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13話・太古の森

*前回までのお話*

氷の国を訪れたゼルジー達は、冒険の末、やっと金属の魔法使いを見つけ出すことができた。

挿絵(By みてみん)

 翌朝も3人は朝早くに起き、簡単な朝食を済ませると、バスケットにサンドイッチを詰めて出かけた。

「今日行くところは『太古の森』って言ったわよね?」リシアンが確認する。

「そうよ、リシー。石ばっかりのつまらない国。でも、あの魔法使いは、なんだか含みを持たせていたわね」

「まあ、いいさ。『氷の国』みたいな危険はないだろうし、行ってみれば、どんなところかわかるんだからね」パルナンは言った。

 いつものように、うろの中へと入っていく。



〔リシアン女王、ゼルジー、パルナン、そして金属の魔法使いは、2番目の扉をくぐっていった。

「どこもかしこも石ばかりだわ」ゼルジーの観察通り、すべてがコンクリートのように灰色の世界だ。ごつごつとした岩の塊があちらこちらに転がり、遠くには岩棚らしいものが広がっている。

「あれが太古の森だ」と銀のローブの男が指差した。

「森だって? あれがかい? どう見ても、ただの岩山じゃねえか」パルナンは言い返す。近づいてみると、確かにそれらは樹木なのだった。

「驚いたわ、石でできた木なのね」リシアン女王は感嘆の声をあげる。

「正確には化石だ」と銀のローブの男。「ここにあるすべてのものは化石なんだ」

「ああ、だから『太古の森』なのねっ」ゼルジーは合点した。

「ということは、大昔は本物の木が立っていたんだな。いったい、どうしたわけでこんなになっちまったんだろう」パルナンが首を傾げる。

「この国の寿命が来たのさ。生物は死に絶え、人々からも忘れ去られた。永い永い年月が経ち、そのまま化石になったんだよ」


 よく見ると、転がっている石や岩も、かつての形を残していた。草であったり、三葉虫だったり、イヌやネコなどの小動物もあった。

「それにしても、何もかも灰色で、どう進んでいいかわからないわ。あなた、わかる?」リシアン女王は銀のローブの男に聞く。

「さあな、おれもここは詳しくない。兄貴は退屈しのぎに、マウンテンサウルスの化石を探しに行くと言っていた。そいつがどこにあるのかさえわかればなあ」

「名前からして、ずいぶん大きそうね。こんなうっそうとした森に、そんな恐竜なんか住んでいたのかしら」ゼルジーは疑問を投げかけた。

「そうね。小さな恐竜ならともかく、大きな生き物はもっと広い場所にいたはずだわ」リシアン女王が考え考え答える。

「この森はどこまで続いてるんだろう。行けども行けども、同じような風景ばかりで、なんだかうんざりしてきちまったよ」パルナンはふうっとため息を漏らた。

 気が滅入っているのは、何もパルナンだけではない。口にこそ出さなかったが、リシアン女王もゼルジーも、早くこの森から抜け出したいと願っていた。

 動くものひとつなく、しんと静まり返った、文字通り死の森だ。心まで暗くなるのも当然のことだった。いくら歩いてもこれといった変化が見当たらず、まるで同じところをぐるぐると回っているよう気がする。


