みんな来てくれてありがとう! 私、行ってきます!
【さぁ、準備は出来ましたビッチ。今から三棚市に転移するビッチよ】
「うむ、こちらは準備万端だ。七瀬はどうだ?」
「はい、姐さん。こちらも準備ばっちりです!」
「よし、いくぞ!」
早朝の水仙院学園女子寮前、誰もいない清澄な朝だ。
今から三棚市十万人の命を賭けた戦いに向かおうというのに、ここにはたった三人しかいない。
たった三人だけの出陣式。しかし、寂しくもなんともなかった。
ここには一騎当千の二人の乙女と一人の天使がいるのだから。
【では僕の手につかまってください。これからテレポートを開始しますビッチ!】
アダムが両手を広げる。
イブがその右手を、七瀬がその左手を握る。
「待ってください!」
どこからか叫び声が聞こえた。
イブたちの前にキキッと音を立てて車が停まった。
車は一台、二台、三台と増えていく。
そして、路を埋め尽くすばかりの車が大勢で向かってきていた。
たくさんの黒塗りの車が次々と停まっていく。
水仙院学園女子寮の前はあっという間に黒塗りの高級車で埋め尽くされる。
「イブさん!」
先頭の高級車から現れたのは総理大臣の穴部晋之介。
「どうか御武運をっ!」
「総理! まさかそれをいうためにわざわざ……」
「その通りです! 私だけではありません。皆、イブさんに一言挨拶するためにここまで来ました! お気をつけていってらっしゃいませ!」
さらには総理の後ろには内閣副総理、藪幸平が現れた。
彼は総理の横に並んで頭を下げた。
そして、「いってらっしゃいませ」とイブに挨拶をした。
各官僚たちが次々に並んで頭をさげていったのだ。
法務大臣、大橋太郎「いってらっしゃいませ」
外務大臣、総武正一「いってらっしゃいませ」
文部科学大臣、荒巻良平「いってらっしゃいませ」
厚生労働大臣、武田純一「いってらっしゃいませ」
経済産業大臣、緒方信也「いってらっしゃいませ」
国土交通大臣、小田一樹「いってらっしゃいませ」
環境大臣、牧野順平「いってらっしゃいませ」
内閣府特命担当大臣(経済政策担当)、三浦信一郎「いってらっしゃいませ」
内閣府特命担当大臣(防災)、樋口秀行「いってらっしゃいませ」
内閣府特命担当大臣(科学技術政策、宇宙政策)、菅浩二「いってらっしゃいませ」
内閣府特命担当大臣(地方分権対策)、大久保正信「いってらっしゃいませ」
内閣府特命担当大臣(規制改革)、松坂正二「いってらっしゃいませ」
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全、少子化対策、男女共同参画)、山崎進「いってらっしゃいませ」
防衛大臣、加藤勉「いってらっしゃいませ」
内閣官房長官、鈴木孝之「いってらっしゃいませ」
国家公安委員会委員長、花田良治「いってらっしゃいませ」
内閣府副大臣、小杉正志「いってらっしゃいませ」
内閣府大臣政務官、徳重幹久「いってらっしゃいませ」
アナベベ内閣の閣僚たちが全員集合して頭を下げていた。
その光景に七瀬たちは息を飲む。
「な、内閣府の面々が勢ぞろいしてる……。あたいはとんでもない人を相手にしてたんだ」
【すごい顔ぶれビッチ……】
「実るほど頭が垂れる稲穂かな。お前たち……。気持ちは受け取ったぞ!」
しかし、お見送りはそれだけではなかった。
「あ、あれは!? 都知事じゃないかい!?」
【ホントだビッチ! 都知事まで来てくれたビッチ!】
「都知事だけじゃないようだぞ!」
東京都知事、村上健介「いってらっしゃいませ」
神奈川県知事、二宮浩二「いってらっしゃいませ」
