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トリックス☆スターズ

最強を目指した少女 ~ トリックス☆スターズ

2012/01/22:あとがきに簡単な設定メモを入れました。

2018/08/05:一部加筆修正

 わたしの名前はネフ・インディゴ。歳は14歳。今年の春、マトラ王立魔法学校を主席で卒業した精霊魔法使いだ。

 在学中は学内最強を誇り、魔力測定では他の生徒達と比べて桁違いの魔力を記録した。

 たった1つ納得行かなかったのは過去最高の記録ではなかった事で、現在最強と言われる魔導士が在学中に記録した魔力には及ばないらしい。だけど、わたしの魔力成長速度ならすぐに追い抜くはず。


 ――誰にも負ける気がしなかった


 卒業後、生まれ育った村に戻ったのもつかの間、最強の魔導士になるべくすぐ村を立った。

 向かったのはジヌラと言う、小さいがどこに行くにも交通の便の良い街だ。この街を拠点として活動するつもりだ。

 とりあえず、わたしは魔戦士組合員の登記をする事にした。

「では以上で魔戦士組合への登録は完了しました。以降はそこの依頼ボードの依頼を受けて内容を達成する事で報酬を受ける事が出来ます」

『ん、それは知ってるから大丈夫』

「え……と、あの。一応規則なので申し訳ありませんがお聞き下さい。依頼は難易度によってABCDに分けられています。依頼主の要望で人数の指定がある場合もあります。ともかく最初ですので、なるべくなら難易度Dから始める事を組合では推奨しています」

 わたしは真面目に説明している受付の女性の方を見ず、あからさまに退屈そうな顔をしてあくびをしてやった。

『あっそ、でももう何にするかを決めてるの。この依頼を受けるから登録して』

 わたしは依頼ボードのチケットを、受付の女性の目の前にぽいっと投げた。

「これは……、いくら何でも初回で難易度Aはどうかと」

 煩い女だな、さっさと言われた通りにすればいいのに。

『本当は難易度Sを受けたいんだけど、ある程度の実績を積まないと請けられないんでしょ? 仕方ないから難易度Aで妥協してんだから。時間がもったいないから早く登録してくれない?』

 わたしはさっき投げたチケットのへりを、更に指で弾いて飛ばしてやると、受付の女性の膝の上へと落ちた。

 受付の女性は不満そうな顔をしつつも、登記簿を開いて登録していた。

 全く。魔戦士組合は軍と違って魔法学校と同じ王国直系だから、わたしの情報は伝わっていると思ってたのに。わたしはイライラして人差し指で机をコツコツと叩いていた。


 はぁ……。それにしても最初だからって、このわたしが並の組合員達と一緒に仕事するはめになるなんて。早く凡人の届かないランクSの依頼だけやりたいな。わたしは王国最強の肩書きと、トリックススターズの称号を手に入れて華々しく生きるんだ。


 最初の依頼は4人以上のパーティーが依頼者からの要望だった。しかし集まったメンバーは、いかにもダメそうな連中だったのでがっかりしてうな垂れた。

「あぁ!? なんだこのガキ」

 うな垂れたわたしにそう言い放ったのは、いかにも力押ししかしなさそうな戦士の男だった。傷だらけの鎧で身を包み、無骨で見るからに重そうな戦斧を背中に背負っている。だが、口調からして粗暴だし、使い込んだ傷よりも雑に扱って付けた傷の方が多そうな感じの男だ。

「へっ、今年の新卒エリート魔導士様だってよ」

 自分の身の丈以上の長槍を持ち、重そうな鎧を着けている男がそれに答えた。コイツは一応わたしの事を知っているらしい。言い方がちょっと気に入らないけど。

「ふーん、エリートだからって、新人がいきなり難易度Aの依頼とかってアリなん?」

 短剣を左右の腰に1本ずつ装備している、と言う事は二刀流か。軽装で動きやすそうな格好の男が続いて言った。

「くっそ、足だけはひっぱるなよ」

 4人目は、戦士が持つには不釣合いな程に綺麗な装飾が施された曲刀と、派手な防具を装備した男か。口調と格好が全く合っていない。コイツは言葉の最初が必ず「くっそ」なのでくそ男と呼んでやろう。


 この4人。初対面でいきなり失礼な事を言ってくれたけど、どうせわたしの才能に危機感を覚えて言ったのだろう。ザコ共が。

 しかしあれだな。こんな連中でも難易度Aの依頼をやれるのだな。と言っても万年難易度A止まりなのだろうが。

 わたしは哀れな四人の男達に、冷ややかな視線を送りつつ鼻で笑った。



 依頼者の要望の4人数以上が揃い、次の日の朝に揃って現地へと出発した。街を出て街道を暫く進み、道が森に接した所でその中へと入って行った。わたしは場所をよく知らなかったので、方角をコンパスで何度も確認した。

 わたしが任務を失敗する可能性はありえないが、この連中が全員死にでもしたら、一人でジヌラまで帰らなければならないからだ。

 そうそう、わたしが参加する前。つまり、あの4人で出発する予定だったそうだが、こいつ等だけだったらどう考えても任務を成功出来なかったろう。わたしが参加した事で成功出来るんだ、感謝してもらいたいものだ。

