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高校生よ、恋をせよ

最低な幼馴染!

作者: 真下地浩也

 

 私の名前は等々力(とどろき)奈緒(なお)

 高校二年生の十六歳。

 今年もあと二週間くらいであの時期がやって来る。

「ねぇ~、もうすぐクリスマスじゃん。みんなはなんか予定あんの?」

 テンションも声も高い話し方、ゆるふわパーマをかけた金髪の女の子は友達の(はな)ちゃん。

 耳にもピアスを開けてて、制服のジャケットの下に指定外セーターを着てるいかにも不良です、って感じなのに話してみると意外と気さくで優しく、苦手なことも努力するいい娘だ。

 短所はテストでは信じられない点数をとることがあるくらい頭が悪いことかな。

 先生達から『やっても出来ない娘』って呼ばれてる。

「俺は電脳掲示場で同士達とリア充を呪う予定」

 独特な言葉と気だる気な話し方、綺麗な黒髪ストレートの女の子は同じく友達の(よう)ちゃん。

 髪を耳の下で二つに結って、眼鏡をかけている葉ちゃんはクラスメイトから『委員長』って呼ばれてる。

 けど、実際は授業中は寝てるか、趣味の同人誌を描いてるから先生達には『眠りの画伯』って呼ばれてる。

「それじゃあたしとまーくんヤバイじゃん!超呪われるし!つーか呪われまくりみたいな!」

 まーくんは花ちゃんの彼氏さんだ。

 花ちゃんと似たタイプで背が高くてとっても優しかった。

 初対面で何個も飴をくれた。

 なんでも親戚の子に似てるんだって。

「おう。一番に呪ってやる。んで。さっさと別れて一人寂しくケーキ食え」

「なにそれ!マジ酷くない?一人ケーキとかありえないから!」

「一人ケーキウケる!ナイスネーミング!お前神だわ!」

 葉ちゃんの言葉の後ろに『w』が並んでいるのは気のせいじゃない。

 お腹を抱えて笑っているし。

「マジで!流行(はや)んかな?一人ケーキなう的な?」

「調子に乗んな。絶対に流行らねーよ。流行んのは身内だけだわ!」

 中身のない馬鹿な会話に三人で声を上げて笑う。

 放課後の教室には私達しかいないから、どれだけ騒いでも咎める人はいない。

「ていうか、あたしらなんの話してたっけ?」

「クリスマスじゃね?」

「そうそう!なおはクリスマスどーすんの?」

 机に身を乗り出して、花ちゃんは私を指差した。

「多分、家でケーキ食べることになると思う」

 去年のクリスマスを思い出して、憂鬱(ゆううつ)になる。 

 ああ、あの日のことは正直、思い出したくもないのにこの時期が来てしまうと、どうしても思い出してしまう。

「家族と過ごすってことでしょ?なんでそんな顔してんの?」

「親戚でもくんの?」

 二人は不思議そうな顔だ。

 普通ならそうだ。

 でも我が家は違う。

「あいつの家族と一緒に食べるんだよ」

 そういえば、二人は納得した。

 教室は授業中に居眠りをして、寝言を先生に聞かれたような、いたたまれない空気になる。

 あいつとは幼馴染みの『神野寺(じんのじ)(りく)』のことだ。

 私が五歳の頃に隣に引っ越してきて、それからの腐れ縁。

 両親が仲良くて、家族ぐるみの付き合いをしているけど、もう私もあいつも思春期で、ずっと一緒にいるのはなんだか気まずい。

 何よりもあいつはいわゆるイケメンってやつで、アイドルに負けず劣らずの美貌の笑顔(私には見下すような笑顔しか見せないけど)に、優しさを身につけてる(私には意味不明な意地悪と暴言しか吐かないけど)から、女の子にたいそうオモテになるのだ。

 私が近づいただけで他の女の子に睨まれて、一緒に帰ったら翌日嫌がらせされた。

 だから私から距離をとった。

 花ちゃんと葉ちゃんは私の事情を知り、なおかつあいつに興味がない(私を使ってあいつとお近づきになろうとする女の子もいた)貴重な友人。

「あー、ご愁傷様って感じ?」

 花ちゃんが苦笑いで優しく頭を撫でてくれる。

 本当に花ちゃんは優しいなぁ。

 まーくんが好きになるのもわかるよ。

 私が男だったら花ちゃんみたいな娘と付き合いたい。

「そんなに嫌なら俺とどっか遊びに行かない?」

 頬をかきながら葉ちゃんがいう。

 人混みが大嫌いで一時間前に登校する葉ちゃんが、人が多いクリスマスの日にお出かけ(デート)に誘ってくれるなんて!

 これが噂のデレ期ってやつかな?

 答えはもちろん、Yes!

 断るなんてありえない!

「い」

「ごめんね、長澤さん。奈緒は俺と約束してるからまた今度にしてよ」  

 私の声はあいつの声にかき消された。

 いつもいつも私の邪魔をして!

