルから余裕が消えた。
「オービル!小娘に惑わされるな」
外野からのクリストフが声で落ち着きをとりもどしたオービルは剣を構え直した。
「小娘。俺の取っておきの技を見せてやる。覚悟するんだな」
「へぇ~、そんなのあるんだ。でも、あんたの底は見えたから怖くないけどね」
「まだ、減らず口を叩くか」
レイリアの挑発を一蹴し、オービルは何かに集中するように剣を構えて静止した。
レイリアは、薄く笑い腰を低くし繰り出してくるであろう大技に備えた。
刹那、オービルは剣を大きく振りぬいた。
剣圧が衝撃波を生みレイリアをめがけて唸りをあげた。
レイリアは冷たく一瞥し、その衝撃波をかいくぐりオービルの腹部に剣の柄を叩き付けた。
オービルはその場で膝が崩れ、そのまま床を舐めるように倒れた。
「結局そんなもんなのね」
試験官に一礼しリングの外に向かって歩き出した。
試験官は遅ればせながら「それまで。勝者レイリア・アトリス」と言った時にはレイリアはリングを降り、ルーディス達と合流した後だった。
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ルーディスの試合まで時間があったので、他のブロックを見学しながらユリアに解説とアドバイスをしていた。
そしてルーディス達はDブロックの1回戦第7試合に目を奪われることになった。
対戦カードは長身で細身の貧弱そうな黒髪の男ゴーザ・バイルと、白地を基調としたローブを身に纏った栗色の髪の少女メリエンヌ・シャトール。
得物はゴーザが素手、メリエンヌがロングソードだった。
試験官の「開始」の声と同時に風が吹いた、ように感じた。
直後、メリエンヌはその場に倒れた。そして彼女が持っていた剣はカランと音と共に場外に落ちて来た。
気が付くとメリエンヌの背後に背を向けてゴーザが立っていた。
「それまで!勝者ゴーザ・バイル」
外野で観戦していたユリアが感心した様子で口を開く。
「一瞬で勝負がつくなんて初めて見たわ。あの人も相当強いよね?」
ユリアは周囲に同意を求めたが、誰も答えてはくれなかった。
ユリアの隣でレイリアの表情が固まっていた。
どうやらレイリアは今の試合に何らかの衝撃を受けたようでユリアの声は届いていない様子だ。
「ルーディス……今の”見えた?”彼女が開始の声で一瞬体を硬直させた後のアレ」
レイリアはユリアの言葉を無視してルーディスに問いかける。
「アレは最初から狙っていたよ。でも、流石に体が硬直するとは思ってなかったみたいで、最後は手を引いて倒れた衝撃を無効にしてたみたいだけど」
「以外と甘ちゃんなのかしら?」
ルーディスとレイリアの会話にユリアは小首を傾げた。
「え~~っと。よく事態が飲み込めないのだけど……要するにあの人が強くて彼女が弱かったって事なの?」
ユリアは黒髪の男と、栗毛の女を指さしながら、おそるおそるルーディス達に聞いてみた。
「んん~、半分は当たりかな? 多分、彼女もセンスは良いわよ。でも基本的な練習をおろそかにしてんじゃない。たぶんね」
「そんな事、独学のレイには言われたくないと思うよ」
「でも、事実でしょ。これでも道場破りしながらそういう知識は身につけてるんだから」
さらりとレイリアはとんでもない事を言った。
ユリアは目を見開いた。
「ど、道場破り?ごめん。レイリアって確か今17歳よね?」
「え? うん。そうだけど。あんなの子供の頃からやってるよ。伊達にハザンシティの武道大会で最年少チャンピオンになってないわよ」
得意気に語るレイリアにルーディスが少しだけ補足する。
「じつは、レイの事はハザンシティで有名人だったりするんだよ。主に悪童としてだけどね」
ユリアは「へぇ」と答えながら苦笑いして聞き流した。
聞いてはいけない、とユリアは本能的に判断したのだった。
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Cブロックの1回戦第14試合でようやくルーディスの出番がやってきた。
対戦相手は大槍を構えた大男クレイ・メイリス。
ルーディスはいつもと変わらぬ表情で「じゃあ、出番だからいってくるね」と軽く2人に告げリングへ向かった。
「ルーディス、大丈夫かしら?」
「あれくらいリラックスしてた方がルーディスらしくて良いよ。野戦実技前のルーディスの方が変なんだ」
レイリアとユリアが会話している間に試合が始まった。
対戦相手のクレイは大槍を両手に構えて、ルーディスの動きを見さだめるように動かない。
ルーディスも同様に剣を握り締めて様子を窺う。
観戦スペースにいたレイリアはその雰囲気を見て小さく頷く。
「ふ~ん。クレイって人、周りの風評に惑わされないタイプみたいね。いいなぁ。私もああいう人と戦いたかったなぁ」
「けど、どっちも動かないと勝負が付かないじゃない」
「よく見てるとわかるけど、どちらも踏み出すタイミングをずらし合ってるわ。私ならわざと隙を作って誘っちゃうけどなぁ」
ユリアはそう言われて2人の動きに注意を払うが、やはり睨み合ったまま動いてないように見える。
先に動いたのはルーディスだった。
一歩前に出たルーディス。
それを牽制するように大槍を前に突き出すクレイ。
剣で槍をそらしてルーディスはさらに一歩距離を詰める。
そして激しい打ち合いが続いた。
「あ~あ、ルーディスってば厳しい~」
「え?え?ルーディス劣勢なの?」
ユリアにはルーディスの方が優勢に見えていた。
「いや、優勢だよ。ずっと剣の間合いで打ち合ってるからクレイって人すっごくやりにくそうにしてるでしょ」
「それなら、離れればいいんじゃないの?」
「ルーディスがそれをさせないように動いてるの。自分の間合いを保ち相手の間合いに入らない、っていうのは定石なんだけど、実際それをする人って限られるのよね。ルーディスもよくやるわ、もっと戦いようがあるでしょうに」
最後の方はつぶやくように言ったのでユリアには聞こえてなかったようだ。
ユリアは難しい事をできるルーディスはすごいと感動していた。
ルーディスの打ち込みを何とか押し返そうとするクレイ。
一方的に抑え込まれ焦ったのかクレイは大槍を大振りしてきた。その瞬間をルーディスは見逃さず、剣で大槍を勢いよく弾いた。
その衝撃を耐え切れずにクレイは大槍を落としてしまった。
誰もが、ルーディスが剣を突きつけて終わりだと思った。
しかしルーディスが取った行動は、リングの中央に移動し剣を構えなおす事だった。
「何のつもりだ」
クレイはあっけに取られ、動くことができなかった。
「僕は武器を落とした相手に向ける剣は持っていません。武器を拾ってください。まだ試合は終わっていません」
クレイは屈辱に顔を歪め言われるまま大槍を拾い、リング中央へと移動した。
「甘いな。次は簡単に懐には入らせないぞ。試験官殿もう一度合図をお願いします」
試験官は頷き、クレイが大槍を構えるのを見て「開始!」と合図をかけた。
次の瞬間、勝負は決した。
ルーディスは、斬れるはずのない刃を潰した剣で、クレイの大槍を真っ二つに叩き切ったのだ。
これには、クレイも笑いながら「まいった」と降参するしかなかった。