 しかし、この男共はずっと雑談をしているが、内容は聞くに堪えない下品なものだな。下品な中年が考え付きそうな下らない下ネタを言っては、げらげらと大声で笑い、時おりわたしの方をちら見する。もしかして、その下らない下ネタに対するわたしの反応でも見ているのか。わたしはこの4人を”今すぐ消してしまいたい”と思う程汚らわしく思った。

 男と言う生き物は皆こういうものなのだろうか、だとしたら係わり合いを持ちたくないものだ。一生男と縁などなくていい。わたしは話の内容が分からない位に距離をとって歩いた。

 男共の汚い話し声が遠くなると、森の音がよく聞こえる様になった。森の音か、懐かしいな。魔法学校に入る前、幼馴染と村の近くの森でよく遊んだっけ。幼い日の記憶の断片を思い出し、その懐かしい匂いのする森の空気で深呼吸をした。


 ジヌラから歩いて3時間程だろうか、森の中に今回の依頼である強盗団のアジトは存在した。森を迂回して延びる街道からはそれ程離れていない位置だ。近過ぎず遠過ぎず、程ほどの距離が商人を襲うのにも、身を隠すにも適してたのだろう。

 今回の依頼内容は強盗団の殲滅、依頼者は商工組合。殲滅と一言で言うと軽く感じるけど、一人残らず殺せって事。この様に被害者側からの依頼は珍しくない。

 この依頼は王国の審査を受けて通ったものなので、依頼の範囲内であれば何をしてもお咎めもない。表立って人を殺められる訳だけど、中には”ただ人を殺したいだけのろくでもない輩”も居るのだろうね。その所、今回の4人はどうだろうか。

 因みに魔戦士組合員になるのは非常に簡単で、犯罪などを起こしていない者ならば誰でもすぐに登録出来る。ピンからキリまで誰構わずなるだけはなれてしまうって訳。

 しかし、組合員の成績に応じてランク付けがあるので、ある程度の実力は判断出来るのと、依頼を失敗し続けたり問題のある行動を取ると、ブラックリスト入りして依頼も受ける事すら出来なくなる上、度が過ぎると指名手配されて、逆に狩られる対象にもなる。そういう事で何とか秩序を保っているのが魔戦士組合の現状だ。

 後、魔戦士組合は王国直系って言う話だけど、王国にはれっきとした軍が存在する。何故民間人から組合員を募るのかの理由については容易に想像がつく。

 この国は一見大国として繁栄を誇っているけど、実は問題だらけで、国内外共に敵だらけの状況にある。外って言うのは他種族相手だけど、国境じゃ数百年間飽きずに戦争しているし、国の内側にも何とか言う改革派の組織がはびこっている。単純に治安維持する人材が足りていないのだろうな。

 国の事情はこの位にして依頼に話を戻そう。


 討伐対象の強盗団は、規模が大きいって話だったけど、見たところそうは見えなかった。商人を襲う程度の強盗団だ、きっとザコばかりだろうとは思っていたが。もしかすると容易に手を出せない様、デマを流していたのかもしれない。

 正体はちんけな強盗団なのだが、そいつらがジヌラにやって来る商人などから金品を奪っているとかで、最近では商人の数がめっきり減ってしまって、物資不足による価格高騰が深刻化しているのだそうだ。


 アジトの建物は石造りの塀で囲まれ、門前にはお約束の様に左右に二人の弱そうな見張りが退屈そうにして居た。きっと入りたての下っ端だろう。強盗団に入ったばっかでわたしに出会うなんて運が悪いね。合法的に駆逐して人生終わらせてやるよ。

 依頼には、こういう社会の害にしかならないゴミを倒すものが多くある。こういう依頼を達成して行けば、評価もいい様につくだろう。


「あれだな、強盗団のアジトは。ぐびっぐびっ……ぷっはぁ!」

 戦斧の男はこれから仕事だと言うのに飲んでばかりいる。因みに飲みっぷりは酒っぽいが、中身はただの水だ。この男、一見大酒飲みに見えるけど、実は全く酒が飲めないらしい。それはどうでもいい情報か。

「ちっ、見張りが居るな、裏に周るか?」

 何を言ってるんだろう、アジトなら見張りが居て当然ではないか。しかもこっちが表って言う確証はない。

「すっげ弱そうじゃないか、表から攻めちゃえばいいんじゃないのん?」

 と二刀流の男、こいつは自分が良ければ他人はどうでもいいってタイプだな。いざとなれば仲間を簡単に裏切りそうだ。後、こちらが表って言う確証はない。

「くっそ、ほんとに弱そうな見張りだなぁ。表からいきゃぁいい」

 どうせお前は相手が強そうだったら「くっそ」とか言って逃げるんだろうな。それと何度も言うが、こちらが表っていう確証は何もない。

 こんなしょうもない連中が、今までよく生き残れて来たものだ。わたしは呆れてため息をついた。


 しかしすぐに、「よく生き残れて来たものだ」と疑問に思った事が正しかったと言う事が判明する事となった。

 二刀流の男と、長槍の男は門番が弱そうと見るや、奇声を上げて真正面から突っ込んで行ったのだ。しかし、門番は一瞬驚く様子を見せたものの、銃を手持つと走り寄る2人へ向かって発砲した。森の中に火薬の炸裂する音が響き渡る。

