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イブさんといっしょ! ~乙女ゲー編~  作者: 岡サレオ
乙女ゲー世界編~『剣聖』桃花編
16/26

ジャッカルと遊ぼう!

 

 イブたちが麗奈を倒しにいって、ちょうど一時間が経過した。

 彼女たちは見事に麗奈こと明子を倒し、ガリ勉女にして、意気揚々と帰還したのだ。

 帰ってきたイブは早速、美代子のダイエットプランの進行状況を確認する。


「姫条院麗奈を倒してきたぞ。美代子よ、どれくらい走ったのだ?」

「ふひぃ、三周も走ったのね……」


 イブは驚愕した。一時間で三周。600メートルしか走っていない。

 普通に歩いても、もうちょっといけるというものだ。


「全然ペースが落ちているではないか! どういうことなのだ!?」


 イブは怒りながら、ケツホリーたちに状況を尋ねた。


「それが、師匠。こいつは師匠が見てないとダメですぜ。

 さぼり癖が染みついてやがります。

 殴るとか、無理やりにでも、いうことを聞かせなきゃ、動かねぇ。

 俺は女に興味はないから、敵なら女でも殴っちまえる男だが、武人としては無抵抗の人間を殴ることはできないですぜ。無抵抗の男ならいつでも掘ってやりますが……」

「俺の『ギャン』ソウルフルな『ギャギャン』応援ソングも無意味だった『ギュイイーン』!

 俺は歌手として、もうダメだ『ギャギャーン』!!」

「な、なんということだ……」


 美代子をにらみつけるイブ。

 にらまれた彼女は言い訳するように、地面に寝転がった。


「もう無理なのね! 嫌なのね! 走りたくないのね!」


 子供みたいにわぁと泣きながら、地面でジタバタしている美代子。

 この様子に呆れながら、七瀬たちがイブに進言した。


「姐さん、こいつは姐さんでも更生は無理だ。ほっとこうよ」

【イブさん、目的をはき違えてはいけないビッチ。イブさんはサンタナ市を解放するために、ここまで来たんビッチ! ダイエット指導しに、来たんではないビッチ!】


 イブは溜息をついた。


「むぅ、とりあえず後回しにせざるをえないな」

【そうビッチ! 時間は有限ビッチ。では、次は誰を倒すビッチ?

 水の鮫島朱里? 風の鳥野美羽? それとも、火の不知火桃花ビッチ?】


 不知火桃花という名前に、七瀬はピクリと反応する。


「不知火桃花か。もしも、あたいの知っている不知火と、そいつが同一人物ならば、姐さん! 奴は強敵だよ」

【知ってるビッチか? 七瀬さん!】

「有名だよ。裏稼業に身を置く人間で、『剣聖』不知火桃花の名を知らない奴はいないさ。

 てめえの正義を振りかざして、剣一本で『悪』と断じた組織に殴り込みをかける、クレイジー女さ。

 相手が暴力団でもマフィアでも関係ない。見境のない狂犬みたいなやつさ」


【そんな命知らずがいるビッチか】


「しかし、奴は強い!

 あいつに潰されたマフィアや極道は、数知れない!

 世界最強の剣士の称号『剣聖』の名は、伊達じゃないってことさ!

 だから、あたいらの間では、『剣聖、不知火にだけは手を出すな』って不文律があるのさ」


「確かに、私も剣聖の名は、聞き及んだことがある。私と同じくらいの歳の、少女だということもな。その暴力性は、若いのに大したものだ」

「姐さんは、日本社会の裏側で暗躍していたから、あたいは知らなかったが、不知火はそういうのを隠すことのない、暴れっぷりだったからね」


【不知火さんは、三棚市出身の剣士ビッチ。

 この情熱のサンターナ製作中に、ぶらりと故郷に立ち寄ったそうで、その面白い経歴と美貌から、ゲームへの出演を依頼されて、ライバルキャラとしてでることになった、実在の人物ビッチ。

