事故って転生したのも神様の優しさからだった
あれ、ここは・・・。
気づいたら、真っ白な空間――「あー」と声を発する。いや、声の反響がない。真っ白な世界とでも言うべき場所。
何故、俺はこんなところにいるのだろう。
気づく以前の記憶が全くない。俺はどんな家に生まれて、どんな生活をして、どんな人生だったか。
まるで記憶がない。
なのに、不安とかは一切感じない。
むしろ穏やかな気持ちだ。
「それはなにより」
唐突だった。
俺以外、誰もいないこの場所に謎の声が響く。
声の感じは男だが、妙に美しさを感じる美声と呼ぶにふさわしい印象。
俺は返答を試みる。
(・・・・・・)
ダメだ。
発声できない。
というか、俺は呼吸すらしていないことに気づいた。
(・・・!?)
俺は、ひどく狼狽えた。
そんな俺に謎の声は優しく言葉を紡ぐ。
「まぁまぁ。そんなに焦らないで。今の君は魂だけの状態だから何もおかしいことはないよ」
(・・・????)
俺の思考は疑問で埋め尽くされた。
「まぁ、無理もないよね。それじゃあ早速説明させてもらおうかな。話を聞く準備はいい?」
説明?話をしてくれるのか?
俺は、虚空を見上げて無言の圧を投げかける。
(・・・・・・)
「はは。そんなに必死にならなくても聞こえているよ。大丈夫。君の質問にすべて答えていくから」
なら、さっそく答えてもらおう。
俺に今、何が起こっているのかを説明してほしい。
「おお。早速大筋から聞きたいんだね。わかった。答えよう――今の君の身に起きていることは、簡単に言えば『転生』の最終段階さ。今はまだ魂だけの姿だけど、これから君は新しい命として生まれ変わりを果たし、新しい人生を歩むことになる。そのために必要な『自我』を構築する段階が今の君の状態さ」
転生。生まれ変わり。新しい命に新しい人生。なるほど?
「あんまりわかってないね?」
(・・・・・・)
ちょっぴりイラっとさせてくるな。
「あはは。ごめんごめん。でも『新しい自我』の感度は良好なようでよかったよ。すまないね。これも必要なことなんだ」
なんだか、知らないうちに診療を受けているような感覚だ。
「まさにその通り。私は一度命を失って再構築された『新しい君』という自我を作った張本人だからね」
(!?)
おい、今こいつサラっととんでもないことを言ったぞ!?
俺は一度死んだ!?しかも、自我を作った!?
どういうことだ、説明しろ!
「うんうん。これの反応も誤作動なしだね――大丈夫、説明するよ。それでは、私の自己紹介から――」
謎の声は、俺の前に姿を現すと同時に、己が名を言った。
「――暇人でちょっぴり我が子達の事が可愛くて仕方のない創造神クラース。これが私の名だよ」
姿は男性。だが、どこか雰囲気のある美しいと表現しか出てこない美男子。長い白金髪に耳が長い。
瞳はサファイアブルーのように輝いて、なぜか左肩には真っ白な毛玉が乗っている。
ハッキリ言って、顔面偏差値が高いし、胡散臭い人物像だ。
あの真っ白毛玉はなんなんだ?
「そんな・・・。胡散臭いかい?」
何をショック受けているんだ。
とにかく、話を続きだ。
「わかってるよ。君が聞きたいのはアレだろう? 「自分は一度死んだのか」」
そうだ。
「うん、その話は転生する皆に伝えている事だから濁さずに説明するね――まず、君はココとは違う別の世界で交通事故に遭って死んでしまった魂だ。その世界では、不慮の事故として扱われているけど、これには実はその世界の神が関係しているんだ」
その世界の神? どういうことだ?
そもそも、神がなんなのかがわからない。
「ああ、うっかりしていたよ。新しい自我には神という概念もきれいさっぱりなくなっているんだったね――神というのは、簡単に言えば世界の管理者かな。基本的にはどの世界の髪も人の暮らしに介入することはしない。でも、重大な事情があるときだけは特別に関りを持つことがあるんだ」
つまり、俺はその、以前の世界で何かとんでもないことをしようとしていた?とか?
「そこは大丈夫。安心していい。君はハッキリ言って被害者側だから」
よくわからないな。
「じゃあ何があったか、話していくね――君は向こうの世界で本当は生まれてくるはずのない物を匿っていたんだ。その存在は本来コチラの世界の物で、しかも、極めて凶暴で厄介な物をまき散らす〈魔獣〉と呼ばれる存在だった」
魔獣?
「魔獣は、人の生命力や思念を糧に生きる存在だ。特殊な存在である魔獣は、本来ならコチラの世界にしか存在せず、別の世界に行くことなんて普通はできない。だけど、その普通から逸脱して特殊個体となった魔獣が、向こうの世界に辿り着いてしまった。向こうの世界の神は、向こうの世界の人々に危害が及ばないよう尽力した。しかし、すでにことは始まってしまってしまい、一人の犠牲者を出してしまった・・・。ここまで言えばわかるね?」
(・・・・・・)
俺は、魔獣に殺されたということか。
「あくまで、事故という形だけど、生前の君は魔獣を捨て犬と勘違いして家に招き入れた。魔獣は世界を渡り歩いたことでひどく衰弱していたが、君という養分に出会って力を取り戻していったんだ。そのせいで、今度は君が生命力を失い、仕事に向かう途中で意識を失って・・・」
その魔獣はどうなったんだ?
「それを聞きたいかい? 仮にも君を本当に殺した奴の話だ」
ああ。俺はそいつを捨て犬と思って家に匿ったんだろ? なら、聞く権利はあるはずだ。
「優しいね、君は。わかった。事の顛末を話すよ――魔獣は、君が亡くなった後、住んでいたアパートの部屋の中から向こうの神々よって聖神界に強制排除され、消滅させられた。もうどこにもあの魔獣は存在しないよ」
・・・そうか。
「君は、本当に優しい人だね。その悔しい気持ちが本当に、その魔獣が大切に思えていた証拠だ」
なんだろうな。保護して、一緒に暮らした時の記憶なんてこれっぽっちもないんだが、悪い奴じゃなかったような気がするんだ。
「コッチの世界で魔獣は忌み嫌われている。でも、極稀に、魔獣は本当は被害者なんじゃないかという思想を持つ人間が現れるんだ。そういった素質を君に感じた。だから、私はね、この子を保護してよかったと思っているよ」
????
創造神クラースが左肩に乗せていた真っ白毛玉を、俺の前に差し出す。
こいつはなんだ?
「わからないかい? 仮にも、どうやってか世界を渡り歩いて見せた貴重な個体だったんだ。おいそれと簡単に消滅させるはずがないだろう? 向こうの神々に説得するのもそれはもうとてつもない労力だったんだから・・・」
創造神クラースの話の途中だったが、俺は差し出された真っ白毛玉を両腕で受け取る。
こいつは、大丈夫なのか?
「ああ。この子は、魔獣という素養を失う代わりに、聖神界に行ったからか突然変異で聖獣に生まれ変わった希少個体。この世に一匹だけの君の友達だ。優しくしてくれてありがとう。これからも君とともに暮らしをさせてあげてほしいな」
・・・ああ、もちろんだ。
なんだか、目が熱く感じる。
気持ちが溢れそうになる。
自然と、俺はその真っ白毛玉を抱きしめた。