 地面に倒れてのた打ち回る二人に、門番達はゆっくり近寄ると、とどめに頭を狙って更に発砲すると動かなくなった。

 本当にあっという間の出来事であっけなかった。だけど、あの二人にはお似合いな死に様だったとも言えるか。

 あの二人が減ってくれたおかげで、成功報酬の分配金額が増えた訳なのだけど、成功報酬は100万丸だから、三人で分けるなら一人33万程になるな。それだけあれば暫くのんびり出来る金額だ。欲を言えば分配するのに半端だから、もう一人位減ってくれるといいのだけども。

 門番はまだ他に居ないかと、辺りを見渡していた。無論、わたし達は草の陰に身を潜めて気配を消している訳だが。

 今の銃声は他の仲間にも聞こえた事だろうが問題はない。むしろ、全員一箇所に集まってくれれば楽に仕事が済む。

「あいつ等やられちまったぞ!? あの門番銃なんか持ってたのか……。こいつぁうかつにゃ近寄れねぇ! ぐびっぐびっ……ぷはぁ!」

 その「うかつ」があの二人の事を言っているのかな。今のでやられない方が不思議だ、この斧の男の思考はとても浅いに違いない。

「くっそ、ガキ! さっさと魔法で応戦しろっ!」

 このくそ男は何命令してるんだ。まぁいい、こういう輩は決まって自分より強い者に対してはへつらうものだからな。強者を見極める能力だけは何故か人一倍優れてるのが定番だ。


 わたしは華々しいデビューを飾る為、右手を門へと向けて差し出した。門までの距離は50メートル程、十分魔法を展開出来る範囲内だ。しかも門番はまた門前の定位置に戻っているので同時に仕留められそうだ。

『コンプレッション・エクスプロージョンッ!』

 わたしは身を潜めたまま門番に聞こえる様に、大きな声で叫んでやった。この声に門番達は驚いてこちらへ顔を向けておどおどし始めている。様子からすると、わたしを見つけられてはいない様だ。声のした方向を見て、必死に探しているのだろう。

 ついでにコンプレッション・エクスプロージョンと言う魔法についても解説しよう。この魔法は半径10数メートルを吹き飛ばす爆裂魔法だ。精霊魔法の中でも威力があり、魔力コストにも優れている。範囲攻撃用途の魔法として定番中の定番だ。

 たった2人の相手なら、もっと効率の良い魔法もあるし、わたしは普通のソーサラーには使えない強力な魔法も使えるのだけど、ここではこういう派手な魔法がいいだろう。

 爆裂魔法コンプレッション・エクスプロージョンが発動しはじめ、門の前の空間は急速に収縮した事で歪み始める。それが門番2人の丁度頭上で起こっている。

 空間は一呼吸程度の時間で、光の点にまで圧縮された。その直後、一気に爆発して派手な爆音を周囲の森の隅々にまで響かせると、アジトの門や付近の壁を粉々に吹き飛ばしてくれた。とても使える魔法だけど、半径10メートル程の空気を一点に圧縮して開放するだけの単純な魔法だったりする。

 じきに砂埃が晴れたので様子を伺うと、門番達は少し離れた地面に転がっていた。鎧の破損状況から見ても即死だったろう。

 ついでに門番に殺されたあの二人の遺体も、爆風に巻き込んで位置が変わっていたのだが、既に死んでる訳だし問題ないだろう。めんどくさいけど後で穴でも掘って敵と一緒に埋めてやろうか。


「ははっ! ざまーみろっ!」

「くっそ! ったく、なら最初からやれってんだ」

 思ったとおり、こいつらもあの二人の事はどうでもよさそうだ。そういう所はめんどくさくなくていいけど、他人なんてどうでもいいって思ってるのだろうから、二度と組みたくはないな。


 「ふん」と鼻で笑おうとした時、わたしの左頭上で何かの気配がした。と思うと、その気配はこちらに向かって落ちて来た。

 素早く気配の方へと顔を向けると、剣を片手に持った男が木の枝から飛び降りて来ているのが見えた。

 そんなに気配を発しながら自由落下して来るなんて、どうぞ当てて下さいと言ってる様なものだ。

 だが、わたしを最初に狙った事だけは褒めてやろう。一般的な魔法は発動するまでに多少の時間が必要だから、これだけ近付いてしまえば仕留められるとでも思ったのだろう。

 しかし、魔法には瞬間的に発動出来るものだってたくさんあるんだ。容赦なくただの一瞬で消してやるよ。

 剣を振りかざしつつ落ちてくる男に向かってにやりとすると、わたしは後ろに下がりつつ手を翳した。

 わたしの手のひらに魔力の光が輝いた。だがその時だった。

「そこだーっ!」

 すぐ近くで大声が聞こえたと思うと、わたしの顔すれすれを重い何かがブンと言う音をさせて通った。それは斧の男の振るう、あの無骨な戦斧だった。

 斧はその重量に任せ、落下して来る男に鈍い音をさせてヒットすると、そのまま元居た場所へとはじき返した。

 飛ばされた男は木の幹にひっかかったが、やがて胴体が2つに別れてそれぞれ地面へと落ちて行った。


 大きな声を発せられ、ついあっけに取られてしまったが、下ろした右腕に生暖かい感触がした事によってすぐさま異変が起きている事に気が付いた。

 その右腕を見てわたしは驚愕した。何と言う事だろう、わたしの右腕はあの男の振った斧にかすっていたらしく、半分程斬られてその傷はおそらく骨半分にまで達している様だった。そしてかなりの出血を起こしている。わかった事は、深手を負うと想像より痛みは感じないものだと言う事だった。

