死操人 〜 Death Player 〜
精神的に不安定な方は読まない方が良いかと思います。ここで登場する彼はこの結末を望んだのか、それを考えてください。
放課後の教室を歩く。一定のリズムを刻む音、だがそれが鈍いのは恐らく履物の仕業であろう。
ガラリと開け放つホームルーム教室。すっかり茜色に染まった、夕暮れ時の人がいない静かな教室は、昼間の喧騒とは嘘の様に別の趣すら感じさせる。
中に入る。そして気づいた。僕はさっきの言葉の撤回をしなくてはならない。人がいない…ではない、“彼”を除く人はいない、が正しいだろう。
彼は彼の椅子に身を預け、顔を天井に向ける。
彼は今、ヘッドホンをして、机に乱雑に置かれた音楽プレーヤーから音楽を聞いていた。時折洩れる低音の音が、僕の耳に届いた。
ただし僕は、そんな彼の目を直視出来ない。
なにも恥ずかしがっている訳では無い。彼が目をヘッドホンの本来アタマに当てるべきところで隠して音楽を聞いているのだ。彼は自分の顔を至極嫌う…いや、彼が嫌うのは顔だけで無く、恐らく自分自身、その総てだろうか。
「…いくら蔑んだ所で俺は動けない、、、」
彼の声が漏れた。
微かだが彼の声は震えていた。
彼は泣いているのだろうか、笑っているのだろうか、それともその両者なのか、はたまた他者なのか、、、
誰にも分からないだろう。彼より彼を知る人物は、例え神と言うモノがいたとしても、この世にも、もしかするとあの世にも、むしろ総ての“世”の中でもいない。
…もしかすると、彼はどの“世”にも属していない心地ではないだろうか。
「…本当のバカを知ってるか?」
唐突に彼の口が開いた。
一人しかいない教室。
彼は静かに、誰に問うているのだろうか?
「…本当のバカってのはさ…自分の愚かさを知ってしまったヤツなんだよ、、、」
彼は言葉を続ける。そして、押し黙る。
彼はなにが言いたいのだろう、僕には分からない。だがやる事は見つかった。僕がするべき事は、彼を救う事だ。
「…だが、君には出来ない。俺は動けないから、、、」
彼は尚も呟く。
そんな事はない。彼は十二分に動ける。彼はまだ死ぬに惜しい。一華咲かせてもないのに死ぬだなんてもったいない。僕しか彼を救えないのだと僕は腹を括る。自然に口元が緩む。
「…お前はいいな、狡くて。だが無駄だ、俺は感情のままに動けない」
感情のままに動けない、それを助けてあげるのが僕じゃないか。僕は狡いかもしれない、だけど彼を救う力を持っている。そう、だから僕は彼を助けなくちゃいけない。僕が彼を救う最後の手段なんだ。
なぜなら、ぼくはかれで、かれはぼくだから。
僕は口元を緩めながら、彼の元へと歩み寄った。
一歩、二歩、三歩、、、
翌日、
彼は、多くの命を奪い、
総てを嘲笑いながら、
美しく死んでいった、、、




