プロローグ
とある教会付属の孤児院にて一人の少年が巣立ちの時を迎えていた。
少年は同じ孤児院で育った友人と共に西の大国で開かれる冒険者協会の試験に赴こうとしていた。
「父さん、先生…。それじゃ行ってくるね」
「待ちなさい。餞別だよ。これを持って行きなさい」
手渡されたのは一振りの剣だった。
昔から院長室に飾られており、目端の効く友人の話だと相当な業物と言っていた物だ。
「これは……良いのですか?」
「これも使って貰う事を望んでいるだろうからな」
そう言って遠い目をした院長(父)に何かを感じたのか少年は素直に貰っておく事にした。
「それでは、改めて行ってきます」
少年の眼はまだ見ぬ未来を見据えていた。
少年が去った後、院長である教会司祭は神のシンボルに頭を垂れ「アヤツの魂が息子の危機を救わん事を…」と祈った。
女は半年前、裕福な環境を捨てて自由を選んだ。
様々な想いを抱き、色々な経験を経ての選択だった。
けれど、彼女はまもなく生活に行き詰った。
自由を自由に謳歌するには自力が必要なのだと世間に思い知らされた。
簡単に言うと資金が底をついたにも関わらず、自分の能力に見合った仕事を探せないという状況に追い込まれたのだ。
残念ながら彼女には世渡りの能力が絶望的に不足していた。
そんなとき、冒険者協会入会試験開催の噂を聞いた。
参加条件はなく、誰にでもチャンスが与えられるというのだ。
これだ、と彼女は決心して一路、西を目指して出立した。
夢や希望を抱いたのではなく、ただ現実的な問題に対処するために。
孤児だった少年と裕福だった女性。
正反対の道を進んでいたこの二人が出会う。
これは、ただそれだけの物語。
けれど、このささやかなるこの交差は世界の在り様を歪める物語の序章でもあった。