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11話・不吉な兆し

*前回までのお話*

パルナンの空想が、とんでもない強敵を産み出してしまった。ゼルジー、リシアン、そしてパルナンが3人がかりでもかなわない。物語は行き詰まってしまった。

 リシアンは、居間で父と母が話をしているのをたまたま聞いてしまった。

「ウィスターさんは、いよいよ土地を手放すようだね、クレイア」

「ええ、そうなのよ。市がこっちのほうまで道路を敷きたいらしいの。以前から、ウィスターさんと交渉をしていたらしいわ」

「あの森も、すっかり無くなってしまうわけだ。この辺りもたくさんの店ができて、賑やかになることだろうな」リシアンの父ダレンスが言う。

「そうなるでしょうね。いいことか悪いことか、わたしにはわからないけれど」

 近いうちに森がなくなってしまうですって? リシアンは慌てた。急いでゼルジーのもとへと行くと、たったいま聞いたことを話す。


「それほんと?」ゼルジーはびっくりして聞き返した。

「ええ、確かにそう言っていたわ。わたし達、もう『木もれ日の王国』へ行けなくなってしまうのね」

「どのみち、あの国へ行ったところで、ぼく達には何もできないんだけどね」そばで聞いていたパルナンがぼそりとつぶやく。

 2人は思い出した。魔王ロードンが現れ、しかも全員が力を合わせてもかなわなかったことを。

「そもそも、魔王を呼び出したのはパルじゃないの」ゼルジーはなじった。

「だから、あれは行きがかりじょう、仕方がなかったんだってば」申し訳なさそうに答える。

「でも、どうにかなるはずよ」リシアンが間に割って入った。「これまでだって、なんとかやってきたじゃない。きっと、解決する方法があるに違いないわ」

「うん、そうだね、リシアン。ぼく達でなんとかしなくちゃならないよ」

「じゃあ、行ってみる? 『木もれ日の王国』へ」とゼルジー。

「ええ、行きましょ。そして、魔王ロードンを倒す方法を見つけるのよ」

 3人は森へと出かけていった。



〔「木もれ日の王国」は昼間だというのに真っ暗闇だ。魔王ロードンの呪いに違いなかった。

「魔王を倒さない限り、この闇がずっと続くんだわ」リシアン女王は不安げに空を見上げる。

「魔王はいったい、どこにいるのかしら?」ゼルジーも気味悪そうに杖を握りしめた。

「おいらのじいちゃんなら、わかるかもしれない」とパルナン。

「あなたのおじい様って、妖精の森の長だったわよね」リシアン女王は思い出した。西の森のさらに奥深いところに、妖精の森はある。

「そうさ。なんてったって、めちゃくちゃ長く生きてるんだからな。きっと何か知っているはずだ」

「陛下、ここは妖精の長に会ってみる必要がありますわ」ゼルジーが提案した。

「そうね、有益な情報を持っているに違いないわ」リシアン女王はパルナンに向き直ると、「パルナン、あなたのおじい様、妖精の長のところへ案内してちょうだい」

 パルナンがうなずく。

「ああ、わかった。もしかしたら、魔王を倒す方法を教えてくれるかもしれない」


 一同は、妖精の森を目指して出発した。

「それにしても暗いわ。これじゃ、迷ってしまうんじゃないかしら」リシアン女王が言うと、待ってましたとばかりにパルナンが指を鳴らす。頭上にぽっと青白い炎が浮かんだ。

「おいらが火の魔法を使えるってことを忘れてもらっちゃ困るぜ」炎が周囲を照らし出し、無数の木の影を揺れ動かす。「だいいち、森はおいらにとっちゃ庭みたいなもんさ。目をつぶってたって、たどり着けらあ」

 灯りを共にすることができ、リシアン女王もゼルジーもほっとした。

 パルナンの道先案内で、迷うことなく無事に妖精の森へと到着する。

「じいちゃーん、じいちゃんってばよーっ!」パルナンが呼ばわった。すると、暗がりの中から、老人がぬうっと現れる。長く垂れた髪は銀色、顔も髭ですっかり埋もれた小柄な人物だった。

「なんじゃパルナン、騒々しい。この非常時だというのに、いったいどこをほっつき歩いておったんじゃ」老人はいらいらしたような声で叱りつける。


「こんにちは、長老」リシアン女王が一歩進み出た。灯りの中に現れたその顔を見て、妖精の長、リーランスははっとしたように会釈をする。

「これはこれは、女王様。こんなへんぴなところまで、わざわざおいでくださるとは。それに、そらちにおいでなさるのは魔法使いのゼルジー様。そろって、いったいどうなされたんですかな?」

