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王都とキッドの事情

 大きな門をくぐると、整備された石畳の道が出迎えた。歩道と車道にしっかりと別れており、一定距離でガス灯ののようなものが立っている。シャドウでは、馬車が行き来し、歩道は人の往来が激しい。店の呼び込みや、御者の掛け声などの声がこの街の活気を現している。誠と徹は、物珍しそうにキョロキョロと見回す。日に照らされ、荘厳な城が見える。そして、その反対側に、もう一つ神々しさを放つ建物があった。


「あれが王城、あっちが教会ですね」


仕事を同僚に託したキッドは、誠たちについてガイドしてくれる。


「仕事は良いのか?」

「えぇ、今日半休なんで」

「半休……」


キッドのセリフに徹が顔を顰める。


「どうかしました?」

「いや、気にしないでやってくれ。久しぶりに労働用語を聞いて、喰らってるだけなんだ」


徹と誠が、眩しそうに眼をしぼめながら遠くを見る。


「は、はぁ」


キッドが、少し困りながらも先導して歩いて行く。


「そういえば、自己紹介が遅れました。アミル王国王都警備隊所属のキッドです。よろしくお願いします」


キッドは、徹に背負われているサンロアに深く頭を下げた。


「あ、えと、サンロアです!」


慌てて、サンロアも挨拶を返すとキッドはニコッと笑う。


「徹さんたちはこの後どうするんです?」

「宿を探して、その後に飯屋にでも行こうかと考えていたよ」

「それなら、おすすめがあるんです!レストランも入ってるので、便利ですよ」

「お、じゃあお願いしようかな。皆はどうだ?」

「「「異議なーし(です)」」」


全員の同意を受け、キッドは道すがら王都の構造を説明しながら宿へと導いていく。徹たちはチラリと路地を見る。大通りとは対照的に薄暗かった。大通りを歩いて行くと、道行く人がこちらを振り返る。


「さすがにローレルの民を連れてると目立つわね」


ルナリアは、周りを警戒しているものの、その視線が自分にも向いていることに気づいてない。


「いや、ルナリアも大概だろ」

「だよな」


誠と徹が呆れたようにいきを吐くと、ルナリアが白い眼を向けてくる。


「なによ」

「ルナリアだって人目を引く見た目をしてるってことだ」

「エルフなんて王国じゃ珍しくないでしょ?」


確かに、ここまでの道すがらエルフや獣人といった他の種族とすれ違ってはいるが、ルナリアの美しさは一味違った。太陽の光を受け黄金色に輝くブロンドの髪、鍛えられた均整の取れた体、幻想的な白い肌。どれもが、人目を引いていた。


「これだから自覚のない奴は」

「なぁ」


二人は、両手を広げ方をすくめる。ルナリアはその様子に、イラつきを隠せなかった。


「あなた達に絶対言われたくないセリフだわ」


ルナリアが、誠の両頬を引っ張ってじゃれ合っているとキッドが立ち止まる。


「着きましたよ。ここが自分のおすすめの宿、止まり木亭です」


木をモチーフにした看板が、壁に吊り下げられている。キッドが、ドアを開けるとチリンチリンという可愛らしいドアベルの音が鳴る。


「いらっしゃ……あら、キッドさんじゃない」


中から赤毛の長髪を一つに結んだ女性が出てきた。背中には、可愛らしい赤ん坊が指をくわえながら眠っ

ている。


「おかみさん、お久しぶりです。今日は知り合いが王都に来たので紹介しようかと……部屋って空いてます?」

「あらあら、そうなの?皆さんいらっしゃい。部屋なら空いてるからご自由に使ってちょうだい」


キッドに挨拶された女性は、そういうと一旦奥に引っ込んだ。しばらくして、鍵を持ってきたおかみさんは、ルナリアと誠に手渡した。


「うちは男女で同室はできないことになってるから、二部屋でお願いね。ご飯はこのまままっすぐ行ったところのラウンジで提供してるわ。部屋はそこの階段を上がって二階ね。お金は、一泊につき千ジェンね。食事は、別途食堂で会計だから気を付けてね。食堂は朝の六時から夜の十時までだからね」