 気がつけば背後に立っているこいつは気配なんてなくて、忍者か!って思う。

 肩に回されていた腕を乱暴に払った。

 私をバカにするような笑顔に腹が立つ。

「なに勝手なことをいってるの!あんたとなんか約束してない!」

「奈緒の家でクリスマスパーティーをするのは毎年恒例行儀じゃない?」

 なに馬鹿なことをいってるの?と私を鼻で笑う。

 普段の私ならそれで何もいわなかっただろう。

 でも今日の私は違う。

 今回だけはあんたの思い通りにさせない!

「残念でした!今年はおとんがお仕事になりそうだからまだ決まってません!」

「嘘?まじで?俺なんにも聞いてないんだけど?」

 陸は驚いたように目を見開く。

 でも、アイドル顔は驚いてもアイドル顔だ。

 なんか悔しい。

 陸が知らないのは当然だ。

 わずか三秒で作った即席の嘘だもの。

 おとんは無宗教のくせにクリスマスパーティーが大好きだから、今年も絶対に休みを取っているはずだ。

 まあ、さすがにそこまでは陸も知らないか。

「クリスマスパーティーが大好きで毎年、絶対に休みを取る尚太郎(なおたろう)さんが、休みを取れなかっただなんて!」

 なんでそこまで知ってんのよ!?

 おとんか?おかんか?

「両親から聞いたよ」

 まさかの両方!?

 どんだけクリスマスパーティーが好きなの! 

「ま、まあそんなわけであんたと約束してないから私は葉ちゃんと出かけるよ」

「じゃあ俺も行くよ」

「はあ?なにいってんの?俺となおたんのクリスマスランデブーは決定事項だし。ストーカーは巣に帰って健全な社会のために一生引きこもってろ」

 葉ちゃんは鋭い眼光で陸を睨みつけ、盛大な毒を吐いた。

 他のクラスメイトには猫を被るけど、大嫌いな陸には偽らない言葉をぶつける。

 陸の笑顔が引きつり、眉がよりしわが出来た。

 ここまで陸を怒らせることが出来るのは葉ちゃんしかいない。

 しかし、その程度で諦める陸じゃない。

 すでに気持ちを切り替えて、余裕の笑みを浮かべている。

 まさか何か秘策があるの?

「ふうん。それじゃあこれと奈緒とクリスマスにデートする権利の交換っていうのはどう?」

 陸が鞄から取り出したのは、薄くて高い本。

 なんだかすごく嫌な予感がする。

「そ、それは!?コミケ開始三十分で売り切れたという敬愛すべき我らの神、シュガーさんの同人誌!?」

 『シュガーさん』とは葉ちゃんが一番好きな同人作家さんだ。

 別の名前でちゃんと商業的な書籍も出しているらしい。

 独特の絵柄と一次作品、二次作品、ジャンルを問わない様々なストーリーが年齢の壁を越えて愛され、人気を集めている。

 ちなみに歌ってみるの『フォール』さんと『new』さんも仲良しでリア友らしい。

 そんな葉ちゃんにとっては喉から手が出るほどほしい物が目の前にあるのだ。

 友情か、同人誌。

 それは葉ちゃんにとっては悪魔との取り引きと同じだった。

 陸が止めとなる言葉を放った。

「ためらう気持ちはわかるよ。でもさ、このチャンスを逃したらもう二度とシュガーさんの同人誌は手に入らないと思うよ?もし君がいらないっていうなら、俺はこれをヤフオフで売るつもりだ」

 その時の陸の笑顔はアイドルとは程遠い、悪魔そのものだった。

 鋭く尖った触覚と尻尾が楽しげに揺れている幻覚すら見えた。

「ごめん!なおたん、骨は拾うから!」

 葉ちゃんは悪魔の誘惑には勝てなかった。

 腕の中に悪魔から貰い受けた同人誌がしっかりと抱きしめられている。

「同人誌を出した時点でわかってたよ」

 陸とのクリスマスデートをいくら想像しても、罵倒され、(いじ)められる自分しか浮かばない。

 口から乾いた笑いが漏れ、ついつい遠い目になる。

「なお、超ドンマイー」

 あまりの悲しさに花ちゃんのふくよかな胸に現実逃避(ダイブ)する。

 花ちゃんはマシュマロみたいにふかふかで、いい匂いだ。

 ずっとこのままでいたい。

「ああっ!すねて花嬢に甘えるなおたん、マジ天使!」

 うるさい、裏切り者(葉ちゃん)。

 私は天使なんかじゃない。

 きっと睨んだのに葉ちゃんは幸せそうだ。

 わけわかめちゃんだ。

 最終下校時間を告げる鐘が鳴って、私たちはそれぞれの家に帰った。

 なぜか当然のように陸もついて来た。

 ぎりぎりまで花ちゃんにくっついていたら、陸が羨ましそうに見てた。

 陸に花ちゃんはあげない!

 花ちゃんは私とまーくん専用だ!




