第59話 戻りました。
どれくらい経ったのかは分からないけど、光が否応なく目に入ってきて眩しくて、ぼんやりと意識が戻ってくる。
まず初めに思ったことは、身体が重い、というか、意識を失う前よりも重力を感じる。つまりボクの身体が人間に戻った、ということ。何だかんだと一ヶ月もあればイモムシの身体に慣れるものなんだなぁ、としみじみ思ったけど、今度は人間の感覚を取り戻さなきゃ。
寝転がってるから背中にダイレクトにひんやりとした草と土の感覚が……、うん? 直接?
ぼんやりしてる場合じゃない!! 起き上がってみれば案の定、全 裸 !!
【おはようございます】
アンナさんおはよう取り敢えず服!!
【天羽様が虫になる前の服になりますが、宜しいですか? その身体では不都合かと】
言われて自分の身体を確かめる。まずおかしいのが、腕が4本ある?
【大変に申し訳ないことに、人転虫身の解呪段階で邪魔が入り、それすら完全に解くことが叶いませんでした】
ギリィ、と歯軋りしそうな悔しさがアンナさんから伝わってくる。一概に世界の真理とはいえアンナさんは末端で、相手は上位者なんだろうから仕方ないといえば仕方ない。
【こちらがお招きした上に事故を起こしたとはいえ不測の事態への対応を指摘した方に対して虫のままでいろ、とはあまりにも非道なのでは、と説得しました】
実力で歯が立たなかったんだね……、アンナさんでさえそんな対応にならざるを得ない世界の真理なのに、デコピン一発で即死しそうなボクを見逃してくれるなんて優しいなぁ。
【話が通じて道理が分かるだけで、容赦ない時は本当に容赦ないのでお気をつけて】
はぁい。
さて、身体の確認再開だ。うーん、出来れば鏡とかあるとちょっと便利なんだけど。
【探索中──、結果を表示します。あちらに都合の好さそうな泉があります】
じゃあちょっと行ってみようかな。
立ち上がって……、うわ、歩きづらい!? 背中が何か重い、と思ったら大きな翅が生えてる。白に近い銀色の、半透明にも見えるけど光沢のある蝶の翅だ。丁度良いや、これで後ろ側は隠して前は腕で……、腕が未経験の本数だから動かしづらいけど仕方がない。
【少し前まではもっと多かったですからね】
人からイモムシへの腕っていうか脚っていうかの本数の増え方はえげつなかったよね。
お喋りしながらも転ばないようにふらつきながら歩いて泉の畔へ──……、辿り着いたけど波打ってるからどうしても歪んで見える。
【お任せください】
アンナさんが水面の一部を凍らせて屈折率を良い感じに調整してくれた、もうほとんど鏡だ。
「これが、ボク──……?」
雪のように白い肌と翅に似た色の長い銀髪、紫色のくるりとした目に、ほんのりと桜色をした頬と紅梅色の唇、転生前とは様変わりした美少女が鏡に映っていた。
【テンプレート的な台詞をありがとうございます】
しまった、男に戻れないフラグを立てた!? 最優先で折っといて!
【畏まりました、男性に戻るフラグを折っておきます】
それは厳重に保管して!
言い合いしてたら不安になってきた、下半身はどうなってるんだろう? ……足の形が何となく女の子のそれっぽいのは見ないことにして。うん、男として重大なモノがなくなったこと以外は無事だね、普通の人間と同じ形だ。
【天羽様としては無事と言えないのでは】
健康的には無問題、心身の性一致的には大問題だけど。取り敢えず、ズボンは履けそうだから出してくれると嬉しいな。
【こちらになります】
転移直後に着ていた服は転生前に着ていたやつに似ていたけど、出されたのはそれを更に洗濯したかのように畳まれていた。下着も一緒に出してくれたから有難く使わせて貰う、だたこっちは何故か男女兼用のやつに変更されていた。え、変更が出来るなら上も出して欲しい。
【上衣は改修中です、少々お待ちを】
確かに下着を優先してくれたのは控えめに言って有難いが過ぎる、アンナさん、ありがとう!
【どういたしまして】
で、着ながら確認した上半身はといえば、細やかとはいえ確実に膨らんでるお胸、ぺったんこなお腹、それでも緩やかな曲線が細い腰から下半身へと続いてる。どうあがいても女の子です、ご愁傷様でした。
【男性部分のご冥福をお祈りいたします】
冥福を祈るんじゃなくて解呪の続きして!?
【その件なのですが】
うん?
【人転虫身については半解まで許可されましたが、一応は与罰なのでこれ以上の解呪は出来ないよう、解呪方法を複雑化された上に権限の上方修正が行われ、更には肉体の改編に最適な蛹化の時期を過ぎた為に】
──ごめん、理解したくないけどボクにも分かり易く一言でお願い。
【全解呪は極めて困難になりました】
カイジュデキナインデスカヤダー!!!!!!!!!!!!




