表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/31

SCENE 25

『――で、これが神様の考えた最高の筋書きってわけ?』


 人々が、天国と呼ぶ場所がある。

 あるいは、天界とも。


 さえぎるものなき白の空間。

 その聖なる白亜のテラスで、小さな翼の生えた男の子が言った。

 空中に腰かける彼の隣には、神々しき光の球体が浮遊している。

 

 自分の膝頭ほどの大きさしかないその光の球に向かって、男の子はあきれたように問いかける。


『もしかして、君ってあまり脚本の才能ないのかも。ね、演劇の神ビュオニセードゥラ様? だって、ケイお姉ちゃんとベルトルト皇太子殿下のラブロマンスをこんな安直な悲劇で幕引きするなんて、悪いけどセンスなさすぎだ。しかも、わざわざ二度も死にもどりのループまでさせて?』

『――……、――――……』

 

 光の球が、翼の生えた男の子に抗議の意を唱え明滅する。

 それは天界に住まう神と天使の、愛に満ちた対話である。


『いや、この件に関しちゃゆずらないよ。だいたいね、君はボクに借りがあるでしょ? いくら天国が退屈で寂しいからって、この天才演劇少年を君は早く呼びよせようとしすぎたんだから。まあ、来てみたらけっこうここも楽しいからボクは別にいいけどね』


 指先で光の球をツンとつついて、天使の男の子がキッパリと神に告げる。


『さあ、わかったら観念して、あのベルトルト殿下の魂をよみがえらせなさい。ケイお姉ちゃんのもとへ返すの。運命の出会いなんてそうそうないんだから。君にはボクがいるんだから、寂しくないでしょ』


 巧みな言い回しで、神を文字通り手玉に取り奇跡を起こさせる。

 その翼の生えた天使の名は、コンスタンティンといった。





 ***





 濡れそぼる皇都の小道に、光が降り注ぐ。


 そこには跪いて不器用に泣きじゃくる天才悪役女優と、たったいま息を引き取り身を仰のかせた劇作家皇太子の姿。

 運命が巡り合わせ、死によって分かたれた二人。


 だがその筋書きをいま、神のもたらす奇跡の光が修正する。

 七色の輝きが雲間から射し、精悍な男の肉体から傷を取り払う。

 その体に、かけがえのない魂をよみがえらせる。


「殿下っ、ベルトルト殿下……。い、嫌です……、いかないで、お、お願い――」 


 いまだ涙にむせぶそばかす娘――ストロベリーブロンドの新人悪役女優ケイは、その奇跡に気付けない。

 だから彼女の泣き濡れた頬に、大きな手はそっとあてがわれる。

 ゴツゴツとしたぬくもりを宿すその手が、ゆっくりと半身を起こしざま彼女の涙を拭って。

 

「――え……、で、殿……下……?」


 呆然として、それからケイはようやく気付く。

 失いたくない人の、愛おしい人のその微笑みがそこにある。

 目が合って、ギュッと抱き寄せられた。


「――俺は間違っていた」


 はじめて聞く砕けた主語で、彼の声が体に響く。


「いまわかった。お前を一人にするなんて、たとえ運命だとしてもバカげてる。……許せ、ケイ。もう二度と、お前のそばを離れはしない」


 彼の肩越しに、七色の光に照らされて路面に弾ける無数の雨粒が見えた。

 それがあまりにもまぶしくて、思わずケイは彼の胸もとにもぐり込む。

 あたたかかった。

 だからおでこを擦りつけて、小さくたずねる。


「ベルトルト殿下、こ、これって……き、奇跡ですか――?」


 恐るおそる上目遣いに顔を上げれば、彼もまっすぐにこちらを見つめていて。

 そしてそのベルトルトの間近な瞳はいろとりどりの光に濡れながら、ケイを映し込みこう答えたのだ。


「そうだな。これはきっと夢じゃない。それ以上の――奇跡だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