 早く手当てをしたい所だけど、どうやら強盗団に周囲を取り囲まれている。確かにあんな派手な魔法に気が付かない訳もない。

 わたしはとりあえず右腕を軽く縛ると、魔法の発動を左手に変えて周囲の敵を倒した。


 強盗団のアジトを一掃出来たのは、その日の夕方になった頃だった。想像以上に強盗団の人数は多かった。全員やれたかは分からないが、ボスらしき奴は倒せたし、建物も破壊したから殲滅出来たと思っていいだろう。

 既に暗くなって来ていた為、今日は街に戻らず近くの岸辺でキャンプをする事にしたのだが、その時わたしの右腕は酷く腫れて痛み出していた。

 治癒魔法をかけて痛みを和らげていたが、一向にそれは治まらなかった。

 今まで擦り傷以上の怪我なんてした事なかったから、深手の状態にこの治癒魔法を使ったのは初めてなのだけど、思っていたよりこの治癒魔法は効果が現れない事が分かった。

 もっとも、わたしが使える治癒魔法は、ごく初歩的な自然治癒を促進させる類のものであり、ヒーラーの使う回復魔法とは比べられるものではない。いくらかけ続けても傷が塞がる様子は見られなかった。

 食事もとらず、治癒魔法をかけ続けているわたしを二人の男が舌打ちをして見ている。もう腕は紫色に変色して、手の感覚もしびれて感じなくなっていた。

「おいガキっ! その腕は諦めろ!」

「くっそ。あぁ、もう切るしかないな」

 お前の斧のせいだろうが。人の腕をこんなにして侘びの言葉もないのか。

 こんな時、ヒーラーさえ居れば……。


 ふと、わたしは幼馴染のセラフィの事を思い出した。

 セラフィは魔法学校に途中まで共に学んだわたしの幼馴染であり、唯一友達と呼べる存在だった。よく将来の夢を語り、卒業後は一緒に旅をしようと話した事もある、心から信頼出来る親友だった。

 わたしが精霊魔法使いになると言った時、セラフィはヒーラーになると言った。その言葉通りにセラフィは魔法学校の途中、聖職者に転向してナボラの修道院へ入ったのだ。

 それからのわたしはずっと友達が出来ず、常に孤独の状態が続いた。そのせいで、セラフィを恨む気持ちがどんどん大きくなってしまった。彼女を恨む事で孤独から逃れようとしていたのだと思う。

 魔法学校を卒業する頃にセラフィは戻って来たのだけど、セラフィに対して恨む気持ちばかりとなっていたわたしは彼女と一言も言葉を交す事もなく、逃げる様にこの街へとやって来たのだ。セラフィは何も言わず悲しそうな目で見つめてたっけ。それがつい先日の事だ。


 なんでこのわたしがこんな目に、セラフィ……助けてよ。とても惨めな気持ちになり、涙が頬を伝った。

 その時……。

「全く、うぜぇガキだぜ」

「くっそ。じゃぁ押さえるぜ」

 わたしは二人の男に体を押さえつけられた。

『な、何を!?』

「何を? めんどくせぇから切っちまうのさ」

 斧の男はわたしの右腕をがしっと掴んでいる。

「くっそ。聞いたか? 切っちまうんだよ」

 二人とも何を言っているんだ、ヒーラーさえ居ればこんなのはすぐに治せる傷なのに。

『やめろぉぉーッ!』

 必死に抵抗をするも、男達の強い力に身動きすら出来ない。斧の男が無骨な斧を振り上げるのが見えた時、わたしの体は物凄く震えていた。声も唸り声だけになり、息すらしてるのか分からなかった。

 そして、ドスンと言う重い音た聞こえ、右腕に一瞬激痛が走ったかと思うと急激に意識が遠のいて行った。


 再び目が覚めると、わたしは焚き火の近くに寝かされていた。

 軽くなった右腕を見ると、そこにはもう斧の傷のある腕はなく、腕の途中から切断され包帯を巻かれたものに変わってしまっていた。

 暫くその短くなった腕を眺めていたが、何故だかすっきりした気分がしていた。


「切った腕はもう埋めたからな」

 焚き火の反対側に寝転ぶ斧の男が独り言の様に言った。

「くっそ。腕は食えなかったが、別のもんはうまかったぜ」

『……!?』

 わたしはくそ男が何を言っているのかわからなかった。暫く二人の男の顔を見ていたが、直に下腹部の鈍痛に気が付いた。よく見ると着衣も乱暴にまくられている。

 わたしは気を失っている間に二人に犯されていた事に気が付いた。ハッとした表情をすると二人の男はにやりとした。その瞬間心の奥底から激しい憎悪の感情が沸き起こった。



 翌朝わたしは一人でジヌラへと戻って来た。

 帰路の途中、下腹部が痛む度に嫌悪感からか吐き気を催して辛かった。

 あの二人の男はあの時魔法で殺し、キャンプした場所一帯を焼いてやった。今頃は狼の餌にでもなっている事だろう。


 帰ってきたものの、腕が痛むので街の治療院へと赴いた。腕は処置の衛生状態が悪かったせいで傷口が壊死して毒が回りはじめていたそうだ。そのせいで更に切る事になってしまったが、かろうじて関節を残す事が出来た。

