ローレルの民
強い日差しの中、徹たちは王都を目指す。誠は二人分の荷物を抱え、のっそりのっそり歩いている。徹は、サンロアを背負い極力揺らさないように気遣いながら歩いていた。
「あの……もう大丈夫ですよ?」
「だめよ?あれだけボロボロだったんだもの。大人しく乗ってなさい」
「そうだぞ?俺のことは気にするな。女の子一人なんて軽いもんだ」
遠慮がちに徹達に声をかけるも、あっさりとルナリア達に却下される。
「しかし、サンロアはこのまま王都に入って大丈夫なのか?」
誠は、ずり落ちてきた荷物を背負いなおす。
「そういえばそうだな。王都の教会から追われてきたんだろ?」
「それなら大丈夫です」
そういうとサンロアは、首にかけている十字架を外す。すると、体が光に包まれた。徐々に光が収まると、徹たちは驚愕に目を見開く。
「その姿は?」
「私の本当の姿です。私の種族は攫われやすいので、いつもは魔道具を使って隠してるんですよ」
彼女の姿は、青い肌に変わり、ルナリアのような尖った耳になった。二の腕と膝から先は綺麗な鱗に覆われ、日の当たり方によって深い青を輝かせている。
「あなた、ローレルの民だったのね」
ルナリアが、驚きながらまじまじとサンロアを見る。サンロアはその視線で、恥ずかしそうに顔を伏せ
た。
「あ、ごめんなさいね。初めて見たものだからつい……」
「い、いえ大丈夫です。」
すぐに、謝罪したルナリアにサンロアは手を振る。
「ローレルの民っていうのは、どういう者たちなんだ?」
徹は、落としそうになったサンロアを背負いなおす。
「ローレルの民は、歌の民といわれるほど歌がうまい種族なの。彼女たちの歌は、病める者を癒し、闘う者を鼓舞する言われているわ」
「ほーなるほどな。しかし、人攫いに狙われる理由としては弱くないか?」
誠が、首をかしげるとルナリアが神妙な顔で話し始めた。
「ローレルの民の心臓を食べると、不老不死になる伝説があるのよ」
サンロアが、沈痛な面持ちになる。
「人魚伝説みたいだな」
「あ~八尾比丘尼の話とかあったな」
誠と徹は、故郷の伝説を思い出していた。その話に興味を持ったのは、意外にもサンロアだった。
「人魚……というのは?」
「人魚ってのは、半分人間で半分魚の妖怪……うーんモンスター?みたいなもんだ」
「モンスターというか、精霊とかに近いかな?まぁそういう生き物だ。人魚は歌がうまくて、航海してる船を歌で惑わして沈没させたりするんだけど、その肉を食うと不老不死に成れると言う伝説があるんだよ」
「へぇ!そんな生物がいるんですね!」
何故か目を輝かせるサンロア。ルナリアも興味深げに聞いている。
「いるというか……」
「伝説上の生き物だからな~架空の生き物というか、いわゆる都市伝説みたいなもんだな」
「いないんですか」
サンロアが、少し落胆した表情になる。
「実際、ローレルの民の話はどこまで本当なんだ?」
徹が、背中に話しかけた。
「歌を歌うのは好きですね。サリナも褒めてくれました。歌に魔力を載せて回復させたり、補助したりはできます。ただ、さすがに不老不死には……」
「いや、それはそうだろ」
徹が、即座に不老不死を肯定する。サンロアは、その反応に驚いた。過去出会った人は皆、この話を信じ
て自分たちを狙ってきた。自分をローレルの民だと気づいた人は、目の色を変える人ばかりだった。しかし、彼には微塵も信じている様子がない。そんな人に、出会ったことが無かった。
「なんでですか?」
純粋な質問が、思わず口から出る。
「いやだって、ローレルの民食べて不老不死になるなら、そこら中不老不死者だらけだろ。それに、絶対共食いも起きる。もし本当なら、とっくに絶滅してると思うぞ?」
淡々と語る徹の姿は、サンロアにとって新鮮だった。
「そもそも不老不死は存在しないと思ってるしな」
「え?」
「だって、不老不死って無駄だろ。なにが悲しくて、ずっと生きたいなんて思うんだか」
不老不死を求めない徹を、何か珍しいものを見るかのように何度も目を瞬かせる。
「生は限りあるから、意義ある生を全うしようと必死になる。だからこそ生物は代を追うごとに進化するし、次代に繋ぐために、貪欲に能力や知識を獲得しようとするんだ。不老不死なんて、永遠を与えられた生物は、どこまでも怠惰になる。特に人はな」
徹の言葉に、誠も強く頷いている。
「永遠ではないからこそ、人の命は美しい」
「意外ね。徹の口からそんな深い言葉が出るなんて」
ルナリアが、感心したように徹をみた。彼はフンと鼻を鳴らす。
「俺たちは酸いも甘いも経験したアラサーだぜ?」
「あらさー?」
サンロアが聞きなれない言葉を聞き返す。
「アラウンド三十の略だよ。俺たち二十八才だし」
「まだまだ赤ん坊じゃない」
「エルフ基準で言うなよ」
空気が和み、話題も雑談へと移行する。心地の良い揺れと背中の暖かさにサンロアは、意識を手放した。
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