一枚の思い出
いつまで経っても変わらない私は、久しぶりに自分の部屋の机を片付けていた。もちろん自分からではない。母にキツく言われたのだ。
いつもの私ならそれをのらりくらりかわすのかもしれないが、今日はしょうがないと、たまには机らしい姿をみせるかと重い腰をあげてみた。
昔の私ならたまにの片付けは宝探しのように思えていたが、今の私には過去のものなどガラクタも同然。
私はそろそろたまりすぎて重かった過去を減らしたいと思っていたのだ。
机の上の紙の山のてっぺんから『いる』『いらない』にわけていく。
もう、ほとんどが何年も前からいらなくなっていた。
何時間か経ち、机らしい姿が見えてきた頃、私は引き出しから一枚のメモを見つけた。
章介くんへ
好きです。
と書いてある。
章介くんとは誰だったか…私は記憶の迷路をぐるぐると回った。___ああ、たしかドッジボールのうまかったあの…と同時に心臓がほんの少しだけ嬉しくなった。
そんな心臓とは別に好きとはなんだったかななんて考えたくもない疑問が浮かんでくる。
私は止まりそうな手を動かし、ドッジボールのボールが顔になってしまった章介くんを元気かななどと思ってみる。
うん、元気でいてほしい。
私は変わらず元気に、珍しく机を片付けているよ。
埃っぽくなった部屋にいつの間にか使わなくなった立派な机が現れた。私もやればできるもんだなと埃っぽい手をパンパンっと力強く払った。
そろそろ夕食の時間だ。
私は先ほどのメモをまたいつか片付けるときにドッジボールの章介くんを思い出せたらと同じ場所に戻した。
手を洗い、机の片付けが終わった報告に台所へ行くと母がコロッケを揚げている。
「あ、リレーの選手でもあったな」
台所いっぱいのコロッケの香りと達成感と小さな思い出が今の私いっぱいに詰まり、なんだか少し片付けが好きになった。