三十首連歌『あゆみ抄』
三十首の短歌でひとつの物語を綴ってあります。
芸術へのひたむきな姿が描かれています。
短歌は自由な感性で解釈を膨らませる事が出来ます。
プロローグ
◆抱めし羽毛の胸の卵らよ パンドラの箱最後のひとつ
◆祝福の歓喜のラッパ高鳴りて現の天使地から湧き出で
◆慈悲飲みて掌の中の稚児すくすくと使命に立てる若人となり
第1幕
◆絹を撫で珠を転がし蜜を浴び至高の美への琴線弾く
◆黄緑の鬱蒼の森 対極を守護る孔雀が扇広げり
◆舞踏手の輝き星は翼もげ天地の波にゆらりゆら揺れ
◆緞帳は天高々な光彩に パブロフの犬 曲芸開始
◆月光の下に輝く宝石の陽に曝される硝子の不安
◆絶望の淵の深さを嘆いては涙のレンズ誤りを増し
◆嗚咽あげ願いはらはら零れ落つ 探し求めた真実の様よ
第2幕
◆人の世の心模様の姿をば百鬼夜行のずいずいと行く
◆滑稽な道化が踊る錯覚の足掻きと喘ぎ隠すペルソナ
◆曼陀羅を背に従えて御座(おは←おわ)します阿修羅の睨む理想苦しき
◆鱗張る魂 禊ぎ削りては眼光試され微笑ありたり
◆控えめな手と手差し伸べ瞬く間 天国の幸ハレルヤ響け
◆学問の真しやかな決然に胸空く希望 果は燦々と
◆芸術の審美は煌めく先駆の眼 盲目のイデア叩き斬る
第3幕
◆たおやかな美しきひと しなやかに あなたのままで お行きなさいな
◆理想あれ つまずきもあれ 舞い踊れ 流す涙の掛橋と成れ
◆天人の選ばれし君苦しかる諸天の舞は降りて踊りて
◆あなた故あなたで在れば それはもう揺らぎなど無く天使として在る
◆わたくしは存在したるあなたには真っ直ぐと前 視ること望む
◆故郷は黙し見守り叱咤あり 強くあれ強くあれと願う
◆苦しみを吐露する君の率直さ 良しとしたるも背筋伸ばせよ
◆あゆみゆく君の背送り励ましと痛む両手で突き飛ばしましょう
◆手も足も鉛となりて沈ませり重たき瞼の光刺しやる
コーダ
◆黎明の時刻を待ちてすやすやと光の卵は眠り給う
◆指先の仕草の綾の物言わぬ決然とする意志の目覚よ
◆宇宙にある紫の霊 背を押せば脆き肉ごと生命果てなく
◆拙くも無垢なる儘に道程は希望の使徒なる あゆみ つづく
芸術への道はこれからも果てしなく続いて行きます。