表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の恋文【宛先知れず】  作者: 寄賀あける


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/15

10

 ドアを叩く音は断続的に、すすり泣きは継続的に、寝室にまで聞こえてくる。それでもドアの前の居間にいるよりは幾らかマシだった。とても落ち着けるものではなかったが、聞こえないふりをしていつも通りのんびりと、心情的にはとてものんびりとは言えないが過ごした。


 (しばら)くして、ジゼルが低いテーブルの上を片付け、魔法陣が描かれたビロードのシートを広げた。

「少し、カードを見てみよう」

美しい装飾のカードを持ちだしてくる。


(うらな)い?」

ロファーの問いにジゼルは答えない。シートの上でぐるぐるとカードを()き混ぜ、(ひと)(まと)めにすると、二つの山に分けた。


 もともと下にあったほうの山を手に取り、一枚一枚、表に返してシートの上に並べていく。

「過去の座に『火』が出ている。現在の座は『遭遇』で、近未来は『暴露』だ。そして解決策は……『変身』となっている」

「どういうこと?」

カードを片付けながら、今度はジゼルも答える。


「火のカードは西の街の火事を指すんだろうね。遭遇のカードは、ロファーは気付いてなくても、どこかで遭遇してて、それで恋心に火がついたってところだ」

その程度なら俺にも判りそうだ、と思いながらロファーが先を促す。


「うん、それで?」

「あとは、判らない。占いは専門外だ」

「おい、なんか誤魔化してないか?」

クスリとジゼルが笑う。


「魔導士にもいろいろいるのだよ。星を読むのを得意とする星見魔導士、学者は真理を探求するのに向いた特性を持っているし、占いが得意な魔導士だっている。わたしは占いにはあまり向いていない。あれこれ考えを巡らすなんて、面倒で好きじゃない――さぁ、この辺で説明は終わり。夜も更けた、寝よう」

おまえはどんなことだって面倒なんだろう? そう言いたいロファーだったが言えばまた、ご機嫌を損ねるのでやめておいた。


 ベッドに潜り込んでからも、当然のようにドアを叩く音とすすり泣く声は続いている。

「我が住処の周囲が果樹園だというのが(あだ)になったな」

寝返りを打ってジゼルが言う。


「人通りがないから人目もない。隣家が気づくこともない。やりたい放題だ」

「結界から摘まみ出す事はできないのか?」

「そんな種類の結界にしておけば良かった。街人しか来ないと思っていたから、念のための他者魔導術無効しかしていない。これがあれば敷地内はわたしの領域だ。普通なら、わたしに用のない魔導士は遠慮して入らない」

言いながら、怒りが込み上げるのか、ジゼルの体が小刻みに震える。、ロファーが懐にジゼルを包み込んで『よしよし』と頭を撫でる。


「ロファー?」

「うん?」

「ずっと傍にいてくれる?」

クスッとロファーが笑う。今まで何度、同じセリフを聞かされたことか。


 物心ついたころからずっと、森の中の一部屋しかない建屋に閉じ込められ、一人で過ごしていたとジゼルは言っていた。朝夕、世話係は部屋を訪れたが用事を済ませると、すぐに帰って行ったらしい。


 それを寂しいと思ったこともない、寂しいという気持ちもよく判らない、とジゼルは言った。友達は? と聞くと、森の小鳥たち、となんの疑問も持たない明るい笑顔で答えた。その時、ロファーがジゼルに抱いた思いを、ジゼルはきっと知らないだろう。


「ずっと傍にいるよ」

「一生いてくれる?」

それにはロファーも少し口籠(くちごも)る。


「そうだね、ジゼルがいてくれ、と言うのなら」

何も考えず、もう寝ようよ。ロファーが言うと、少しだけロファーの顔を見詰めてから、ジゼルはロファーの胸元に潜り込んで目を閉じた。


 糞生意気で、自分勝手で、我儘な魔導士は、ほんの子どもで、だけど、自分を守ってくれる大人が必要だと、やっと気が付き始めた。本来なら親の役目、それが自分にできるだろうか? 不安に思いながらも、ジゼルを守るのは自分だと、ロファーは考え始めている。


