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魔女の恋文【宛先知れず】  作者: 寄賀あける


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4/15

 ウィステリアの花房の下で、プラチナの髪が木漏れ日に(きら)めいている。どうやらジゼルはテラスでお茶を楽しむところだ。手に持っているのは高価そうなティーポット、テーブルにはポットと揃いのティーカップが二客、用意されている。


「呼んだ覚えはないが?」

ロファーを見もせず、ジゼルが言う。敷地に入った時点で感知していたのだろう。


「呼ばれなければ、来てはいけなかった?」

「まぁ、お茶の相手が欲しいと思っていたところだ。座れ」


 ロファーが座ると、目の前にジゼルがティーカップを置き、やはり揃いの砂糖壺の(ふた)を取る。どれもエメラルドグリーンの美しいものだ。そう言えば、昨日、ミルタスを活けた花瓶も同じ色だったとロファーは思い出す。


「いつものティーセットとは違うね」

ロファーが問うと、ちらりとジゼルはロファーを見た。


「昨日、月影の魔導士が、わたしに処分して欲しいと寄越したものだ」

「処分?」

「うん……ロファー、人の思いとは不思議なものだな」

ジゼルが自分のカップに砂糖を入れながら軽くため息を()く。


「花瓶も、ティーセットも、ある人が月影に贈ったものだ。贈り主の思いや願いが込められたものだ」

「思いや願いって?」

想像はつく。が、はっきりさせたくてロファーは訊いた。そんなロファーにジゼルが、フン、と鼻を鳴らす。


「多分、愛とか恋とか言うものだろう。触れれば、暖かく優しい風が心の中に吹き込んでくる」

「それじゃ、その贈り主は月影の魔導士とやらにフラれたんだ?」

「フルならば、受け取らないか、返すとかすればいいと思わないか? 彼はそれができなかった。そんな事をすれば、彼女を泣かせてしまうから、と」

「中途半端なヤツだな」

「うん、中途半端だ」


「彼女は脈があると勘違いしているだろうね」

「彼女はほかの男と婚約するかもしれない。いや、したのかな?」

「はぁ?」

「月影が彼女に、『そうしろ』と言ったからだ。相手は月影の一番の親友」

「……めんど臭いな、普通にフってやればいいのに」


「このティーセットは婚約の話が出てから彼女が持ってきたそうだ。そして『わたしの笑顔はあなたのためにある』と言って帰ったそうだ」

()れた女に言われれば、この上もなく嬉しい言葉だろうが、気のない女に言われれば(のろ)いの言葉だな。って、これは呪いのティーセットか?」

慌ててカップを置くロファーをジゼルが笑う。


「そんなものを月影がわたしに渡すもんか」

そしてゆっくりカップを口元に運ぶ。


「処分しろ、と言われたのだろう?」

ローファーが問うと、カップを置いてジゼルが薄く笑う。


「預かって欲しいのだと、わたしは受け止めた」

「預かりものを使っちゃっていいのか?」

「この色、月影の髪の色によく似ている。使えば贈り主に何らかのサインが送られると、わたしは思った。たぶん月影もそう思ったのだろう」

「どういうこと?」

「月影は自分に自信が持てずに迷っている。彼の目が光を失ってから、まだ一年も経たない。魔導術で、生活に不便はないものの、やはり目で見る世界と魔導術で見る世界は違うと言っていた――本を読むのに苦労していると言っていたね、裏のページや重なったページの文字まで同時に見えてしまうので、加減が難しいらしい」


「魔導士って目が見えなくなっても文字が読めるんだ?」

「誰でもってわけじゃない。月影が特殊だからだ。どう特殊かは聞くな、話しが長くなる。で、特殊だからこそ、自信が持てない。この先どうなるか判らない」


「自信が持てなくて、彼女に応えられない?」

「おや、ロファーにしては察しがいい」

「ひょっとして相思相愛? それじゃ、婚約しようとしている相手が気の毒だ」

「月影は自分の思いを切り捨てようとしているようだがね。彼女の笑顔のために」


「なんか、納得いかないな」

「ロファーらしい反応だ」

ジゼルがクスクスと笑う。


「月影の思いを、きっと彼女も知っているとわたしは思う。だからこそ、負担になりたくないと、彼女は思ったんじゃないだろうか。そして婚約者候補の男も月影の思いに気が付いている。婚約は調わないだろう」

「ジゼルの予測では、月影は、最後は彼女と結ばれる?」

「いや、それは判らない。慕う心が強いほど、負担になりたくない気持ちも強いらしい。思い続けるだけで、いつまでも平行線のような気がする」


「ジゼル、テコ入れしたいから、この食器を使っているんだろう? 誰が使ったかまでは彼女に知られないとか?」

それに答えずジゼルは、ロファーと自分のカップにお茶を注ぎ足す。


「月影の魔導士と呼ばれるのは彼が月の加護を得ているからだ。今まで現れたことのない加護だ。月の満ち欠けに力が左右される特殊なものだ。その加護を与えたのはわたしで、彼が思いを寄せる女性はわたしの姉だ」

ジゼルがカップを見詰めながら呟く。


「欲しいものを欲しいと、がむしゃらに求めるのはいけないことだろうか? もちろん、まったく他者を省みなければ争いが起こるだけだ。だけど、そうでないのなら、人は素直になっていいのではないだろうか? 素直になる事こそ、幸せに繋がっているように思える」

「どちらにしろ、ジゼルが悩んでも意味がない。どう生きるか、誰と生きるか、それはそれぞれが決める事だ。おまえが加護を与えた、と言っていたが、それがどういう事なのかさっぱり判らない俺が言うのもなんだが、目が見えなくなった彼の助けになるよう、おまえは加護を与えたのだろう? それがおまえの最善ならば、おまえの判断が間違っていると、俺には思えない」


「ロファーは単純でいいな」

お茶を飲みながらジゼルがニッコリする。


「単純で悪かったね、おまえら魔導士のように小難しく考えるのは(しょう)に合わない」

面白くないと言いたそうなロファーを、薄ら笑いを浮かべたままジゼルは横目で見ていたが、

「そう言えば、用があって来たのでは?」

と、思い出す。


「あぁ、そうそう、実はね……」

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