「実は、この闇のことで――」ゼルジーが言いかけると、

「そうなんですじゃ。実にゆゆしきことが起きましたな。よからぬ気配が漂っておりますぞ」

「それなんですが、あのう――」今度はリシアン女王が話そうとする。

「まったく、いったいどこのどいつじゃ。こんな悪さをしでかすのは」

「それ、おいらのせいなんだ」パルナンが白状をした。

「やはり、おまえか、パルナンっ!」リーランスは拳を高く持ち上げて怒鳴りつける。「なるほど、そういうことでしたか女王様。このパルナンめが、またしてもとんでもないいたずらを。ええ、わかっとります。みっちりと灸を据えてやらねばなりますまい」


 リシアン女王は困りながらも訴えた。

「いえ、そうじゃないんです、長老。確かに、きっかけを作ったのはパルナンですが、わたし達がいけなかったんです。『禁断の扉』を開いてしまったんですから」

「なんですとっ!」リーランスは腰を抜かさんばかりに驚く。「あの扉を開いてしまったですと? すると、ロードンめの封印が解かれてしまった、そうおっしゃるんですな?」

「ええ、そうなんです」大変な剣幕に、ゼルジーは力なく答えた。

「これはえらいことになったわいっ」リーランスは落ち着きなく、辺りをうろうろと歩き回る。

「わたしとゼルジー、それにパルナンで力を合わせて戦ったんですけれど、まるで歯が立ちませんでした」

「そうでしょうとも」とリーランス。「奴は、5大元素の魔法すべてを操れるのですじゃ。立ち向かうには、5人の魔法使いがそろわなくてはなりませぬ」

「5人の魔法使い?」ゼルジーが聞いた。


「さよう。それも、ただの魔法使いではありませぬ。それぞれが5つの属性を持っていなくてはならなりませぬ」

「あなたはなんの属性を持ってらっしゃるんですか?」リシアン女王が尋ねる。

「じいちゃんはただの魔法しか使えねえよ」代わりにパルナンが答えた。

「そう、わしには元素の属性がないのですじゃ」リーランスは悲しげに首を振る。

「でも、あと2人どうしても必要だわ。金属と土よね。どこかにいないかしら、その属性を持った魔法使い」ゼルジーはすがるように言った。

「かつて、魔王ロードンを封印した5人の魔法使いがおりました」とリーランス。「なんせ大昔のことですからな。うち3人は常世の国から旅立ってしもうた」


「残る2人はどうしたんだい?」パルナンが聞いた。

「2人は兄弟でしてな。土と金属の属性の魔法使いじゃった。3人の死を見届けた後、金属の魔法使いは『扉の間』の1番目の扉、土の魔法使いは2番目の扉の向こうへと去って行きなさった」

「じゃあ、その2人を見つければいいのね。それで、すべての元素が集まるわっ」リシアン女王はパッと顔を輝かせる。

「1番目の扉って、確か『氷の国』でしたね、陛下」ゼルジーは考え考え言った。

「よしっ、いますぐ行こうぜ、その『氷の国』へさ」パルナンが呼びかける。

「行きましょう、伝説の魔法使いを探しにっ」リシアン女王も声を合わせた。

「ええ、のんびりしてはいられないもの。早く見つけなくちゃね」〕



 パルナンは腕時計を見てびっくりした。夕方の5時をとっくに過ぎている。

「もう、こんな時間じゃないか。今日は帰らなくっちゃ」

「まあ、大変。夕食の時間に遅れると、うちのおかあさん、すっごく怒るのよ」リシアンも慌てた。

「ああ、でも、その2人の魔法使いはほんとうに見つかるのかしら」ゼルジーは懐疑心を捨てきれずにいる。

「この桜の木が切り倒される前に見つけなくちゃいけないんだわ。さもないとわたし達、もう2度と『木もれ日の王国』へ行けなくなってしまうんだもの」

「だからさ」パルナンは力強く声をかけた。「ぼく達、頑張って探し出さなくちゃならないんだ。明日は、朝早くから出かけるとしようよ」

「パルナンの言う通りね。どんな困難が待ち受けていようが、きっと探し出すわ、伝説の魔法使いを!」

*次回のお話*

12話・氷の国

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