 元に戻せないかと聞いてみたが、治療院では無理なのだそうだ。しかし、治せる者がただ一人だけ居る事が分かった。

 その者とはナボラの聖職者の一人なのだが、一般には神の子と呼ばれる王国で唯一一人の存在だった。信託と言う能力を使って国の行く末を占っているのだそうだ。

 王国にとってかけがいのない存在だとしたら、一般人がおいそれと出会う事など不可能に近いだろう。とんでもなく遠い存在だ。

 それでも治せると言われた事で、希望が湧いて来るから不思議だった。

 そうだ、ナボラに行っていたセラフィなら分かるかもしれないし、頼んでくれるかも……いや、セラフィはダメだ、わたしがどんな顔をして頼めると言うんだ。

 後、下腹部の鈍痛が続いてたのでそれも診てもらったのだけど、あの時乱暴された事が原因で毒が入ってしまったらしく二度と子供を産めない体になってしまっていた。これもここでは治せないと言う。子供が産めなくなったのは別に構わないけど、処置はしてもらっても鈍痛が残る事になった。下腹部が痛む度にクズ共への激しい憎しみの感情が沸き上がって吐き気がする。あんな何の役にも立たないクズに、崇高なわたしの人生を狂わされた自己嫌悪だろうか。

 わたしはとりあえず、先送りの問題としておく事にした。


 その後、依頼の報酬を受け取りに魔戦士組合へ向かった。

「そうですか……、あなたの他全員死亡したのですね」

 担当は登録したあの女性係員だ。

 係員は、わたしの右腕を見てすぐに納得した様だったが、曇るその表情を見ていると「だから言ったのに」とでも言っているかの様に思え、すぐに左手を当てて右腕を隠した。


 もらった100万丸の報酬を使い、右腕に特注で義手を作った。

 義手と言っても指が動く訳ではないのだが、人目だけは気にならなくなった。

 でも、こんな腕じゃ村になんて絶対に帰れない、後戻りが出来なくなった。


 100万丸もあった報酬だったが、義手を作る為に殆ど使い切ってしまったので、次の依頼を受けないといけないのだが、前回の事もあり暫く一人でこなせる簡単な依頼だけを受け続けていた。