 約束の日はあっという間に来た。

 当日に風邪を引くため、お風呂から出てしばらく薄着で過ごしたり、用もないのに外出したりしたのに全く効果がなかった。 

 今日も私は元気いっぱいだ!

 ちくせう!

 だけど他に何も対策をしてこなかったわけじゃない!

 花ちゃんと葉ちゃんに頼んで、今日のための服を一緒に買いに行った。

 変な服だと、会った瞬間に色々いわれる。

 花ちゃんから地毛と同じ色のライトブラウンのウィッグを借りた。

 私には大きくて腰までの長さになったけど、二人に似合っていわれた。

 確かに今の髪型(ショーヘア)よりも長い方が大人っぽく見える。

 髪伸ばそうかな。

 そんなわけで今の私は戦闘服を着ている。

 ライトブラウンのウィッグにニット帽を被って、ライトグリーンのハイネックニットシャツの上にホワイトポンチョをまとって、赤色のフレアスカートの下に厚いブラックタイツを履いて、七センチのヒールのブーツを履いている。

 少しだけ花ちゃんにお化粧もしてもらったから、お姉さんぽく見えるはず。

 この格好ならさすがに陸も文句をいわないと思う。

 三十分前に指定された駅前の時計台の下で待っていると、陸がやってきた。

 きょろきょろと周りを見渡しているけど、何か探しているのかな?

 いつまで待っても私に気づく様子はない。

 新手の虐め?

 ようやく私に気づいた陸が恐る恐る近づく。

 私は猛獣か!

「ねぇ、まさか奈緒?」

 ぷちんと何かが切れる音がした。

 わざわざ葉ちゃんとの約束を変えてまで、私と出かけるっていったくせにその態度はあんまりだ。「いえ。人違いです」

 陸に背を向けて歩き出す。

「ちょっと待ってよ、奈緒!いつもと違う格好だったからわからなかっただけだって!」

 ぴたりと立ち止まる。

 それはどういう意味?

「具体的には?」

「髪の毛増えた?」

「もう帰る!」

 褒め言葉を期待した私が馬鹿だった。

 こんなやつ知るか!

 陸が焦ったように私を追いかける。

「冗談だよ!そう!すごく可愛い!可愛すぎて誰だかわかんなかったんだ!」

「どうせ嘘でしょ!」

「本音だよ!どこのお姉さんかと思った!」

 お姉さん。

 バスや電車で子供料金を勧められる私がお姉さんに見える。

 嘘でも嬉しくてふにゃりと顔の筋肉が緩んだ。

「馬鹿みたいな顔」

 やっぱり訂正。

 全然っ!嬉しくない!

 陸は私に背を向けて、さっさと先に行ってしまう。

 歩き慣れていない靴はいつもより少しスピードが遅く、間が空いてしまう。 

 振り返って私がいなくことに気づいたのか、戻ってきた。

「無理に慣れない靴を履くからこうなるんだ」

 そういいながら、手を差し出した。

 え?こんな人目のある場所でお手をしろと?

 よくわからないまま手を乗せると、優しく指を絡ませるように握られた。

 これって恋人繋ぎってやつでは!?

 陸と手を繋いだのは小学生以来で、顔に熱が集まる。

「転ばぬ先の杖だよ」

 陸は満足げに笑って、先に行く。

 当然ながら私も引きずられる。

 違う。恋人繋ぎなんかじゃない。

 私が逃げないようにするためのリードだ。

 あんたのペットじゃない!

 一生懸命に手を離させようとするけど、陸は嘲笑うように繋ぐ手に力をこめた。

 運動神経もいい陸に私が勝てるはずもなく、すぐに手を離すのを諦めた。

「どこに行くの?」

「行けばわかるよ」

 それっきりいくら聞いても、陸は答えてくれなかった。

 いったい、どこに向かうつもりなんだろう?

 


 

 辿り着いた先は大型のショッピングモールだった。 

 店内はどこも赤と緑のクリスマスカラーで飾られて、人がたくさんいる。

 特に今年はクリスマスが日曜日っていうこともあってか、恋人や家族連れが多かった。

 この年で迷子になりそう。

「去年、このデパートで誘拐未遂事件があったらしいけど、大丈夫だよ。奈緒が迷子になったらちゃんと迎えに行くから」

 陸は私の不安を見透かしていたみたい。

 不覚にも嬉しくなってしまった。

「この年で迷子になんてならないよ!」

 不安と優しい言葉への嬉しさをそっぽを向いてごまかす。

 なんだかんだいいながら心配してくれているんだ。

「迷子センターにね」

 笑顔でウィンクしてきた陸に殺意が芽生えた。

 私は十・六・歳!

 迷子センターにお世話になる年齢じゃない!

「私の純情を返せ!」

「え~?もしかして今のでときめいてたの?ほんと奈緒ってちょろいよね」

 なんでこいつは人の心をもてあそぶようなことしかいわないんだろう。

 小さい頃はもっと可愛げがあったのに!