 あと何年、この魔導士は自分を頼ってくれるのだろう? きっとそのうちロファーを必要としなくなる。そうなって欲しい。けれどその時、俺は途轍もない喪失感を味わいそうだ。


 見た目の年齢の割には心が幼い魔導士の、実際の年齢をロファーは知らない。聞けば、魔導師に年齢を聞くものじゃないと(はぐ)らかされ、五千年くらい前に生まれたのかも、なんて(から)われる。見た感じだと十二か三か? まるきり子どもとも言えない年齢だが、ロファーの目には子どもに過ぎない。そうじゃなければ、たとえ性別不明でも、同じベッドで眠るなんてできない。懐に抱いて眠るなんてとんでもない。育ちすぎた子ども、ロファーはそんな目でジゼルを見ていた。


 ジゼルが寝息を立て始める。ロファーはそっとジゼルから離れ、ベッドの端に寄った。今夜は何度殴られ、蹴られるのだろう? 苦笑しながら仰向けになると天窓から星空が見えた。空は晴れ渡っているのだろう。やがてロファーも睡魔に引き込まれていった ――


 ドンドンドン! ドンドンドン!


 誰かがドアを叩いている。マーシャがミルクを持ってきたかな? いや、それにしては音が大きい……半覚醒のまま、ロファーが上体を起こす。ジゼルもさすがに気付いたようで、目を擦っている。


 窓を見るとまだ外は暗い。そして、そう、すすり泣きが聞こえない。


 ドンドンドン!


 再度の物音に、ロファーが音の出どころを探した。ジゼルが起きだして、身構える。


 ドンドンドン!


「そこか!」

ジゼルとロファー、同時に天窓を見上げた。そこには外から中を覗きこむ人影があった。


「おのれ!」

ロファーが止める暇はなかった。


 身体からスパークを(ほとばし)らせたジゼルがドアに向かう。

「ジゼル、待て!」

慌ててロファーが追いかける。が、間に合わない。


 バン! と音を立て、ドアを蹴り開け、外に躍り出たジゼル、屋根を見上げて怒鳴り声を上げた。

「このぉ、おい! 降りてこい! どうやって屋根に上った!」

ロファーも慌てて建屋から出て、ジゼルの横で屋根を見上げた。


 すると、屋根に半ば隠れながら返答がある。

「降りてもいいけど、攻撃しない?」


「馬鹿か! 人の眠りを妨げやがって、ぶん殴ってやるから来い!」

いつものジゼルからは想像できない酷い言葉遣いだ。


「あら、わたくしを殴る? そんなことして父があなたを許すかしら?」

「また、親の七光りか? あいにく前にも言ったが、ここは南の陣地だ。あなたの父上は北ギルドでは権力をお持ちだろうが、ここではなんの権限もない」


 ジゼルの口調はきついが、言葉使いは普段通りに戻っている。少しは冷静になったかと、ロファーがほんの少し安心する。


「あなたは魔導術が使えるけれど、わたしはここじゃあ使えない。不公平だわ」

「自分でわざわざ出向いておいて、勝手な言いぐさは如何(いかが)なものか?」

「だってそちらが隠してしまうのだもの。こうでもしなければどうにもならない」


「あいにく譲る気はない」

「本人も同じ考え? 飼猫ではなく、わたくしの夫に、と望んでいるのですよ?」

「よくも知らない女に()れる男がどこにいる、と、当のロファーが言ったがな」


「惚れて欲しいとは思っていないからご心配なく。わたくしの物にできればそれでいいの」

「物扱いか!」

と、急にジゼルが吹き出した。


 どこにあるか判らないジゼルのツボに()まったようだ。


 笑い転げるジゼルの横でロファーがオロオロしていると、

「ロファー、ここに来て、星がきれいよ」

と、屋根の上から声がする。


 ジゼルが更に笑い転げ、ロファーは(たま)らず悲鳴を上げる。


「ジゼル、なんとかしろ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