 その難易度はせいぜいCの簡単な依頼だったが、一人で暮らしていけるだけの収入は得る事が出来た。


 そんな生活を続けて半年が経った頃には、いい加減地味な仕事をするのにも飽きてしまっていた。

 最近になり、また最強の魔導士になった夢をよく見る様になった。

 だけど、小さな仕事ばかりしている為か、魔戦士組合の評価ランクも2のままだ。

 このままではとてもなる事は出来ないだろう。

 やはりもっと大きな仕事をしなくてはダメだ。

 そんな中、魔戦士組合の依頼掲示板を見ていると、1つの依頼が目にとまった。


 ――緊急募集、強盗団本部の殲滅


 それは、あの強盗団の本部を一掃すると言う依頼だった。

 当然一人で請ける事は出来ないが、この半年小さな依頼ばかりやっていたとは言え大分仕事にも慣れて来た。

 右手の不自由ももう問題ない。

 目的の為にもこれは請けるしかないだろう。


「この募集に申し込むのですか? 最近は大きな仕事をされていない様ですが大丈夫でしょうか?」

『いいよ……、登録して』

 心配そうな顔をして、わたしの右腕をちらっと見る受付の女性をよそに、わたしの気持ちはかなり高ぶっていた。

「わかりました、今回は緊急募集ですのであちらで待機していて下さい」

 受付の女性の示す方向を見ると、そこにはテーブルと椅子が置かれており、既に剣士らしき男が二人そこに座っていた。

 一人は自信家そうに見え、もう一人はそれの付き添いの様に少しおどおどしている様に見える。


 テーブルにつくと、自信家そうに見える男が話しかけて来た。

「キミ、この依頼に参加するのかい?」

『そうだけど、何か問題ある?』

 早速来たか、どうせまたガキ扱いでもするんだろうな。

 気に入らない奴だったら、帰り際にでも殺しとくか。

「お、そっかそっか、よろしくな。ほら、お前はビビリ過ぎだぞ? 彼女みたいにびっとしろよ」

「うっわー、だけど緊張するんだからしょうがないだろ」

 何なんだ、この二人は。

 年齢は大分上そうだけどまるで素人だな、当てにはなりそうもないけど嫌な奴ではなさそうだ。


 少しするとそこに二人組の女が現れた。

 一人は黒髪の妖艶な美人、もう一人はあたしより小さな背丈で華奢に見える体型に不釣合いな大剣を背中に背負っていた。

 その大剣は、まるで血で出来ているかの様に真っ赤な色をしていた。

「あっちゃぁー、もう魔導士は居るんだね。クリーダどうするぅー?」

「別に何人でも構わないと思いますが……」

 このやけに美人の女は魔導士か、クリーダとか呼ばれているからそれが名前なのだろうけど覚える気はない。

 後、わたしが居ればもう魔導士は必要ないと思うけど。

 それにしてもあの小さい女は大剣を背負ったままなのに随分軽快な動きをしているな。

 見かけによらず、物凄い怪力なのかもしれない。

「あぁもう! ルビーさんは! 子供じゃないんですからそんなにはしゃがないで下さい!」

 美人な女は、大剣を背負ったままはしゃいでる小さな女をひょいと持ち上げて椅子へ座らせていた。

 今のは一体……、小さな女だけだったら分かるが大剣の重さもあるはずだ。

 あっちも怪力なのか、それとも剣がハリボテなのか。

 そう思って見ていると、二人の剣士達も同じ様に思ったのかあっけに取られた様子で見ていた。



「あらぁ?」

 不意に真後ろから声がした。

 振り返ると、また別の二人組の女性が立っていた。

 二本の棍棒を、腰の後ろでクロスさせて装着していると言う事は、どうやら二人とも格闘家らしい。

 一人は目力の強い左右の髪をリボンを結んだ女で、もう一人は下手すると少年と見紛う程色気を感じさせない女だ。

「おー! 噂をしてもしなくてもおチビじゃないかッ! 少しは背が伸びたかな? いや、おチビに限って伸びる訳がないッ! 正直、伸びたら負けだと思ってる。 だからあたしは神様に毎日祈ってるんだッ! 神様ラーメンライスッ! 伸びてない奴ねッ!」