 いっそ迷子のふりして帰ってやろうか。

 いや本当に迷子センターへ探しに行って呼び出し放送されたら、たまらないから止めておこう。

 学校に行けなくなる。

「ついたよ」

「映画館?」

「奈緒と見たい映画があってね」

「ただいまクリスマスキャンペーン中で、カップルはお一人千円になっております」

「そうなんですか。それじゃあ、デッドベアーをカップルで二枚お願いします」

 定員さんの顔が引きつっていた。

 『殺人熊デッドベアー』とはハリウッド作のホラー映画だ。

 凶器を持った熊の縫い包みがひたすら主人公たちを殺そうと追いかけてくる話だった。

 熊の縫い包みは一匹ではなく、三十匹いてそれぞれに凶器が違うから、殺す方法も違う。

 元は真っ白だったのに、返り血を浴びて真っ赤に染まった熊の縫い包みに追い詰められるシーンをCMで見た時には怖すぎて泣いてしまった。

 だって逃げ切ったと思って上を見たら、頭より大きな植木鉢を持ったデッドベアーが自分に向かって落ちてくるんだよ!?

 あんなのが当たったら即死だよ!

 少なくともクリスマスに見る映画じゃない。

「やだよ!別の映画がいい!私、『雪のあなた』がいい!」

 定員さんの表情が柔らかくなる。

 『雪のあなた』は雪国の少年と都会の少女が冬休みに雪国で出会い、恋をする話だ。

 素直な少年と捻くれた少女がお互いに惹かれていく姿に、結末がわかっているのについつい応援してしまう。

 主役の二人を演じる役者さんが現役の高校生でリアルな演技なところもまたいいらしい。

 クリスマスに見るならこれだ。

「他人の恋愛を見て何が楽しいの?」

 陸はそっけなかった。

 まだまだ恋愛に興味のないとお年頃なのかもしれない。

「二人が仲良くなろうとする姿になんかこう胸がキュンってなるところがいいの!」

「あっそ。じゃあ行くよ」

 私の話を聞くことなく連れて行かれる。

 え、本当に『デッドベアー』見るの?

 しぶしぶチケット代を払おうとすると止められた。

「ポップコーンキャラメルSサイズで」

 途中でポップコーンの甘さが香る売店で陸が一番小さな十五センチくらいのポップコーンを買う。

 甘い物あんまり好きじゃないのにどうして買うんだろう?

 食べたい気分なのかな?

 客席に着くと陸がさっきのポップコーンを渡してくれる。

「食べていいの?」

「こんな甘ったるくてカロリーの高い物を他に誰が食べるの?」 

 美味しい物はだいたいカロリーが高いの!

 なんていってやりたいところだけど、機嫌を損ねてポップコーンを貰えなかったら悲しいから、一応お礼をいって食べ始める。

 はぁ……弾けたコーンのサクサク感と絡められたキャラメルの風味が最高だね。

 お家とかスーパーのお菓子とは違って映画館でしか食べられない特別感っていうのも、美味しさの秘訣かも知れない。

 これなら映画を見らずにポップコーンを楽しんどけば、怖くなくていいや。

 だけど、その幸せも映画が始まるブザーが鳴ると同時に終わった。

 陸が私のポップコーンを箱ごと奪ったのだ。

「返してよ!」

「近所迷惑になるからね。それに映画を見に来たんだからちゃんと見ないと」

 確かに食べる音はうるさいかもしれないけど、お客さんは私たちの他に二人しかいない。

 隣にいる陸にさえ気をつけていれば、他の人には聞こえないはず。

「静かに食べるから!だいたい見たい映画じゃないからどうでもいい!」

「ほら静かに。そろそろ始まるよ。」

 私の忠告をあっさり流して、画面を見るように促す。

 だから見たくないんだって!

 



 映画館から出てきた私は涙のせいでそれはそれは酷い顔だった。

「あー、楽しかった」

 元凶の陸は私の憎しみのこもった視線を何でもないように受け止める。 

 映画の内容はCMよりも酷かった。

 デッドベアーが包丁を投げつけてきたり、身動きを塞がれてからチェーンソウで切られそうになったり、飲み物に毒を混ぜられたり、硫酸の風呂に突き落とされそうになったりと、実にさまざまな方法で主人公達を殺しにかかっていた。

 製作者の異常なやる気を感じたけど、凝るところを盛大に間違っている気がする。

 あ、植木鉢はぎりぎりのところで気がつき、避けることができていた。

 不覚にも悔しがるデッドベアーをっと可愛いと思ってしまった。

 見た目は縫い包みだもの。

 澄ました顔で見る陸の隣で、子どものように泣きわめていたいた。

 途中であまりの怖さに陸にしがみついてしまったけど、不可抗力だ。

 もう二度とホラー映画を見るものか。

 トイレに行って、化粧を落とす。

 想像以上に化粧が落ちていて、念のために持ってきていた化粧落としを使って綺麗にふき取る。

 まさかこんな早くに出番が来るとは思わなかった。

 さっぱりしたところで外に出ると、陸が見知らぬ女の子たちに囲まれていた。

 年上の女の人も何人かいるみたい。

 このままこっそり帰ってもばれないよね?