埼玉県知事、西山圭人「いってらっしゃいませ」
千葉県知事、金山栄一「いってらっしゃいませ」
山梨県知事、草刈博「いってらっしゃいませ」
……その他24県知事『いってらっしゃいませ』
「お知事さんまで勢ぞろいしてる……」
【これまたすごいメンツビッチ……】
都知事が代表してイブに書状を渡す。
「残りの県知事も来れないことを残念がっていました。しかし、電報を預かっております」
「おお、ありがとう」
さらには制服組が現れた。彼らがするのは敬礼だ。
警視総監、須藤雄一郎「いってらっしゃいませ」
警視庁刑事部長、河野正則「いってらっしゃいませ」
警視庁捜査一課課長、富田将太「いってらっしゃいませ」
警視庁機動捜査隊長、古木洋介「いってらっしゃいませ」
警察庁東京警察署署長、水谷隆文「いってらっしゃいませ」
東京消防庁消防総監、高坂幸一「いってらっしゃいませ」
陸上自衛隊幕僚長、秋田純一「いってらっしゃいませ」
海上自衛隊幕僚長、沢村三郎「いってらっしゃいませ」
航空自衛隊幕僚長、隈本淳「いってらっしゃいませ」
その他、警察幹部25名、消防庁幹部7名、自衛隊幹部23名『いってらっしゃいませ』
「これはいかつい……」
【男くさいビッチッ!】
「ふふふ、こいつらはみんな私が手をかけて育てた連中よ……」
さらにさらにお見送りの面々は続々と現れた。
日本銀行総裁、日高銀一「いってらっしゃいませ」
関東東京大学学長、志田重雄「いってらっしゃいませ」
国立衛生大学病院院長、柴崎輝夫「いってらっしゃいませ」
水仙院学園理事長、千石瑞樹「いってらっしゃいませ」
東京国立がんセンター所長、大石一輝「いってらっしゃいませ」
国立感染症センター所長、川崎義信「いってらっしゃいませ」
日本柔道連盟会長、敬重鷹新「いってらっりゃいませ」
日本プロ野球コミッショナー、鹿島正「いってらっしゃいませ」
日本ボクシング協会会長、又吉輝彦「いってらっしゃいませ」
日本セパタクロー連盟会長、瀬川信太郎「いってらっしゃいませ」
日本経済連盟会長、東島西彦「いってらっしゃいませ」
豊川自動車社長、豊川悦男「いってらっしゃいませ」
ソニックウェルズ社長、松島市松「いってらっしゃいませ」
その他、有識者38名、スポーツ関係者12名、大企業社長39名『いってらっしゃいませ』
「経済界の大物が続々と……」
【スポーツ界の大物までいるビッチ】
「うむ!」
さらにさらにさらにお見送りの面々はまだまだ現れる。
駐日アメリカ合衆国大使、マイケル・ブラウン「ガンバッテネー!」
アラブの大富豪、アブドル・アブレイユ「ガンバッテネー!」
外資系証券会社フェラデラックス社長、フェルナンデス・ポールマン「ガンバッテネー!」
その他よくわからん外人389名『ガンバッテネー!』
「外人多すぎでしょ……。日本人より多いし」
【もう何語を喋ってるかわからないビッチ!】
「外国語を習得するにはその国の男を虜にするのが早いからな」
食品スーパー『びちのや』水仙院学園前店店長、若島俊夫「また買い物に来てね」
スーパー銭湯『みずみずしいの!』店長、川口恭子「いつでも待ってるわよ」
スナック『恵子のはな』ママ、水島良子「また来てね」
怪しげな画伯、元成陽水「またモデルになってくれんかのー?」
近所の野良猫のボス、ベルベッド・オルガ「にゃーん」
「なんか急に庶民的になった……」
「にゃーん」
「まさか、ベルベッド・オルガまで来てくれるとは……」
「姐さんが猫に一番感動している……」
【やっぱりぬこが一番だビッチ! 僕もぬこ派だビッチ!】
「にゃーん」
ベルベット・オルガは口にくわえていたものをイブの前に置く。