 しかし、その設定はフィクションなので、盛っていると思っていたら、現実でもそんな漫画みたいな経歴の人物だったんだビッチ】


「なるほど、正しいか、正しくないか、はともかくとして、自分の中の『正義』にはこだわりのある人物のようだ」


 イブはひとり納得するように頷くが、眉間にしわをよせて、唸り始めた。


「しかし、ならば腑に落ちない。

 そのような人物が何故、悪魔に手を貸す。悪魔はこの市内の十万人の市民を、生贄としようとしているのに……」


 その答えを出したのは、アダムだ。


【多分、不知火さんは、というより、『乙女五芒星』は、その生贄の事を知らないのではないビッチか?】


 イブはアダムの意見になるほど、と頷くと、地面でジタバタしていた美代子に尋ねた。


「おい、美代子! 起きろ!」


 美代子はピタリと動きを止めて、顔を上げる。


「なんなのね?」

「貴様は悪魔の目的を知っていたか?」

「え? 知らないのね? あたしはお腹いっぱいになってチヤホヤされれば、それでよかったのね!」

「その代償が、この街の市民全員の命だったとしてもか?」

「え!? そんな話は聞いてないのね!」


 顔を青くする美代子の様子に、イブは七瀬たちと顔を見合わせた。


「道理で貴様らは無邪気過ぎると思った。やはり、目的を聞かされていなかったか」

「あたしや、姐さんには『殺すKAKUGO』がある。しかし、お前らにそれがなかったのには違和感があったよ」


【ということは不知火さんも他の二人も、事実を知らない可能性があるビッチ。

 下手したら敵のリーダーである初雪さんさえも。

 ……上手くすればこちらに引き入れることが、できるかもしれないビッチ。

 特に、正義感の強い不知火さんなら】


「そうだね! 剣聖を味方に引き入れることができれば、これほど心強いことはないよ!」

【ならば、確定ビッチ。次に向かうのは不知火桃花さんビッチ!】


 しかし、それに異議を唱えたのはイブだ。


「いや、そちらには向かわない!」


 イブが叫んだ。怪訝な顔をしたアダムは聞き返した。


【どうしたんビッチ? 不知火さんではなく、他の二人の方に行くビッチか?】

「いいや、そのどちらでもない!

 今は、それよりも先に片づけなければならない、喫緊の問題がある!」


【乙女五芒星よりも、先に解決しなければならない問題? ……それは、一体?】


 頭の中に疑問符がわきあがっているアダムを尻目に、イブは七瀬に問いかけた。


「七瀬よ。貴様は暴力団の娘なら、この三棚市に巣食う『悪の組織』を知っているな?」

【あ、悪の組織……?】


 いきなり、話の方向性が変わって、目が白黒するアダム。

 しかし、イブはそんなことお構いなしだ。

 イブに問われて、七瀬は強い眼差しでイブの目を見返した。

 

「ああ、知ってるよ。

 あたいらの組も取引をしていたからね。

『ジャッカル』。死の商人!

 武器密輸組織『ジャッカル』の秘密のアジトが、この街のどこかにあるってことはね!」


【え!? ジャッカル? なにそれ!?】


 アダムを置いてけぼりにするイブたちの会話は、さらに止まらない。


「そうだっ!

 私はこの街を巣食う巨悪『ジャッカル』を倒す力を手にすべく、東京へと出ていった。

 長い年月をかけて政府と警察と自衛隊を掌握した。

 そして、『ジャッカル』掃討・壊滅作戦を敢行するところだったのだ!

 今回の件がなければ今頃、警察機動隊と自衛隊によって、三棚市のジャッカルを壊滅するために軍事作戦が遂行されていたはずだったのだ!」


「ああ、政府が『ジャッカル』を潰そうと躍起になってることを知って、あたいらの組は奴らとの取引を止めたんだ。その裏に、姐さんが絡んでいたとはね」


「だから、『ジャッカル』は、私を始末しようと血眼になっている。

 そして、『乙女五芒星』の二つを倒した今、この私が街に潜入したことが『ジャッカル』に発覚している可能性がある。

 ならば、七瀬。私の考えていることがわかるな!