おかみさんはにこやかに説明を終える。誠たちはとりあえず一週間で宿をとった。会計を終え、部屋に荷物を預けようと階段を上る。下から、キッドが呼びかけた。


「先に食堂に行ってますね」

「おう!」


サムズアップして、返事をした徹はに甲斐でサンロアを下ろしルナリアに預けた。


「サンロアちゃん行きましょうか」

「はい!徹さんここまで背負ってくださってありがとうございます!」

「気にするな!羽のように軽かったしな!」


そういって、徹たちは部屋へと入っていく。その表情は、修学旅行に来た高校生のように無邪気だ。


「私たちも行きましょうか」

「はい!」


二人を見送ったルナリア達も自分たちの部屋に入っていく。部屋の中に入ると、ベッドが二つ並んでいる。綺麗に整えられており、布団も清潔感がある。窓際に小さなテーブルがあり、それを挟むように椅子が置いてある。


「良い部屋ね」

「えぇ」


ルナリアは、サンロアに肩を貸しながらベッドまで連れて行く。サンロアをベッドに座らせると、自分の荷物を椅子においた。


「教会ってあんなに豪華なのね」


ルナリアが窓を覗き込みながら、ひときわ目立つ建物の一つを見つめながら言う。


「私、初めて見ました……」


自信なさげにサンロアが答える。その姿にルナリアは首を傾げた。


「もしかして教会にはいなかったの?」

「いえ、教会にはいたんですけど……。私は、見習の修道女だったので、ほとんど教会の中から出ないんです。教会の外に出るときは目隠しをされるので、外観は見たことないんです」