 そろそろと女のたちの後ろを通って逃げる。

「あ、奈緒!」

 だけどすぐに見つかり、手を繋がれ、引きずられるようにしてその場を後にした。

 気づくのが早すぎる。

 取り囲んでいた女の子たちの雰囲気が明らかに殺気立つ。

 敵意のこめられた視線が痛い。

「次はどこに行きたい?」

「家」

 もう十分楽しんだでしょう?

 私は今すぐに帰りたい。

「奈緒ってば大胆。俺じゃない奴と出かけた時も同じことをいうの?」

 何がおかしかったのか、陸は楽しげに声を上げて笑う。

 陸とじゃない人ってことは花ちゃんとか葉ちゃんとだよね。

「陸と違う人とならもっと楽しむよ」

「訂正。奈緒ってほんとあほだよね?もっと警戒しなよ」

 不機嫌そうに眉を寄せた。

 二人に何を警戒したらいいというんだろう?

 あ、二人がナンパとかひったくりとか、軽犯罪に巻き込まれないように警戒しろってことだね。

 今の私じゃ二人を守れそうにないなあ。

 そうだ!なにか格闘技の一つでも覚えれば何とか逃げる時間くらい稼げそう。

「空手でも習おうかな」

 何いってんだこいつみたいな顔をされた。

 警戒しろっていったくせにその顔は酷いと思う。 

「美人が台無しだよ」

「奈緒のくせに俺を馬鹿にしてる?」

 注意してあげたのに酷いいわれようだ。

 顔だけは整っているのに残念。

 邪険な空気をぶち壊すように盛大なお腹の音が鳴った。

 発生源は私ですけど、何か?

 さっきの映画で叫びすぎて、カロリーを消費したんだよ。

 陸は口元に手を当てて、笑いを堪えているけど、全然堪え切れていない。

「笑うなら笑えば?」

 陸はかせが外れたように笑い出した。

 もうそのまま笑い死んでしまうんじゃないかってくらい。

「はは!ほんと奈緒といると飽きないよ。面白すぎる」

 涙目でいわれて、複雑な気分になる。

「どうでもいいからお腹空いた。なんか食べたい」

 連れて行かれた先はフードコートだった。

 お店がたくさんありすぎてなんにするか迷う。

 二手に分かれてそれぞれに好きな物を頼んで、適当なテーブルに着いた。

「なんで牛丼」

 先にテーブルを確保してくれていた陸が私が持ってきたメニューを見て、噴き出した。

「違うよ!すき焼き丼だよ!」

 牛丼のワンランク上の期間限定商品である。

 五百八十円もしたんだからね。

 陸はトマトソースのかかったスパゲッティ—だった。

 しかもドリンクとサラダとデザート付。

 そんなお店がここにあったの!?

 すき焼き丼よりも驚いた。

「まあいいや。それより冷める前に食べよう」

 訂正してあげたのに陸はさらっと流す。

 自分のミスは認めないのか。

 これ以上揉めるものお腹にも辛かったから、寛容な心で許した。

 手を合わせて、いただきます。

「奈緒、一口ちょうだい」

「あー!お肉とった!じゃあ私もちょうだい!」

 フォークで貴重なお肉がとられてしまった。

 ちょっとしか入ってないのに!

「はいはい。これでイーブンね」

 陸がくれたのはデザートのガトーショコラだ。

 一口の対価にしては多すぎない?

「いいの?」

「いらないなら俺が食べるけど?」

 念のために確認をとると、意地悪く笑った。

 ありがたく受け取って、デザートのお皿を陸の届かない場所に置く。

「奈緒は色々と小さいからいっぱい食べないとね」

 どこを見ていってるの?

 喧嘩は売らないけど、売られた喧嘩は(陸限定で)買うよ?

 あ、嘘です。ごめんなさい。

 デザートとらないで。




 騒がしくお昼ご飯を食べた後はぶらぶらとお買い物。

 二人とも特に買いたいものがないんだよね。

 遠くのゲームセンターに覚えのある形の縫い包みが鎮座していた。

 はっ!あれはにゃんこではないか!