 そんな4人の気持ちが通じたのか、突如として森が拓けた。

「どうやら、ここはかつて湖だったらしいな」銀のローブの魔法使いが言う。

 すっかり干上がった湖底には、大きさも形も様々な生き物達がそのままの姿で化石となって転がっていた。

「あの中に、マウンテンサウルスがいるんじゃないかしら」ゼルジーは希望を言葉に込める。

「いいや」銀のローブの男が否定した。「マウンテンサウルスはとにかくでかいと聞く。見たところ、大きくてもせいぜい中型の恐竜だろう」

「あなたのお兄様、せめて何か目印でも残してくれたらよかったのに」リシアン女王はすがるように声をかける。

「底に降りて、何かないか調べてみようぜ」パルナンが駆け出した。ほかの3人も差し当たってすることがないので、パルナンの後に続く。


 広い湖を散らばって探索していると、ゼルジーが大声でみんなを呼んだ。

「ねえっ、これは何かしら?」

 全員がゼルジーの元へ集まる。ゼルジーの指差すものは、脆くなって崩れた化石の1つだった。

「人が踏んだ跡のように見えない?」とゼルジー。

「なるほど、確かに」銀のローブの男もうなずく。

「ここを通ったんだ!」パルナンは叫んだ。

「足跡は南のほうに向いているわ。ほら、ちょうどあの山よ」

「よし、行ってみよう」銀のローブの男が足を向ける。行き先がわかったとあって、一同はがぜん、やる気が湧いてきた。


 相変わらず殺風景な森が続いたが、少なくとも登り道であり、多少は気晴らしとなる。

「けっこう登るな。見た目よりも、ずいぶんと高い山だぞ」パルナンは少しじれはじめる。

「もうちょっとよ、パルナン。ほら、そろそろてっぺんが見えてきたわ」ゼルジーが先のほうを指さした。

 ほどなく山頂にたどり着き、一同はほっと息をつく。

「上まで来たが、これといってめぼしいものもなさそうだな」辺りをまんべんなく見渡したあと、銀色のローブの男が結論づけた。

「きっと、この山を越えて向こう側へ行ったんだわ」リシアン女王は推測する。

「あっちも、果てしなく化石の森が続いているわね。取りあえず、降りていってみましょう」ゼルジーが促した。

 下りは非常に急で、転げ落ちないよう慎重に降りていく。平坦な場所に立って振り返ると、崖にポッカリ空いた大きな穴が見えた。


「怪しいな、あの洞穴。絶対、何かあるぞ」パルナンが言い出す。

「中を見てみましょう。どうせ、ここは死んだ森なんだし、怪物なんて出やしないと思うわ」ゼルジーのこの意見に全員が同意し、洞窟へと入ってみることにした。

「暗いわ。パルナン、火を灯してちょうだい」リシアン女王が言うと、

「よしきたっ」指をパチンと鳴らし、炎を出現させる。がらんとして、何もない洞穴だった。岩肌はつるんとしていて、虫1匹見当たらない。それどころか、道中どこにでもあった化石すらなかった。

 入り口からほんの10メートルばかり進んだところで、ごろごろという地響きを耳にする。何事かと思う間もなく天井が崩れ、あっと言う間に入り口を塞がれてしまった。

「大変っ、閉じ込められてしまったわ!」リシアン女王は慌てて入り口に駆け寄る。銀のローブの男が力いっぱい岩を押してみたが、びくともしなかった。


「とにかく、奥へ行ってみよう。別の出口があるかもしれない」

 炎の明かりを頼りに進んでいくと、奇妙な岩に出くわす。

「ここだけ岩がぽつんとあるわ」ゼルジーは不思議に思った。

「あら、これ化石だわ。人が座っているように見えない?」リシアン女王が気づく。

「パルナン、火をもっと近づけてくれ。よく見えるようにな」銀のローブの男が言った。

 よくよく見ると、ローブに身を包んだ姿である。

「やはり、そうか。これはおれの兄貴だ。長いこと座り込んでいたんで、化石になっちまったんだな」

「まあ、どうしましょう。わたしの治癒の魔法でも、化石を元に戻すことはできないわ」リシアン女王はうろたえた。

「なあに、掘り出してやればいい」金属の魔法使いは、虚空から大きな金槌を取り出すとそれを振り上げ、一気に叩き下ろす。化石は粉々に砕け、中から金のローブの男が現れた。

「お前か。久しいな。よく、ここがわかったものだ」金のローブの男がのんきそうに口を開く。

「あなたが土の属性の魔法使い?」リシアン女王は聞いた。

「うむ、いかにも。君たちは誰かな?」

 そこで、ゼルジーはこれまでのいきさつを余さず話すのだった。


「なるほど、元素の魔法使いが再び5人集まったというわけだね」と金のローブの男。「では、ぐずぐずしてもいられまい。ここを出て、魔王を倒さねばな」

「それが、落盤で入り口を塞がれてしまっているんです」リシアン女王が言った。

「どうということはない」金のローブの男は、よっこらしょと立ち上がる。入り口にたどり着くと、花を手折るよりも楽に岩を押し退けた。「わたしは土の属性だ。力にかけては誰にも引けを取らん」

「それにしても、兄貴はこんなところで何をしていたんだ?」銀のローブの男が聞く。

「マウンテンサウルスを見つけたのだよ」

「それって、どこにいやがるんだ?」パルナンは辺りを見回した。

 金のローブの男はからからと笑い、

「ここはそいつの腹の中だ。君たちが苦労して越えてきた山こそが、マウンテンサウルスの化石だったのだ」〕



 うろから出てきた3人の表情は明るかった。

「もう1人も見つかったわね」ゼルジーは興奮冷めやらぬといった様子である。

「ついに5人そろったんだわ」リシアンも両手を胸に組んで感極まった声を絞り出した。

 そんな2人に、パルナンが言う。

「これからが本番さ。魔王を探し出し、封印しなくっちゃならないんだからね」

*次回のお話*

14話・ロファニーとベリオス

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