異世界へ!
誠と徹は草原に立っていた。目前に見える丘には、天を突くような樹木が一本生えているのが見える。
「あれは神樹。この世界すべての命の源です」
「ここは?」
「ここは我々神々の住処。【隠された天庭】と呼ばれる場所です」
「まだガイアランスではないのか……」
「こちらをお二人に渡したかったのです」
メルクリスは二人に法衣と種を渡す。
「これは?」
二人が受け取ったものを広げて眺めながらメルクリスに尋ねる。
「それは使徒の正装です。地上で私を呼ぶ際にはそれを来てください。特殊な糸を紡いで作った神聖なものではありますが、鎧のような防御性はほとんどないので、戦闘では着ないでくださいね」
誠と徹は法衣に袖を通す。白を基調に金の刺繡が施されており、自然と背筋が伸びるような、厳粛な気持ちになる。不思議とサイズがぴったりだ。
「似合ってますよ」
メルクリスが徹たちの肩に手を置く。すると法衣が光だし、二人の体に吸い込まれていった。急にパンイチになった二人は、自分の恰好を確認してから、とりあえず股間と胸を隠す。
「「きゃーメルクリス様のえっちぃ」」
棒読みな反応をする二人に半ば呆れながらメルクリスが指をはじくと、二人はここに来た時の服装に戻っていた。すっかり二人のノリに慣れてきたメルクリスは、無視して話を進める。
「次はこれです」
そういいながら二人に渡した種と同じものを取り出す。
「これは神樹の種、地上に着いたらこれを植えてください。育った樹木はお二人の望んだ武器へと変化し、あなたたちとともに経験を経て成長していきます」
「へー」
そういって誠は種をマジマジと見つめる。
「相棒だな」
「そうだな」
徹と誠は種を大事にしまう。
「ではお二人を転移させます。場所の希望はありますか?」
そういってメルクリスが手を振ると、広大な立体の地図が現れる。
「これがガイアランスの全貌です。お二人はどこに行かれますか?私のお勧めはこの村が周りの魔物もそこまで……」
「「ここの森で」」
「え?」
二人は地図上に真っ黒に染まっている森のを指さした。
「あのーなぜそこに?」
「森の中なら獣もいるだろうし、川もあるはず。水と食料の二つがそろってる」
「それに、今のおれたちはガイアランスを渡る力をつけなきゃいけない。人間とかかわるよりより過酷
な状況に身を置いていち早く力をつける必要がある」
二人の真剣な表情にメルクリウスが気圧される。
「何より!」
「修行といえば!」
「大自然の中!」
二人がキメ顔でいう。メルクリスは大きくため息をついて、天を仰ぐ。
『なんで、この二人を選んでしまったんだ私……』
「あと、お聞きしたいんですけど」
「あ、はい?」
誠の質問に我に返ったメルクリスが、返事する。
「俺たちにデバフかけらんないか?」
「へ?」
また突飛な提案にメルクリスが間の抜けた声を出す。
「いや、鍛えるとなればかける負荷が大事じゃないかと思って、過重力状態とか、腕力に制限とかかけといて、鍛錬すればより効率的に強くなれるのではないかと思って」
「あーなんかアスリートがやってる高山トレーニングみたいなやつか」
「そうそう、やっぱり、おもり外してここからが修行の成果だ!みたいなのが定番だろ?」
二人の会話について行けていなかったメルクリスが再び我に返る。
「お二人が希望してる森は暗黒樹海と呼ばれるほど危険な場所なんです!危険な魔物魔獣はもちろんですが、雨季乾季の移り変わりも激しい!それに付近に人間の街どころか村もないんですよ!ただでさえ、そんな過酷な環境なのに自分たちの能力を制限するなんて……私はお二人を死なすために呼んだのではないんですよ!」
激昂するメルクリスに徹は冷静に応える。
「俺たちの旅はこれぐらいしないといけないと思うんだ。相手強大な能力を持ち、俺たちよりも長くこの世界で生活している。それに、この世界の強者達も【勇者】の味方になっているかもしれない。そう考えると、俺たちは普通のやり方じゃあ到底間に合わない。だから、ギリギリをせめて力をつける必要があるんだよ」
メルクリスは徹と目を合わせる。その目には確かな闘志が宿っているのを感じた。メルクリスは頭を抱
え悩む。
「俺たちだって死ぬつもりはないよ。メルクリス様」
そういって誠はメルクリスの方に手を置く。
「でも、死ぬ気にならなきゃできないこともある」
誠の目にも燃え盛る闘志が宿っている。メルクリスは大きくため息をつきながら、二人に手をかざす。
「これからあなた方にかけるのは、呪いです。これによりあなた方の身体能力、身体機能。、魔力の運用能力等々のすべての能力の三割をこの呪いによって封印します」
「三割か……」
「これが最大の譲歩です!これ以上はあなた方の生存率が五割を切ってしまう」
「つまり、生きるか死ぬか五分五分ってことか」
「上等じゃないか」
二人は顔を見合わせにやりと笑う。
「この呪いは二年で自動解呪されます。逆に言うとそれまではどんな手を使っても解呪されません。二年で仕上げてください」
「「任せとけ!」」
呪いをかけ終わると、二人の体がガクンと沈む。
「おぉすごいな」
「三割でも結構来るな」
自分の体が重くなるのを実感しているにも関わらず、二人は笑いあっている。そんな二人を見てメルクリスは呆れ気味だ。
「では、次に地上で私を呼び出す方法をお話しておきますね」
メルクリスは地上での降臨するために必要な儀式の詳細を丁寧に説明した。
「さて、そろそろお二人を転送しますね。準備は良いですか?」
「「おう!」」
二人は力強く返事を返す。メルクリスは頷き、どこからか取り出した杖で床を叩く。すると、徹と誠の足元に魔法陣が広がっていく。
「お二人の旅に幸多からんことを……どうかご無事で!」
光に溶けていく二人はメルクリウスの呼びかけに笑顔で応えた。
二人は気が付くと闇の中にいた。鬱蒼と茂った木々は太陽の光を遮り、昼だというのに目が慣れるのに時間がかかった。ギィヒィと耳障りな鳴き声がこだまし、暗い雰囲気に拍車をかける。二人は背中合わせになり様子を探る。明らかに獣の雰囲気を感じる。すると近くの茂みから、人より大きな狼や、ゴブリンの群れがぞろぞろと出てくる。絶体絶命の状況ですら、ファンタジー要素に胸を躍らせる二人は、人間としてどこか壊れているのかもしれない。にやりと笑い声を張り上げる。
「「異世界の魔物たちよ!ここでの生き方、御指南願おうか!!」」
空気を震わせる二人の雄たけびに魔物たちが一瞬たじろいだ。二人は魔物たちとの戦いへと身を投じていく。森はしばらく魔物たちの絶叫が止まらなかった。
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