羽根のない悪魔~生き場所のないハーフの少年、食べることも飲むこともやめたその先に~
少年は、人間の母と悪魔の父とのハーフだった。
母親は体を売って商売していた。父親はそんな母の、行きずりの客にすぎなかった。母親は少年を産んですぐ、悪い病気で世を去った。少年の背には、羽根はなかった。ただ尻に短いしっぽがあった。
少年はひとりぼっちだった。人間の子どもたちの遊んでいるところに行って、「一緒に遊ぼう」と言うと、「悪魔は仲間に入れない」と言われた。
「お前、悪魔じゃんか? 悪魔は悪魔と一緒に遊べよ!」
だから悪魔の子どもたちの遊んでいるところへ行って、「一緒に遊ぼう」と言うと「人間とは遊ばない」と言われた。
「お前はただの人間だろう? 人間は人間と一緒に遊べ!」
少年は、ひとりぼっちだった。淋しかった。悲しかった。あんまり悲しいものだから、少年はごはんを食べなくなった。水の一滴も飲まなくなった。
少年は白い木の枝みたいにやせ細り、やがて飢えて渇いて倒れた。倒れた背中から白いしろい羽根が生え、少年は天に昇っていった。
天国で、彼は言われた。「ここにおいで、天使よ。お前はここにいていいよ、いつまでだっていて良いんだ」……天使の目から、涙がこぼれた。天国の空は限りなく澄みきって甘く優しく、少年はやっと自分の居場所を見つけた。
* * *
そうして、そこで目が覚めた。混血の少年は夢であふれた涙をぬぐい、自分の背中に羽根など生えていないことを確かめた。黒い羽根も、白い羽根も生えてはいない。
「……当たり前だよ。当たり前だ」
少年はひとりつぶやいた。そして孤独な少年は、ベッドをおりて着替え始めた。カフェオレ色の『どっちつかずな』肌色に、白いシャツをばさりとはおる。くちびるをきつく噛みしめて、よし、と無言で気合を入れる。
夢より残酷な現実に、今日も歯をむいて立ち向かってゆくために。
(完)