 私は無類の猫好きだ。

 猫なら何でも好きで、部屋の中は猫のグッズで埋まっているといっても過言じゃない。

「ねえ、ゲーセン行こう!にゃんこ!にゃんこがいっぱい!」

 繋がれた陸の手を引き、先へ促す。

 私の勢いに陸が引いているのがわかるけど、知ったことじゃない。

 今の私には猫しか見えてないから。

「これは!?」

 でっぷりとした丸々とした幼稚園児くらいの体に長い尻尾、小さい手足とふてぶてしい顔が最高に可愛い。

 ガラス越しに猫を愛でていた私は陸の声で我に返る。

「それほしいの?」

「いや自分で取ってこそ価値があるんだよ」

「ふうん」

 財布(もちろん猫の顔)から五百円を投入口に入れて、レバーを握って、ボタンに手を添える。

 五百円で六回出来るのなら、何とかなりそう。

 この手のゲームは苦手だけど、にゃんこのためなら私だって出来るはず。

 三千円分くらい粘ったけど取れなかった。

 これ以上は帰るお金がなくなっちゃう。

 それでも諦めきれずに、じっと眺めてしまう。

 ああ、欲しかったな。

「ちょっとどいて」

 手を離して私を押しのけて、陸は百円を投入口に入れる。

「どれがいいの?」

「あの黒猫」

 黒毛並みに黄色の目の猫を指差した。

 比較的、取りやすい位置にあるけど、縫い包みが重いからか持ち上げることさえ難しかった。

 陸は真剣な表情でそれを見つめ、レバーとボタンを動かした。

 すると黒猫は嘘みたいに簡単に持ち上がり、そのまま開口部に落ちた。

「はい、あげる。俺がとってあげたんだから大切にしてよ」

 信じられなくてぽかんと口を開けてまる私の前に、欲しかった黒猫がドアップで映る。 

「いらないの?」

 意地悪に笑う声で現実だとやっと思えた。

「ありがとう」

 黒猫をぎゅっと抱きしめて、顔を埋める。

 柔らかくてふわふわで気持ちがよくて、笑顔になる。

 ずっと抱きしめて顔を埋めたくなるくらい。

「    」

 陸が何かいったけど、小さすぎて聞き取れなかった。

 何をいったんだろう?

「何かいった?」

「なんでもない」 

 私の手をとって歩き出すから、私は空いた手で縫い包みを持つ。 

 独り言だったのかな?

 しつこく聞いても答えてくれないだろうから、黙ってついていく。




 当てもない買い物で思った以上に時間が過ぎていた。

 時刻は六時を回ってる。

 そろそろ帰らないとおとんが心配する。

「最後にあれに乗ろう」

 陸が私を連れて行った先は屋上の観覧車だった。

 三十組くらいが乗れるその観覧車は出来てから三年以上経つのに、一度も乗ったことがなかった。

 いつか好きな人と乗るんだ、って勝手に決めて誰に誘われても断り続けていた。

 でも陸は私の返事を聞かずに、搭乗券を買って観覧車の中に押しこんだ。

 扉が閉められ、ゆっくりと動き出す。

 数年ぶりに乗る観覧車についつい心が浮足立つ。

 向かい側の座席に座る陸に背を向けるように座席に乗って外の景色を眺める。

 駐車場の車や近くの町がミニチュワみたいに小さくなっていく。

 私と陸の家はあのあたりかな?

 太陽と夜が混ざり合って、赤黒い不思議な色をしていた。

 もう少ししたら太陽が完全に沈んで、真っ暗になりそう。

「奈緒」

 陸の切なげな声に私は振り返る。

「奈緒はさ、今日は楽しかった?」

 一日を振り返る。

 無理やり連れてこられて、嫌いな映画に付き合わされ、昼食をとられ、ゲーセンで得意げに狙っていた縫い包みをとられた。

 散々馬鹿にされたり、笑われて、冷たい目で見られた。

「楽しかったよ」

 こんなに長い時間、陸と一緒にいたのはいつ振りだろ。

 少し前まではそれが当たり前だと思ってた。

 陸はいつだって私の側にいて、私も陸の側にいる。

 距離をとってみて、始めて違うって気づいた。

 陸はスラリと背が高くて、アイドルみたいにかっこいい顔で、スポーツだって出来る。

 頭もいいからどんな大学だって行けるだろうから、なりたい職業はなんだってなれる。

 キラキラしてる陸は綺麗な女の子も、可愛い女の子もすぐ好きになる。

 誰にでも優しいから、男女問わず友達がいっぱいいる。

 まかさせたことはしっかりするから、先生にも頼られてる。

 いつだって陸の側にはたくさんの人がいる。

 なら私は?

 顔は平均的な顔に小学生と低い身長、髪は男の子みたいに短い。

 スポーツも勉強も苦手で、どんなに頑張っても陸の半分も出来ない。

 頼られても一人で出来ないことの方が多くて、いつも誰かに手伝ってもらってる。

 そんな私の側にいてくれるのは仲のいい家族と二人の友達だけ。

 陸はどうして私の側にいてくれるんだろう。

 家が近いから?

 両親が仲がいいから?