「へ~徹底してるのね」


教会の徹底ぶりに、心の底から感心した。


「体の方はどう?」


サンロアの方を振り向いたルナリアは、サンロアの隣に座る。弾むベッドが、サンロアを少し浮かした。


「もう大丈夫です!」


勢いよく立ち上がり、両手をバンザイの形で振り上げる。しかし、腹に一瞬鋭い痛みが奔る。


「うっ」


小さなうめき声が漏れると、ルナリアは優しく微笑みながら傷があった場所に手を添える。淡い光が手に集まり、じんわりと暖かく感じた。痛みが遠のいて行く。


「無理しちゃダメよ?必ず私たちが助けるから。今はしっかり休みなさい」


そういってルナリアは、優しくサンロアの頭を撫でる。心地よさげに目を細めるサンロアの胸は、チクリ

と痛んだ。



 食堂に降りると、すでにキッドと徹、誠が集合していた。

「おう来たか」

「サンロア、もう大丈夫か?」


誠と徹は手を挙げて二人を迎える。


「はい!大丈夫です!」


サンロアは、大きく頷く。歩く姿にフラつきもない。安心した二人は、笑顔になる。


「では、こちらにどうぞ」


そういってキッドは、テーブルの並んでいる食堂を通り抜けて、奥の部屋に入る。そこには、長机が一つ置かれていた。食器が人数分置かれていて、それぞれ席に着いた。


「個室か?」

「はい、ここは頼むと個室にしてくれるんですよ」

「へぇ~」

「まぁその分お金もかかるんですけどね」

「個室ってことは、内緒話か?」

「はい。手紙だと誰が見るか分からなかったので、ここでお話させていただきたいんです」


キッドの顔が神妙になる。それに伴って、部屋の雰囲気がピリついてくる。


『グゥゥゥゥゥゥゥウウウウウ』


轟音が部屋に鳴り響く。


「すまん」


誠が顔を両手で隠した。


「しょうがねぇさ。外からめっちゃいい匂いしてくるしな」


徹が、誠の肩を叩いて慰める。


「まずは、ご飯食べましょうか」

「そうですね。食事をしながらゆっくり話しましょう」


ルナリアの提案にキッドも頷き、店員を呼びいくつか料理を注文した。



 机に様々な料理が、並ぶ。料理を運んできた少年に、徹が話しかけた。


「君はこのお店の子か?」

「はい!そうです!」


元気な返事に、思わず破願する。


「偉いな。料理を運んでくれてありがとう」

「いえいえ!ごゆっくりどうぞ!」


少年も笑顔で、部屋を出ていった。各々が目の前の飲み物を持ち、突き合わせる。


「「「乾杯!」」」


徹達の威勢の良い掛け声に、サンロアは遠慮がちに呟くように続く。しばらくにぎやかに飲み食いをしていると、キッドが切り出した。


「そろそろ、本題に入りますね」


まさに今、酒を入れようとしていた徹は、グラスをそっとテーブルに戻す。


「自分が騎士団を辞めた理由と今の王都の状況そして、勇者についてです」


誠も、口の中のものを急いで飲み込んだ。


「自分は、今騎士団を抜け、王都警備隊という別も組織に属しています。そこは、主に王都内の警邏や治

安維持の役割をしているところなんですが、自分がそこにいるのは、【魔術院】の調査をするためです」

「【魔術院】?」

「魔法などの研究機関で、主に魔道具の開発をしていますね。外にあった街灯や、ここの料理を作るための調理器具なんかも魔道具です。生活を豊かにするものを作ってくれています。しかし……」


キッドの顔が少し曇る。


「【魔術院】の魔道具製作には、いくつか制限があるんです。その中の一つに、軍事魔道具の製作についてです。兵器になりうる魔道具を制作する場合、国王と議会の承認を得なければならないのですが、現在製作している疑いがあります」

「陛下にも内緒で?」


ルナリアは、神妙な面持ちでキッドに尋ねる。キッドは首を横に振った。


「分からないんです。国王陛下は今、昏睡状態で眠っています」


ルナリアは目を丸くし、言葉を失った。


「何者かに毒物を盛られた可能性もある。その影響で王城内もピリピリしています」

「いわゆる継承権問題ってやつか?」


キッドは静かに頷く。


「現在、騎士団はそっちの対応に苦慮していまして、魔術院の調査に手が回らないんです。そのため、ガルニさんに志願し、王都警備隊に入って魔術院の調査をしています」

「そこまではなんとなくわかったが、なんでキッド君が?」

「【魔術院】の兵器が【勇者】の疑惑があります」


そこで、徹達の目が鋭くなる。


「不自然に教会の人間の出入りが頻繁になった時期があったんです。リリア王女が勇者召喚をしたのではないかと疑われて、調査しようとした矢先に……」

「国王陛下が倒れた……か?」

「はい」


誠は、一切れ肉をつまみ、口に放り込む。


「さすがに、偶然というにはタイミングが合いすぎか……」

「リリア王女もそう考えたようで、今はご自分のことで手一杯になってしまったんです。お二方には申し訳ないとおっしゃっておられました。今は自分ともう一人の協力者がこの件を調査してます」

「なるほどな……そっちの事情は分かった。俺たちも協力させてくれ」

「ありがとうございます!助かります」


頭を下げるキッドの肩に誠が手を添える。


「いやこちらこそありがとう。ここまで調べてくれいてくれて助かるよ。それに、もともとは俺たちの役目だ」

「そうそう。こっちこそ突き合わせて悪い。協力を頼む」


徹と誠はキッドに頭を下げた。お互いの頭下げ合戦が落ち着いたところで、キッドに、サンロアの事を説明した。


「サリナという少女ですか……すみませんが聞いたことないですね。もしかすると、サンロアさんと同じように教会から出れないのかもしれない……。それに、魔獣工機というのも聞いたことがない。教会がそんなものを作ってるなんて」


キッドも思案顔になる。そこで、ルナリアが手を叩いた。


「とりあえず、お互いの状況は話したし、今すぐどうこうできるものでも無いわ。動くのは明日からにして、今は再会を喜びましょ」


そういって、暗い空気ごとグラスのエールを飲み干した。


「それもそうだな」

「サンロアはもっと食べておけ、明日から忙しくなるぞ」

「はい!」


各々が好きに飲み食いをはじめ、また談笑が始まる。暗黒樹海でのダンジョン突撃騒動には、キッド驚きで飲み物を噴き出し、大侵攻時の四人の話などは、サンロアが目を輝かせて聞いていた。次々と重ねられるからザラに、店員の少年は忙しそうに右往左往している。


最後まで読んでいただきありがとうございます!!

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