 清楚可憐な乙女と、血に飢えたヤクザが唯一共有する一つの理念を!」


 このイブの問いに七瀬は迷いもなく答えた。


「ああ、『やられる前にやれ』! 『ジャッカル』は今から、あたいたちが潰す!」


 そう、『殺られる前に殺れ』は魔法の合言葉なのだ。

 それこそが、乙女たちにとっての共通する信念なのだ。

 七瀬の答えにイブは、我が意を得たりと、うれしそうな顔をした。


「そうだ! 流石は七瀬だ! 先手必勝、拙速は巧遅に勝る。恋愛事も勝負事もなんでもそうなのだ!」

【あ、あの……】

「敵『ジャッカル』の秘密アジトは三棚市の海岸の洞窟にある!」

「よし! 姐さん! 今から、殴り込みに行くよ!」

「車は既に用意した!」


 イブは黒塗りの高級車を手配していた。

 いかにも、ヤクザが乗りそうな圧迫感を醸し出していた。


「七瀬よ! 私は十七歳だが、お前は十八歳だ! 運転免許は持っているな!」

「もちろんさ!」

「でかした! 私も運転は出来ないことはないが、公道を走ることは無免許運転になってしまう! 運転は貴様に任せるぞ!」

「あいよ! 姐さん!」

【あ、あの……。イブさん?】


 二人は車に乗り込んだ。

 助手席の窓を開けて、イブが矢継ぎ早に指示を飛ばす。


「ケツホリー! 斉藤エイジ! 今から、ここは戦場になる。

 この私とて、貴様らの命を守ってやれる保証はどこにもない!

 今お勉強をしている元姫条院麗奈こと成迫明子と、塩まみれの金梨竜司を保護し、メルルとジェノ婆と共に安全な所に避難しているのだ!」

「師匠! 任せてくれ!」

「合点『ギャギャン』承知の助『ギャルル』!!」

「ようこそ~」

「美代子しゃーん!」

【それじゃあ、僕も安全な場所に避難してるビッチ】


 ケツホリーたちと一緒に避難しようとしているアダムの肩を、イブががっちりと掴んだ。


「アダム、一緒に来い。まだ後部座席が空いているではないか」

【えーっ!? 強引なのは好きだけど、そのドライブのお誘いはちょっと……。痛い痛いっ!】


 イブの指先が力に力がこもり、アダムの肩にミシミシと食い込む。

 これが握力292キロのパワーだ。


【行くから! 地獄の果てまでお供するから!】

「最初からそういえばいいのだ!」


 アダムがそういって、ようやく放した。

 その様子を見ながら、美代子がゆさゆさと身体を揺らす。


「じゃあ、あたしも避難して、ご飯食べてるのね!」

「美代子、貴様も来い!」

「えーっ!?」

「貴様がそんなのんべんだらりと生活して、何も感じられないのは、生きている実感がないからだ。生の実感が。

 そんな貴様は、生き死にの極限の状況まで追い込まれなければ、わからないのだ!

 自分がいかに人生を浪費しているのかを。貴様が無駄にした今日は、誰かが生きたかった今日なのだということを!