 知りたいのに、答えを聞くのが怖くて聞けない。

「陸は楽しかった?」

 怖くて震えてしまったかもしれない。

 臆病だなって笑ってくれたらいいな。

「楽しかったよ。久々にね」

 陸はウィンクして悪戯っぽく笑う。

 たった一言が嬉しくて、胸が暖かくなった。

 それから降りるまで二人の間に言葉はなかったけど、不思議と今までのような気まずい雰囲気はなかった。

 手の届く距離に陸がいる。

 それだけでなんだか幸せな気分にしてくれて、陸がくれた縫い包みを抱きしめて顔を埋めた。 

 時間はゆっくりと過ぎていった。




 観覧車から降りると樫木(かしぎ)奈美(なみ)さんがいた。 

「あ〜!陸くーん!」

 大人っぽい上品な化粧に甘いバニラの香りを長くて艶やかな髪に惑わせ、ボンキュッボンのナイスボディで、陸に抱きつく。

 樫木さんとは同じ年のはずなのに、すごく大人びている。

 陸は戸惑いつつも、私の手を離して受け止めた。

 ちょうど一年くらい前のあの日、陸と放課後の教室で二人抱き合ってキスをしていた姿と重なる。

 次いで、知りたくなかった事実に気づいてしまった。

 幸せな気分から一転して、最悪な気分になった。

 高い場所からそこの見えない暗い穴に突き落とされたみたい。

 ああ、そっか。

 樫木さんとのデートまで時間をつぶすために私と出かけたかったんだ。

 陸のことは諦めていたはずなのに、心のどこかで期待して浮かれてた。

 胸が奥がすごく痛い。鼻の奥がツーンとして、泣きたくなんかないのに、両目から冷たい涙がぼろぼろと流れた。

 陸はぎょっとした顔で私を見る。

 伸ばされた陸の手を私は乱暴に払って、睨みつける。

「デートまでの暇つぶしに私を使わないで!私はあんたのそんなところが嫌い!」

 陸は大好きな人にでも嫌われたような顔を浮かべる。

 なんで陸がそんな顔をするの?

 素敵な彼女が迎えに来てくれたんだから、私に構わないで二人でどっかに行けばいいじゃん。

「奈緒、違う。この人は」

「いいわけなんて聞きたくない!嫌い!嫌い!大嫌い!あんたなんかもう知らない!」

 その場から走って逃げたかったけど、ヒールのせいで全然前に進めない。

 こんなことになるってわかってたならお洒落をせずに、もっと動きやすい格好をしてくればよかった。

 樫木さんを受け止めていたはずの陸は背後から私を物語のお姫様みたいに軽々と持ち上げる。

 何も知らなかったら、素直に喜んでいた。

 だけど今は嬉しくない。

「離して!」

 腕や胸を叩いても陸は私を降ろそうとしなかった。

 むしろ大切な物のように腕に力をこめた。

「ちょっと黙って」

 かなり機嫌の悪い時にしか出さない低い声に体が固まり、涙も止まってしまった。。 

 なんで陸が怒るの?

 顔を見るのが怖くて俯いた。

 あっけにとられる周囲の人を他所に陸は搭乗券を買って、私は再び観覧車に乗る。

 さっきと違うのは陸が私を膝の上に載せていることだろうか。 

 私を腕の中に包みこむようにも、逃がさないようにも抱きしめる。

 どうしてこんな状況になったんだろう。

 どこか冷静な自分がいた。

「あの人は彼女じゃない」

 ぽつりと陸が拗ねたような声で呟いた。 

「嘘!教室で放課後の教室で抱き合ってキスしてたじゃない!」

 理性を捨てて思ったままに言葉を放った。

 これでもう陸との関係が終わりなら、いいたいことをいってやろうと思った。

「やっぱり見てたんだ。あれは相手が無理やりしてきたんだよ。だいたい香水臭くて、化粧が濃い、男をアクセサリー程度しか思ってない自意識過剰な女は嫌いだ」

 陸は葉ちゃんみたいに嫌悪感丸出しで毒を吐く。

 そんなことを思うんだ。

 怒りがすっと水に流れる泡のように消えていった。

「じゃあどんな女の子が好きなの?」

 試しに聞いてみたら、あっさりと答えてくれた。

「香水も化粧も知らなくて、髪型はショートヘアー。俺の腕の中にすっぽり収まるくらい小さな体に童顔。子供みたいに表情がころころ変わって、小さな嬉しいことでも馬鹿みたいに幸せに笑う娘」

 もしかしてと思いながら、臆病な私はそれを否定する。

 傷つくのはいつだって怖いから、傷つかないように答えを曖昧なままにしてた。

 けどもう自分の気持ちを誤魔化せない。

 小さな一歩を踏み出そう。

「そんな娘、私知らないよ」

 声が震えてしまうのは仕方なかった。

 これで本当に陸が離れて行ってしまうかもしれないんだから。

「奈緒が素直になれないのは俺のせいだね」

 呆れたような溜め息が聞こえた。

 ああ、やっぱり陸が好きなのは私じゃないんだ。

 ならせめて今だけは好きにいさせてほしいな。

 止まっていた涙がまた出てきて、何も見えなくなる。

「俺の好きな娘は奈緒だよ。怒る顔も、泣く顔も、喜ぶ顔も、全部好き。でもさ、一番好きなのは笑顔なんだ」

「え?」

 聞こえた言葉が信じられなくて馬鹿みたいな声が出た。

 本当に陸は私が好きなの?