 もう一人の前髪を揃えた長い髪の女が、意味のわからない事を言い出し、その場で何かに祈り始めた。

「ブーッ! どうせならもっといい事祈れよッ!」

 そう言うと、リボンの女はケタケタと笑った。

「お二人もこれに参加するんですか……」

 美人の女が二人に声をかけると、二人の女は片手を上げて軽く挨拶する仕草をしていた。

 何だ、この四人は知り合いなのか。

 全く、煩いのが来ちゃったな。

「ゲェェェーーッ! 出たァァァッ!」

 赤い大剣を背負った女がいきなり大声を上げた。

「おチビたーん、元気してたぁー?」

 リボンの女が獲物でも見る様な目をして言った。どうやら力関係では、リボンの女の方が上らしい。

「ゲー出たって全く汚いなぁ! おチビには幻滅だよッ!」

 そう言って、前髪が揃った女がほっぺたを膨らませ腕を組んだ。

「そのゲーじゃねぇッ! あ、そうだ! 急用を思い出したのでこれにて失礼ッ!」

 すると、大剣の女は美人の女の手を引っ張って外に飛び出して行った。


「あ、おチビたん……行っちゃった」

 リボンの女がガッカリとしてうな垂れた。

「いい? 会うは別れの始まりって言うでしょ? でもね……、あたし達は違うんだ、それが腐れ縁って奴なんだ、覚悟するんだよ?」

「うん……」

 言ってる事がもう滅茶苦茶だ。

 何なんだこいつらは……。


 結局、今回の依頼はヒーラーを一人追加して、剣士二人と変な格闘家の女二人とわたしの六人で行く事になった。

 現地へ向かっている途中、格闘家の女達はピクニックにでも行くかの様にずっとおしゃべりをして笑っており、剣士二人はヒーラーを囲んで世間話で盛り上がっている。

 その後ろからわたしは無言で付いていく形になっている。

 わたしが一人なのはいつもの事だけど、他の連中の緊張感のなさは何なのか。

 遊びに行く訳じゃなく、強盗団の本部をこれから殲滅しに行くと言うのに。

 これは先が思いやられるな。


 こんな状態の問題だらけのパーティで、半日近く歩いた所で日か傾き始めた為、適当な所でキャンプをする事にした。

「もう、あんたのせいよぉ? おチビたんが居れば野宿する事もなかったのにぃ」

「甘ったれるんじゃないよッ! 野宿は冒険のロマンなんだッ! ロマン……つまりいやらしい事も多少はあるんだ」

 リボンの女がいやいやをすると、少年の様な女がにやっとしていた。

 この格闘家の女達……やっぱり出来ているのか。

「ここはふかふかだよ、キミはここで眠るといい」

「ありがとう」

「そこにオレ達が両側からはさんで寝れば安心さ」

 剣士二人とヒーラーもこんな時におめでたいな。


 わたしはそんな連中達と距離を置いて寝る事にした。

 空を見上げると、無数の星が落ちてくる様に光っている。

 生まれ故郷の村の空を思い出しつつ、わたしはじきに眠りに落ちていった。


 翌朝、朝焼けの中でわたしが目が覚めると、既に剣士二人が行き先の方向について話しており、ヒーラーの女は食事の準備をしている様だった。

 端の方では格闘家の二人が頭から毛布をかぶって、もぞもぞとしてはクスクスと笑っている。

 何だか随分とよく寝たな、昨日歩き疲れたせいだろうか。


 剣士達の案内により、それから1時間程度歩いた所に荒れ果てた古い屋敷を発見した。

 屋敷は既に人が住まなくなって10年は経っている様で屋根はボロボロで穴も空いている。

 100メートル程離れた森の中から様子を伺う。

 廃墟ではあるが、人の出入りはある様だ。

 どうやら、これが強盗団本部で間違いはなさそうだ。


「さて、ここからどうやって攻め込むかをオレなりに考えたのだが……まず」

 剣士の一人が攻略について話し始めた時、屋敷の方から銃を発砲する炸裂音が聞こえて来た。

 この距離で気づかれたのかと思い身を隠そうとしたが、辺りには6人居たはずのメンバーの内四人しか居ない。

 居ないのはあの格闘家の女二人だ。

 さっきの銃声と言い、二人がいきなり屋敷に突っ込んでいたとしたら今頃は撃たれて死んでる事だろう。

 全く、毎度毎度バカが突っ込んで死んでくれるな。

 屋敷の様子を再び伺うと、何故かあの建物が倒壊し始めていた。

 土煙を上げ、バリバリと言う木材の折れる音を立てて崩れて行く。


 あっけに取られていると、少ししてあの格闘家の二人が何食わぬ顔で戻って来たではないか。

『あなた達……勝手になにしてるの?』

「何って、敵を倒して来たに決まってるじゃないッ! 敵が出てきたら倒すって作戦でしょ? だから建物も倒しておいた。これはサービスだよッ! 無料! 無料!」

 そう言う少年の様な格闘家の目はマジだった。

「そ、そうか……は、ははは……作戦ね」

「……」

 剣士達も呆れ、ヒーラーは声すら失っていた。

「ただねぇー?」

 リボンの格闘家が呟いた。

『ただ?』

「無料って事? それはもう引っ張らなくていいから……」

「そうじゃなくてさ、ここ……違うみたい」

「ん……? 違う?」

「確かに中に強盗団は居たんだけどぉ、本部はあそこじゃなかったみたいよぉ?」


 リボンの格闘家の話によると、ここにあった屋敷はアジトですらなかったそうだ。

 その為、中には数人しか居なかったそうだ。

「そんなはずはない、報告の資料では位置的にここで間違いないはずなのだが……」

 わたしは周囲を見渡してみたが、他にそれらしい目標物は見つからなかった。

 根本的に場所を間違えているのだろうか。


「お……、来たみたいだよ」

「あらぁ? そうみたいねぇ」

 二人の格闘家の女達が何かを楽しみにする様な口調で言った。

「来たって何が……ん!」

「お、おい……こいつは」

 わたし達の周囲から強い気配を感じる……いつの間にか囲まれてしまった様だ。

 どこから現れたのかは分からないが、これは倒す以外生き延びる道はなさそうだ。

 わたしは魔力を高め、戦闘へと備えた。


 それからすぐに四方八方から襲ってくる強盗団達との戦闘が始まり、気が付くと仲間ともはぐれていた。

 遠くから銃声が聞こえているが、周囲の山々に反射して方角が分からなかった。


 あれから何時間が経過して、何十人を倒したのだろう。

 銃声も聞こえなくなり、周囲の敵の気配もなくなっていた。

 このまま帰ってもよさそうだけど、まだ残党が残っているかもしれない。

 一度倒壊した屋敷の方に向かってみようか。

 仲間は……、別にどうでもいいや、もう全員殺されてるかもね。


 暫く歩いて行くと、あのヒーラーの女が血だらけで倒れていた。

 まだ小さく息をしている様だけど、様子からして長い事はなさそうだ。

 わたしは立ち上がると、屋敷の方向へと向かって再び歩き出した。


 その時、左から風切り音を感じ、とっさに左手を上げて防御した。

 次の瞬間タンと言う音がして、左腕が急に軽くなった。

 そして、足元に何かが落ちたのが分かった。

