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超銀河スペース芋煮オペラSF

作者: 悠戯
掲載日:2026/01/24


 遥か遠い未来。

 地球人類が宇宙への移住を開始して幾星霜。


 宇宙空間に浮かぶ人工のコロニー内部に生きる人々にとって、かつての地球文明で育まれた文化の多くは今や過去の遺物。資源の取捨選択が大勢の生死を分ける宇宙生活においては、合理的かつ冷静なリソース管理が必須。数々の伝統文化も、今では特にこれといった感傷を抱く者もいなくなった単なる記録データでしかありません。


 が、しかし。

 それでも全ての文化が完全に失われたわけではないのです。



「艦長、惑星ショウナイにおける資源回収が全て完了しました」


「うむ、報告ご苦労。たしか環境再生ロボットの点検と整備はもう済んでいたな? 衛星軌道上よりその起動を見届けた後、本艦は本拠地(ホーム)へと帰還する」



 いくら宇宙に進出したとはいえ、人工的な空間だけで生活の全てを完結させるのは効率がよろしくない。よって、テラフォーミングによって動植物が生息可能な惑星を増やし、有用な資源を生産。後に定期的な回収を行うのは、この宇宙時代では当たり前に行われてているお仕事です。


 この宇宙船もそうした資源回収を任務とする船の一つ。

 その倉庫スペースには本拠地のコロニーへと運び込むための各種資源が、船の重量オーバーギリギリまで積み込まれておりました。


 回収資源の内訳は主に食料。

 惑星ショウナイの肥沃な土壌でロボット達が育てたスペース大豆やスペース長ネギ、それから忘れてはいけないスペース里芋。長い時の中で常に最新科学による遺伝子レベルの品種改良が繰り返されてきた農作物は、かつての地球において人の手で育てられていたモノと比べても遥か上回る品質を誇る……ということになっています。この時代の誰も地球産の農作物を食べたことがないので、実際にどうだかは分かりませんが。



「副官、ショウナイの工場でクローン培養していたバイオ豚肉の処理はどうなっている?」


「それについては船内加工場をフル稼働させて対応しております。回収したスペース大豆から急速醸造を進めている味噌と合わせ、ちょうど本拠地(ホーム)に到着する頃には程よい熟成度合いになるかと」


「よろしい。実に結構」



 お野菜ばかりでなくお肉についても抜かりはありません。

 科学の力で必要な部位を必要なだけ培養した食肉は、宇宙時代の食卓には欠かせません。仮に二十一世紀の地球人が見たら抵抗を覚えたかもしれませんが、それが生まれた時から当たり前にある時代の人間に抵抗感などあるはずもなし。



「では、本艦はこれより亜空間超光速ワープ航行を開始する。お待ちかねの芋煮会はもうすぐだ!」



 芋煮。

 その言葉を聞いたクルー達の歓声が、艦内スピーカー越しに艦橋(ブリッジ)にまで届いています。とはいえ、まだまだ油断は禁物。コロニー住人十億人分もの芋煮の材料を満載した船は、船首を本拠地の位置する星系の方向へと向けると、一瞬にして惑星ショウナイの衛星軌道上から姿を消しました。




 彼らが異変を察知したのは、体感時間でおよそ二日後。

 ワープ航行を切り上げて通常空間へと復帰した直後のことでした。



「艦長、本艦の進路上に別の船が」


「ああ、分かっておる。今回はイワテか? それともムラヤマの連中か?」


「識別信号によると惑星ムラヤマの回収船ですね。通信、開きますか?」


「うむ」



 重大な任務からの帰路に立ち塞がっていたのは、同じコロニーを本拠とする別の宇宙船。惑星ショウナイとはまた別の星で資源回収を行っていた船のようです。

 もっともベテランの艦長にとってはあらかじめ予測できていた事態なのか一切の動揺がありません。というか、相手に先を越されていなかったら自分達こそが似たようなことをやるつもりだったのです。



『あー、テステス……聞こえるか、ショウナイの? くっくっく、ずいぶん遅かったではないか。やはり芋煮は醤油と牛肉の組み合わせこそが至高。味噌と豚肉が究極などという貴様らは、二番手に甘んじているのがお似合いよ』


『ほざけ、ムラヤマの。勝者というのは悠々と歩むものだ。やれやれ、これだから醤油くさい連中はいかん』



 両艦共に同じコロニーに所属する回収船。

 味方同士のはずなのですが、通信が始まるや否や艦長同士で大人げない口ゲンカを始めてしまいました。二人とも普段はクルーからの尊敬を集める人格者なのですが、何かしら譲れないポイントがあるようです。



『くっくっく、今回の惑星ムラヤマはかつてない豊作だったわ。野菜の味も過去一番かもしれぬ。貴様さえどうしてもと頼むなら、ちょっとくらい味見をさせてやってもよいが?』


『そんなことを言っていられるのも、ショウナイの野菜を一口食うまでのことだ。どれ、味の分からんお前にも少しくらい恵んでやろうではないか』



 態度こそ喧嘩腰ですが、要するに二人ともお互いが持ってきた食材を持ち寄って食べ比べをしようと言っているだけ。両艦のクルー達は呆れた様子で自分達のキャプテンを見守っています。なにしろ毎年毎年飽きもせずに似たようなやり取りをしているのです。真面目に受け取っている者など誰一人としていません。



「よし、ただちに相手艦へと接舷せよ! 加工班、味噌の醸造は完了しているな?」


「はっ、大鍋の洗浄もワープ航行中に済ませております。ちなみに艦長、純米酒とビールはどっちを持っていきます?」


「無論、両方だ。では……総員、調理開始!」



 もう明日には宴会を切り上げて本拠地のコロニーに向かわねばなりませんが、その前日に付近の宙域に居合わせた回収船共催で行われる、世間(コロニー)より一足早い芋煮比べ大会。

 名目上は回収した作物の品質チェック作業ということになっていますが、これが回収任務に携わる面々にとって恒例の密かな楽しみなのです。スケジュールが予定外に早く進み過ぎたり逆に遅れたりで、ケンカ相手の顔ぶれと味付けは毎回微妙に違ったりもするのですが。


 果たして、勝つのは豚か牛か?

 あるいは、味噌か醤油か?


 どうせ今回も勝負は付かないのでしょうが、まあ、それはそれ。

 互いの誇りをかけた味自慢は、今回も終始和やかな空気のまま行われました。



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― 新着の感想 ―
いつも面白い小説を書いてくれてありがとうございます 今回も芋煮SFという変わったジャンル、かなりセンスいいですね
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