下位モンスターから見た世界とダンジョンと日常のこと
下位モンスターはきっとちまっこい可愛い子。でも素早いし毒槍も持ってるから初心者殺し。
きゅうう、と仲間同士でだけ通じる鳴き声を交し合う。敵は来てないけど森が広がるスピードが速すぎる上にすでに探索した場所でも植物同士がそれこそ目を離した瞬間に絡まり伸び新しい植物を迎え入れて構造を変えていくから僕らは常に情報交換をしていないといけないんだ。迷ったときには植物たちが導いてくれるから僕らは心配ないけど、神子様のお創りになられた種を蒔く上位種の方々のために詳しい植生は把握しておかないといけないからね。
あ、僕は鳥系十二位スパロウランスって種族。雑食だからね!怖がらないでね!
というか、勘違いしてる種族が多くて困るんだけど僕ら魔物ってみんな雑食なんだよね。正確には食物に宿った魔素を食べてるんだから。人をよく食べるのは単に人が魔素を大量に含んでるからってだけ。魔素を食べるから魔物なんだよ。そして人以上に潤沢に魔素を含んでいて、食べられるのが仕事というか生きがいの植物がたくさん生えてるここでは皆草食って感じ。
それにしても、この森と神子様は本当に素晴らしいよね。僕ら魔物を迫害しないし、眷属を受け入れるし、ご飯には困らないよう取り計らってくれるし、温度も調整してくれるし、なによりこの渦巻く魔素と濃密な神気からなる魔窟寸前の環境。もう最高!素敵!過去の神子たちとは雲泥!流石は始まりの神がわざわざ喚んだだけはある!魔物だからって神気が苦手?それは思い込みってものだよ。僕らはむしろこの世界のバランサーなんだし。僕らがいないと魔素が溢れて生き物なんか殆ど生きていけないんだから、脆弱だよね、肉体を持つ生き物って。
でも、神子様は肉体を持ってるけど別格。神の加護を受けて魔素の影響を受けないから。特に森を創った神子様はほんと格が違う。
木々の間を飛びながら考え事をしていたせいかな、突然蔓に絡め取られた。ドライアドさんだ。
ちなみにドライアドさんは魔物ではなくて眷属。意思を持つ木に絡みつかれて共生するから木人っていうらしいよ。
そのドライアドさんがわざわざ絡み取ったってことは、僕に何か用があるのかな?
「急にごめんなさいねえ。ちょっと気になることがあってえ」
困り顔でおっとり言いながらしゅるしゅると蔦から解放してくれる。おっとりで争いごとが好きじゃないドライアドさんが飛んでる鳥族を捕まえるなんてよっぽどの困りごとだ。僕は気合を入れて聞くことにした。
「なんだか境界のほうでえ、ずっと思念を飛ばしてる神様がいらっしゃるのよお。神様だから無碍にもできなくてえ」
頬に手を当てて事情を説明するドライアドさんが、ホウッとため息を吐く。ドライアドさんは木人というだけあって植物と意思疎通ができるので、森の中の情報を把握しているらしい。ただどこにどの植物がどんな風に生えているか、とかはわからないので探索しているわけだ。そしてそれはともかく、ドライアドさんの言う神様って多分昨日一昨日とぼろぼろになってたあの人だろう。
「それは確かに、なんというか・・・」
「面倒だしい、鬱陶しいのよねえ」
「ええ、その、まあ・・・」
僕が濁したことをズバッと言い切って、ドライアドさんは微笑んだ。
その笑顔に体が固まる。おかしいな、ドライアドさんの笑顔は・・・綺麗なのに、何でこんなに怖いんだろう。
「だからあ、神子様にご報告う、お願いねえ?」
「はい、よろこんでー!」
僕は全速力で神子様のところへ飛んだ。僕の本能が、今すぐ行かなければ僕の大事な何かが終わると全力で叫んでいた。
「ん、報告了解ー神様呼んどくから、しばらく無視してるように皆には言っといてー」
僕の報告に対する神子様の答えは実にシンプルかつ、なぜか命の危機を感じるものだった。
あれ、皆って上位の方々にも?想像するだけで血の気が引いた僕の頭を軽く撫でて神子様が笑う。ドライアドさんのとは違って心がほんわかする笑顔。
「皆って言っても同位の子達だけでいいからね。上の人らには遊びに行ってる神様が帰りがてら言ってくれるって」
「はい、わかりました!」
「いいお返事ー。じゃあお願いね」
ひらひら手を振る神子様はまた神殿に篭るようだった。また何か創っているのかな。
今度は美味しい果物がいいな。もちろん魔素たっぷりで!
閑話は短い。本編よりも更に短いごめんなさい。