お弁当派? 社員食堂派? いいえ僕は帰宅派!
昼休みを告げるチャイムが盛大に鳴った。僕は目の前のパソコンから、壁掛けの時計に視線を移した。現在の時刻は12時。我が社では、今から40分間が昼の休憩時間だ。
僕は肩に痛みを感じて、上にグッと伸びをした。そして鞄を手に持つと、椅子から音もなく立ち上がった。自分でいうのもなんだが、今の僕は全く生気を感じさせない。例えるなら、幽霊みたいなものである。
「うーん! やっと、やーっと昼休みですね! 佐々木さん、お顔がお疲れですよ! えぇ、火を見るよりも明らかに!」
席が隣の後輩社員。彼女は、肩を回して、首を回した。事務仕事とは、年齢に関係なく身体にダメージを負うらしい。
「そういえば、ずっと気になっていたんですけどね。佐々木さんって、どこでお昼ごはん食べているんですか? 社員食堂には来てないですし」
どうやら彼女には、まだ僕のお昼事情を話していなかったようだ。
「僕は家で食べているよ」
「家!? わざわざ帰ってるんですか!?」
「うん、まあね。でも、家まで歩いて5分だし」
「いやいや! それでも大変じゃないですか!……って、引き留めてごめんなさい! 早く行ってください! さあさあ!」
彼女に、背中をぐいぐいと押される。半ば強引に追い出される形で、僕は事務所を後にした。
「さ、寒い……」
会社の正門に向かって歩く。今日は日差しがあるものの、いつにも増して寒かった。ため息のように吐いたそれは、真っ白に変わった。天気予報を思い出す。今日は、夕方から雪が降るらしい。
寒さを少しでも紛らわせようと、僕は考えを巡らせてみた。改めてみると、40分という制約の中、10分もの貴重な時間を徒歩に使うのは勿体無いかもしれない。しかも、冬は凍えるほど寒いし。夏だって、干からびそうなほど暑いし。お弁当を持って行けば、もしくは社員食堂に行けば、全てが解決するのでは────
「パパー!!」
その一言で、僕は全てを忘れてしまった。
「パパ! 今日のお昼はパスタだよ! アイの好きなナポリタン!」
正門の外には、桃色のモコモコマフラーを巻いた、今年4歳になる娘が、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。その傍には妻がいて、優しく微笑んでいる。
「お待たせ。ナポリタン美味しいもんなぁ。楽しみだな〜」
娘は妻と手を繋いでいたが、空いている方の腕を僕に伸ばした。僕は娘の手をぎゅっと握った。その小さな手がとても温かくて、僕は何故か泣きそうになった。
「パパ! 早くお家行こ!」
太陽の日差しが暖かい。どうやら、今はもう春だったようだ。いや、これは完全に僕の勘違いなのだけど。そう本気で思えてしまうくらい、僕の心はホカホカしていた。
「うん、行こう!」
僕は妻と娘、2人に向かって微笑んだ。そして僕たち3人は、いつも通り、我が家へと向かって歩き出した。
作者も幼き頃は、会社まで父のお迎え行ってました