 だから、貴様も来るのだ。後部座席はまだ空いている! そして、乙女の生き様を、その眼に焼き付けるのだ!」

「そんな~」


 イブは車から出ると、ぐずる美代子とアダムを後部座席に押し込んだ。


「嫌なのね! そんな戦場にいくなんて嫌なのね! 戦場にはジョニーにでも行かせとけばいいのね!」

「いいから、さっさと乗れ! よし、では、いくぞ!」

「はいよ! 姐さん!」


 エンジンキーを回し、ハンドルを握りしめていた七瀬は、俯いていた顔を上げる。

 その眼は真っ赤に充血して、狂気で爛々と輝いていた。


【げぇ!? なんかすごく嫌な予感がするビッチ!】


 七瀬は怒鳴った。


「どけぇ! あたいの前を走る野郎はぶち抜いてやるっ!」

【ひぃ! 七瀬さんが豹変したビッチ!】

「怖いのね!」


 後部座席で震えながら身を寄せ合う、アダムと美代子。

 しかし、助手席のイブは嬉しそうだった。


「いいぞ! やはり、貴様は私がにらんだ通り、ハンドルを握ると性格が豹変する『暴走ヒロイン』だった! さぁ、七瀬よ! 思う存分走るがいい!」

「うぉおおおおおおっ! ぶっとばすぜええぇえええええ!!!」


 七瀬はアクセルを目いっぱい踏みしめる。

 爆音のような排気音があたりを木霊する。

 イブたちを乗せた黒塗りの高級車は、猛スピードで走り出した。

 速度メーターはあっという間に百キロを超えていた。


【早い早い! もっとスピード落として!】

「きゃぁあああ! 死ぬぅ! 誰か助けてなのね!」


 キャーキャーさわぐ後部座席組と違って、前の二人は本当に嬉しそうだった。


「素晴らしいエンジンの性能だ! これはいい車だぞ! もっとスピードを上げるのだ!」

「うぉおおおおおおおおお! 来いよぉおおおおお!!! 姐さんが乗せてくれた高級車に轢かれたいヤツから前に出ろよぉおおおお!!!」


 猛烈な速度で爆走するイブたちの車は、あっという間に地平線の果てまで消えていった。

 ケツホリーたちは、呆然とそれを見送るしかなかったのだった。


 ******** 


 秘密武器密輸組織『ジャッカル』は混乱していた。

 街の市民が突如として、訳の分からないことを言いだし、さらには、通信も外に出ることさえできなくなってしまったからだ。


 『ジャッカル』の総帥はジャッカルと呼ばれた元、凄腕の殺し屋だった。

 ジャッカルは渋い表情で腕組みをしていた。

 幹部たちが口々に言い合いをしている。


「いったいどうなってるんだ?」

「組織の構成員たちも一部に、訳のわからねえことをいいだしている奴もいやがる」

「昨日まで、まともだったのにこの突然の事態はどういうことだ?」


 そんな時に一人の構成員がゲームを持って走ってきた。握りしめているのは乙女ゲーム『情熱のサンターナ』だ。


「大変だ! ゲームだ! この世界はこのゲームの世界なんだ!」

「また、訳のわからねえことを言う奴が増えちまった……」

「違うんだ! このゲームはこの街をそのままモデルにしてできたゲーム。そこに出演してる奴はそのゲームの役が上書きされちまってるんだ!」

「なんだって!?」

「見ろよ。吉田ポチョムキンのやつをよぉ。吉田は元々、寡黙で潜水艦のように冷徹な男だったのに、このゲームでは怪しげな中国語を操る街の端役として登場してやがる」


 構成員の男たちはゲームの中の吉田と本物を見比べた。

 

『見るあるよー。この銃を! なんと今回限りで一つ買うと、もう一つついてくるあるよ! アイヤー! これはお買い得あるよー!』


 そして、本物の吉田もいまここで、同じセリフを喋っている。


「……ホントだ。どうして吉田が急に怪しげな中国語を話し出したのか、ずっと分からなかったが、これで謎が解けた」

「俺たちのほとんどはこのゲームには出ていないからな。何しろ、このゲームを作ったスタッフたちはこの街に武器密輸組織があるなんて知るはずもないんだから。このゲームにでていない奴だけが正気を保っていられるんだ!」

「一体どうしてこんなことに?」

「大変だぁ!」


 そんな時に別の構成員が走ってきた。

 この男は汗だくになっていた。


「どうしたんでぇ? そんな慌てて?」

「伊吹が、伊吹イブがこの街に来てやがる!」

「何!? あの憎たらしいクソ女が来てるだって!?」

「よくわからねえが、警察と軍部に守られていて手が出せなかったアイツは、どういうわけかほぼ一人で来てやがる!」

「何だと!? 殺すなら今がチャンスだ!」

「おい! 野郎ども、全員表に出ろ! 戦闘準備だ! 伊吹イブを絶対にぶっ殺すんだ!」

「大変だぁ!」


 そこへ、先程とは別の構成員が走ってきた。


「どうしたんだ!? こんな時に?」

「伊吹イブが、このアジトまで向かって来てやがる!」

「何だって!?」

「あの野郎、黒塗りの高級な外車に乗って、明らかにこのアジトまで一直線だ!」

「高級車だと? ピクニック気分か? いい気になりやがって!」

「だが、その車が奴の棺桶になるだろう! ありったけの銃と爆弾を持って来い!」

「集中砲火にしてやる! 蜂の巣だ! 絶対に奴を生かして帰すな!」

『応ッ!』


 応戦の準備を始めた、武器密輸組織『ジャッカル』相手に、果たしてイブたちは対抗できるのだろうか。乙女と死の商人たちとの死闘の幕が切って落とされようとしていた。

 

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