 何が起こったのかは想像出来るけど、今はそれに気を取られてはいられない。

 一度後ろへ飛んで距離を取ってから標的を捉え、対人用の即発動魔法を撃ち込む。

 標的は軽く吹き飛ぶと、草の上で弾んで動かなくなった。


 このヒーラーに気を取られて発見が遅れたか。

 左手を見ると、関節の少し上からきれいになくなって血が噴き出していた。

 止血したい所だが、右手は既に義手であり、指を動かす事は出来ない。

 縛れないと言う事は、つまり止血をする事は出来ないと言う事だ。


 今回はヒーラーは居るが、既に目の前で死に掛けている。

 それを見つめているわたしもじきに出血多量で死ぬだろう。

 手を上げてなるべく出血を防ごうとするも、徐々に意識が遠のいて行く。

 意味のない事をしているなと冷静だった。


 ――なんなんだ……この情けない終わり方は


 明日の今頃は、わたしは狼に食べられて骨になっているのか……。

『いやだなぁ……』


 独り言の様にそう呟くと、わたしの意識は遥か遠くへと遠のいて行った。



          ***



 その後、どういう訳だかわたしはジヌラの宿屋で気が付いた。

 天井をぼんやり見つめつつ目をこすると、何故か顔にあたたかい感触がした。

 不思議に思って再び見て見ると、そこには生身の両手が映っていた。


『あれ、わたし両腕とも……?』


 起き上がって何度も両腕を見てみるが、確かに両腕ともそこに存在していた。

 義手ではない生身の両手、傷1つないきれいな腕。そしてあれ以来ずっと続いていた下腹部の鈍痛も消えていた。

 部屋を見渡してみると、剣士二人と死にかけていたあのヒーラーもベッドで寝息を立てて眠っていた。

 見たところ全員何の傷も負ってはいなかった。

 もしかして、夢でも見ていたのだろうかと思ったが、枕元にあるものが目に入った。

 そこにはお金が置かれていた。

 お金は、他の者達の枕元にも置かれている。

 金額は15万丸だった。

 宿屋の主人に誰がここへ運んで来たのかを聞いたが、何故か知らないの一点張りで教えてくれなかった。

 そう言えば、格闘家の女二人の姿が見えない。

 まさか彼女達が治療して運んでくれたのだろうか、それとも別の誰かが運んでくれたのか。

 どちらにしてもわたしの両腕が完全に復活しているのは謎だった。

 あの状態の腕を治せるのはこの国には神の子しかいないはずで、その神の子は外界に出て来る事はありえないのだから。

 念のため、後で治療院へ行き下腹部を調べてもらうとどうだろう。不思議な事に完全に元に戻っていたそうだ。つまり、暴行を受ける前の状態に戻っていたと言う事。なかった事になったと思っていいのかな。子供を産む事も出来るだろうとの事。それはわたしにとって余り重要じゃないはずなのだけど、不思議と喜びの感情が起こった。

 腕が復活している事もあってか、治療院の担当から誰の治療を受けたのか聞かれたのだけど、気を失っていたので分からないとしか言えなかったのだけど面白い情報が得られた。

 実は神の子は十年以上も前にラボナを出ており、その後は各地を転々として奇異な行動を繰り返して世間では「最凶のプリースト」などと不名誉な肩書を付けられている事だった。

 奇異と言われる行動を繰り返す彼女だけど、今のわたしはそれが理解出来た。


 剣士達とヒーラーと別れた後、わたしは魔戦士組合を辞めて故郷へと帰る事を決心した。

 セラフィは許してくれるか分からないけど、それでも謝りたくてしょうがなくなったのだ。

 実は治療院で神の子の話を聞いたおかげで決心出来たのだけど、会った事もない相手にまで力を与えるなんて本当に神の子なのだと思った。

 世間の評価などどうでもいい。本当に自分が思う様に生きるのが正解なのだ。


「そうですか、辞めてしまうのですね」


 わたしは魔戦士組合の受付の係員のあの女性に、組合員の登録抹消の手続きを頼んだ。

『はい、村に帰ります。色々とお世話になりました。それと、色々失礼な事をしてすみません』

 わたしが頭を下げて言うと、係員の女性は意外と言う反応を示していた。

 その時、わたしの復活した腕に気付き、不思議そうな顔をしていたのが少し面白かった。

 係員の女性が頭の整理をしているのか少しの間を置き、何か納得をした様に安心した表情をすると最後にこう言った。

「詮索はしませんが、短い間に随分と成長された様ですね。 またお会い出来る日を楽しみにしています」

 にっこり微笑む係員の女性に、わたしも微笑んで返した。


 一つ白紙に戻せた様で、何だかとてもすがすがしい気分だ。

 さぁ、村へ帰ろう。

 わたしは鼻歌を奏でながら村へ向かって歩き出した。


*トリックススターズ

王国に認定された魔戦士組合員の称号。他の組合員の指標。称号のみで何か特権が存在する訳でない。


*マトラ王国

500年の歴史がある王国。魔物(魔の者)との抗争を続けている。過去は隣国に攻め入って国土を広げた事もあるが、現在は協定を結び、武器や魔法を開発、輸出している。王室、軍、ラボで構成。


*魔戦士組合

王国が設立した民間からなるギルド。職安的な雰囲気。様々な依頼が集められている。


*登場人物

ネフ・インディゴ:最強の魔道士を目指す主人公。

セラフィ・パイラ:名前のみ登場。ネフの幼馴染。ヒーラーになる為、ナボラの修道院に入った。


*トリックススターズ

ルビー・サファイヤ:小細工魔法士、お婆ちゃんがいる、両親はもう居ない、飼い猫の名前はダイヤ、ヘリオの剣術を会得、真っ赤な両手剣を手に入れた。

クリーダ・ヴァナディン:科学魔導士、魔法と科学を合わせた魔法使い、ルビー大好き。完全電離プラズマ魔法は、瞬間で二億度を発生させる。

スフェーン・アウイン:マトラ最強のソーサラー、ランク8。ルビーとは昔色々あったらしい。

シンナバー・アメシス:プリースト、ランク6、家が教会、父はフェルドスパー・アメシス司祭、スフェーン大好き、片手棍二刀流を使いすぐ前へ出て行く最凶のプリーストとして悪名名高い、カレーをこよなく愛してる。よく少年と見間違えられるが一応女。実は神の子。


*その他

・強盗団

ジヌラ付近で活動しており、商人を襲っては金品を奪っている。ジダンとの繋がりがあるか、ジダンなのかは明らかにはされていない。



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― 新着の感想 ―
[一言] 不思議なお話ですね。 クールでいてそれで気が短い。 腕を治して助けてくれたのはいったい誰なんでしょう。 ストーリーも淡々として不思議な感じです。 つまらなくはないです。 でもテーマも見えない…
2012/01/16 20:54 退会済み
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