「俺のために笑って、奈緒。そしたら一生だって愛せるからさ」

 それはクリームたっぷりのケーキよりも甘い言葉で、陸は愛おしい物のように私を見ていた。

 その顔は今までみたどんな顔よりもかっこよくて、都合のいい夢だと思った。 

 だけど落ちる涙を拭いてくれる手の温かさは現実だった。

 涙でぐちゃぐちゃな顔だけど、頑張って出来る限りの笑顔を浮かべて見せる。

「私も好きだよ、陸」

 抱きしめられる腕に力がこめられて、隙間がないくらいくっつく。

 いつも余裕がある陸の心臓が早く脈打ってることがおかしくて、つい笑ってしまう。

 縫い包みが腕から落ちて、裏やしそうに見ている気がした。

 観覧車が一番下に降りるまで、私と陸は抱き合っていた。

 待ち構えていた樫木さんを陸ははっきりとふった。

 樫木さんは私を睨みつけたけど、何もいわなかった。

 



 すっかり真っ暗になった帰り道を街灯が頼りなく照らす。

 でも隣に陸がいるから心細くない。

 おとん、心配しているかな。

「遅くなっちゃったね」

「そうだね。心配してると思う」

 道には誰もいない。

 本当に二人きりだ。

「奈緒」 

 不意に名前を呼ばれて、俯いていた顔をあげて見えたのはドアップの陸の顔。

 驚く前に唇に温かくて柔らかい物が触れた。

「ファーストキスもらっちゃった」

 少しだけ離れた陸の顔は悪戯が成功した子どものように満足気だった。

 ようやく何をされたか理解した私は首から上が熱くなる。

「ばか!」 

 人目がないとはいえこんな場所でするとか変態だとか。

 ムードがないだとか。

 タイミングが悪いだとか。

 なんでファーストキスだって知ってるだとか。

 いいたいことがたくさんあったのに言葉にできたのはたった二文字だけだった。

 陸はおかしそうに声を上げて笑う。

 なんだかまた馬鹿にされたような気がして、きつく陸を睨みつけた。

「あんまり(あお)らないでくれる?」

 片手で顔を隠して困った顔をする。

 何を煽ったんだろう?

「あー。これだから無自覚は。ほんと質悪いよ」

「無自覚で悪かったね!」

「いや自覚されても嫌だけど」

「だったらどうしろというのよ?」

「んー。やっぱりそのままでいいや。ただし俺以外の他の男に気をつけてくれればそれで」

 まさか浮気を疑われてる!?

 ただでさえ友達が少ないのにそれはあんまりだ。

「陸じゃない他の男の人を好きにならないよ!」

 私の気持ちがどれだけ本気なのか、力説する。

 これでわかってもらえなかったら拗ねてやる。

「ねえ?その勘違いわざと?絶対わざとだよね?」

 少しだけ顔を赤くした陸が私へ詰め寄る。

 何を勘違いしたっていうんだろう?

「あー、もう!奈緒ってほんと馬鹿だよね。何考えてるのかさっぱり理解できないよ」

 陸に比べたら頭が悪いのは自覚してる。

 だけど彼女に向かってそのいい方は酷い。

「陸に比べたら誰だって馬鹿でしょ!私限定で馬鹿呼ばわり禁止!」

「じゃあ、あほ?」

「あほも禁止!」

「じゃあ可愛い?」

「馬鹿にしてるんでしょ!」

「けっこう本気なんだけどな」

 私の顔を覗きこむ、陸の顔はやっぱり綺麗で見惚れてしまう。

 陸の方がずっと私をドキドキさせる。

「俺の可愛い奈緒、家に帰ろう?皆待ちくたびれてるよ」

 耳元で囁かれれば心臓が飛びてそうなほど、激しく脈打つ。

 でもちょっと待って、陸は今なんといった?

「待ちくたびれてる?」

「今年も尚太郎さん達が張り切って準備してたよ」

 陸は悪魔みたいに口の端を釣り上げる。

 今日、会った時にはすでに嘘だってバレてた。

「ごめんなさい」

「うん。許さないよ」

 即答されてしまった。

 目が本気で超怖い。

「毎年、クリスマスを一緒に過ごすなら許してあげてもいいよ」

 破格の条件に私は激しく首を縦に降る。

 上から目線なのに、それすら陸らしいと許してしまえる。

「じゃあ今年は家族と一緒にね」

 陸は珍しく素直に笑った。

 素直な陸の笑顔はきっと皆を幸せにする力がある。

 それを私だけに向けてくれることが嬉しくて、私も笑顔を返した。

 来年も、再来年も、その次も。

 私はずっと陸と一緒にクリスマスを過ごす。

 根拠はないけど、なんとなく信じられた。

  

 ポップコーンはスタッフが美味しくいただきました(笑)

 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

 

 ケンカップルというジャンルを知り、いてもたってもいられず書いた作品です。

 ケンカップルいいですね。

 実際に書いてみると口が悪い少年とわがままな少女になりました。

 解せぬ。


 良かったら感想等をいただけると嬉しいです。

 別に感想次第で連載にしようとは考えてないですよ。

 ええ、全く、本当です。

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