調査隊
見上げるほどの高さがある木製の門。その前に十人ほどのエルフと数人の人間が集まっていた。エルフは弓や短剣を、人は剣と小盾を身に着け武装している。中には武装せず大きな荷物を背負っている者達が数人いた。彼らが整列し、ただ眼前の台を見つめる。そも様子は軍人のようだ。彼らの前に置かれたステージに、簡素なドレスを着た一人の少女とそれにつきそう二人の騎士。そして、民族衣装に身を包む老年のエルフが登る。
「先の侵攻では、皆よくやってくれた。皆の活躍により、この里も救われた。エルフの長として、勇敢に戦ってくれた戦士たちに感謝を示す。ありがとう」
老年のエルフが頭を深く下げる。そして今度は、言いづらそうに口ごもった。
「そして、今日より暗黒樹海の深部調査を行う……今回の目的は、樹海中央部にて観測された謎の光、先の侵攻にも関係があるとみられるこれの正体を探る」
老エルフは手を強く握りしめた。
「君たちを死地へと送ることを許してくれ」
暗黒樹海の深部。そこは凶暴な魔獣が多数生息し、目まぐるしく変わる気候。それに加え独自の進化をした動植物により、未知の生態系をしている。これまでも何度か調査隊は出しているものの、帰ってきたものは片手で数えられる程度だ。この調査隊も必ず誰かが死ぬ。いや、ほとんどが死ぬだろう。それが分かっている老エルフはやるせない気持ちだった。隣にいる少女も悲痛な顔をしている。
「アミル王国、第三王女のリリア・ウル・アミルです。皆さん今回は集まっていただき、ありがとうございます。この調査を成すのは、大変困難でしょう。しかし、エルフと人。この二種族が手を取り合え
ば、不可能はないと思っています」
少女が調査隊を見渡す。これから死地に行く。にもかかわらず、彼らの目には覚悟が見える。
「危険だと判断したら、すぐ撤退を。必ず全員で戻ってきてください」
少女が深々と頭を下げる。同時に後ろの門が開いていく。重々しい扉はゆっくり開き、まだいつも入っている森だというのに、どこか暗く重圧を感じる。男のエルフが調査隊の先頭に立つ。思いっきり息を吸い込むと、周囲を揺らすほどの大声を出す。
「調査隊!出発!」
彼らは勇気をもって足を踏み出し、覚悟をもって森の中へ入っていく。住人たちはその様子に涙しながら応援と激励を叫んで送り出した。調査隊に参加したルナリアはそれらを背に受けながら決して振り返らず森へと入る。弓を握る手に一層力を入れた。
暗黒樹海の最深部。夜より暗いこの場所に異変が起きていた。一部木々がなぎ倒され、一部光が差し込み、地面には畑、木々の枝の上に橋が渡され、大木がくりぬかれ、ツリーハウスのようになっていた。何かを引きずる音が暗闇から、この聖域のような場所に向かってくる。次の瞬間光に照らされたのは、巨大な蛇の頭。蛇はそこから、光の中心へと一気に跳ぶ。そして、ズシンという重々しい音をたてて地面へと沈んだ。ピクリとも動かない蛇の目は白目をむき、生気がない。先ほど蛇が来た暗闇から、今度は人影が二つ現れる。ビリビリの服、伸びきった無精ひげを蓄えた、世捨て人のようないで立ちの男が二人。
「あ~なぁ、誠~じゃんけんしよ」
「ふざけんな徹、こいつの解体は二人でやるそう決めただろ?」
すっかり、異世界仕様になった誠と徹。二人はまだ、この世界でヒトとしゃべったことがなかった。
「「あ~呪いのせいでだるーい!」」
情けなく寝転ぶ二人を、聖域の中心に座す二本の若木が見守っている。
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