再会
目を開けるとそこには、広い平原が広がっていた。背の低い草が絨毯のように敷き詰められ、風になびいて波打っている。遠くに見える、壁に囲まれた街に向かって一本の道が伸びている。
「お?起きたか?そろそろ着くぞ」
徹が、背中越しに声をかける。
「あ、ありがとうございます」
のんきに寝てしまっていた自分を恥じ、赤面する。
「サンロアちゃんはあそこから来たの?」
ルナリアは、遠くの街を指差す。白い壁に囲まれ、鉄の扉がここからでも、その大きさを主張している。
「実は、出たのは夜中だったので、よくわからないんです……多分あそこだと思うんですが……すみません」
「良いのよ。気にしないで」
そういって、ルナリアは優しく微笑みながらサンロアの頭を撫でる。
「む?なんか騒がしいな」
身の丈よりも大きな荷物を背負う誠は、街の入り口に目を凝らす。
「なんだなんだ?」
徹も誠と同じように目を凝らす。確かに、街の入り口に並んでいる馬車の列から、次々と人々が出てきている。
「あれは?マッドタイガー?」
指で目の前に輪っかを作り、遠見の魔法を使っていたルナリアは、赤黒い炎を纏う虎のような生き物を捉えていた。
「マッドタイガー?」
「魔物ではあるけど、よくサーカス団とかで飼ってたりするのよ。どっかの商人の馬車から逃げ出したのね」
「じゃあ、急いで加勢するか」
走り出そうとするのを、ルナリアは手で制した。
「大丈夫みたいよ?」
ルナリアは、徹達に輪っかを覗かせた。それを見て二人は、嬉しそうに笑う。
だらしなく舌を出しているマッドタイガーの死体を、同僚が運んでいく。
「うちの商品だったのに!なんてことをしてくれたんだ!」
目の前で唾を飛ばしながら、いかにも成金というようないで立ちの男が叫んでいる。
「それは申し訳ございません。ほかの皆さんの安全確保のためですので、ご理解いただきたく」
「そんなの知るか!弁償だ!弁償してもらうぞ!三千万だ!今すぐ払え!」
マッドタイガーの相場は知らないが、そんな大金即金で払えるわけもない。それは向こうも分かってるだろうにと、心の中で盛大にため息を吐く。同僚に他の入都手続きを頼み、
自分は彼の対応に集中する。まくし立てる男に、謝罪と同じ説明を根気強く続ける。同僚の憐みの視線が痛み入る。
「だーかーらー、そっちの事情なんて知らないよ!商品を台無しにしたんだから、金払えって言ってるの!あれだって、魔術院に納品するはずだったのに!」
「ほうほうなるほどな」
堂々巡りも五週目に来たところで聞き覚えぼのある声がした。そちらに目をやると、荘厳な法衣に身を包
んだ二人の男。一人はなぜか、ローレルの民の少女を背負っている。
「では、不肖我らが裁定しようか?」
「なんだお前らは……」
男が振り返り彼らを見た瞬間、教会関係者だと思い込んだのか黙り込む。
「通りすがりの使徒さ」
「神はお前の行いを見ていただろう。そもそもなぜ、あの虎は逃げ出した?」
「あ、えと、それは」
「ん?」
一人がグイッと男に顔を近づける。その表情が笑顔なのが、男の恐怖心をさらに煽る。
「ひぃ!」
「よもや、自身の杜撰な管理を隠すために、実直な門兵殿に詰め寄ってたわけではあるまいな?もしそうであれば……分かるな?」
そういって、拳を叩き合わせる。ガキン!という生身では、決して鳴らないような音がした。
「そ!そんなことは!」
「ならば、他の積み荷も見せてもらおうか。どんな管理をしているのか見せてもらえば答えはわかるだろう」
二人の背から、ただならぬ威圧感が放たれる。男はガタガタと震えだした。
「我らはこちらの門兵殿に用がある。順番を変わっていただいてもよろしいな?」
「は、はいぃぃぃぃ!」
男は自分の馬車に逃げ込み、門をくぐっていった。
「久しぶりだ、キッドくん」
「お久しぶりです!皆さん!」
誠の手を、キッドは力強く握る。
「積もる話もありますけど、まずは言わせてください」
キッドは誠の手を離し、全員の正面に立つ。後ろの同僚に合図を出すと、重い鉄の扉が開いていく。
「アミル王国 王都マキヌへようこそ!」
キッドは、深く頭を下げる。扉の奥からは、活気ある声と街の動く音が聞こえた。
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