「これは、マタタビ? ……また、たび。また、旅。『良い旅を』ということか!」
「にゃーん」
イブは屈むと猫を撫でた。オルガは一しきり撫でられると、くるりと背を向けて歩いて行った。
その姿を見てイブは呟く。
「……お師匠」
「師匠だったの!? あの猫!?」
【ぬこ>イブさん>総理だったビッチ! この国は実はぬこに支配されていたんだビッチ!】
イブは立ち上がる。
「ここに来てくれた皆が私に力をくれている。見ろ、七瀬! アダム! これが私の力だ!」
「はい、もう姐さんの力を疑わないよ! 姐さんは日本一、いや世界一の乙女だ!」
【その通りビッチ! イブさんなら誰にも負けないビッチ!】
「では今度こそ行くぞ! 三棚市になっ!」
上空では自衛隊の戦闘機が飛び交い、街では男どもが歓声を上げる。
自衛隊の管弦楽団が演奏を開始し、イブはそれに応えるようにアダムの尻を叩く。
情熱的なケツドラムが奏でられた。
【アウッ! スパンキングミー! もっと激しくビッチ!】
寮からもたくさんの女子たちが横断幕を掲げた。
「イブ様ー!」「頑張ってくださいましー!」「キマシタワー!」
イブほどのモテ女なら同性からもモテモテなのだ。
イブが手を振ると、女子たちが感動して失神した。
【では、本当に行きますビッチ! ああああああああッ! いくぅ! いぐうううぅッ!】
たくさんの見送りの中、アダムは自らの股間に力を集中させる。
股間から眩いばかりの光が溢れると、そのまま光に飲み込まれ、徐々に天空へと昇っていった。
そして、光が消え去ると、三人がいた場所にはもう何もなくなっていた。
「イブさん……」
その呟きは誰の言葉か……。ここに集まった者たちの想いはひとつだけだ。
イブたちはその想いを胸に新たなる戦いの渦中に身を寄せるのだ。
ああ、なんと可憐な乙女なのか!
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そして、サンタナ市郊外。殺風景な荒野に食卓を広げる乙女がいた。
ちゃぶ台の上にはおかずはない。ただ、一人のギタリストが彼女のために渾身のギターをかき鳴らしていた。
『ギャイン ギュイン ギュイイイイイィンッ!!』
シンガーソングライター、斉藤エイジ。『情熱のサンターナ』の攻略キャラの一人だ。
一人身の孤独なギタリストは『主人公』初雪楓恋がチョッカイをかけなければ、新房くいなの『恋人』となるシナリオだった。その彼がたった一人のためのプライベートライブだ。
そして、それを見つめる一人の淑女。彼女のおかずは彼の曲だ。彼女は今日もエイジのギターで飯を食う!
スリムな身体に瑞々しい肌。健康的な魅力にあふれる外見。彼女の名は新房くいな。『土』の乙女五芒星、新房くいなだ。
「来た来た来た来たーッ! なんか来たのね! 結界の中に何かインしたのねッ!!!!」
彼女の片手には巨大な丼が。そして、そこにはてんこ盛りの炊き立ての白米が湯気を立てていた。
「旨い旨い旨い旨いーのねッ! ご飯旨過ぎなのね! 激ヤバ! こら絶頂もんなのねッ! 来た来た来たァーッ!!!!!」
そして、くいなは丼の白米をかき込む。エイジの荒ぶるギターと、くいなの咀嚼音が奏でるハーモニー。それは絶妙な響きを持って荒野に木霊する。
「ハムッ『ギュイイイインッ!』ハフハフ、『ギャンギャイイン!』ハフッ!!」
まず白米ありき。それが彼女の信条だ。
『土』の五芒星、新房くいな。またの名を『腹ペコヒロインのくいな』。
彼女の脅威がイブたちに迫る。果たして新房くいなは如何にしてイブに敗れるのだろうか……。