もう一人の脳筋
最初のコンタクトを制したのは徹だった。力ずよく振り下ろされた棒は、リアベルの剣に阻まれたものの、ミシミシと剣を食い破ろうと込められた力が上がっていく。リアベルは力を逃がし、自身の真横へ誘導した。剣を滑るようにして、リアベルの思惑通り地面へと衝突した棒は炸裂音と共に地面を穿った。
『なんて力だ!まともに受けたら剣が持たない!』
予想を上回る衝撃に、内心冷や汗を流す。それでも体は冷静に徹から距離をとっていた。
徹はすぐにリアベルへと向かっていく。リアベルは徹からの猛攻をすべて受け流していった。その姿は美しく、まるで舞っているようだ。対して徹は荒々しく棒を振るう。ただただ力を振るう様は獣そのものだった。
戦闘を見ていたルナリアは、感嘆の声を漏らす。
「リアベルさん単身でも、あの大侵攻どうにかできたんじゃないか?」
「そうね……前の侵攻ではリアベルさんがいなかったら里もどうなっていたか」
誠の言葉にルナリアの脳裏には、前の時間軸での侵攻を思い出した。以前の侵攻は、この目ほどの規模では無かったものの、相当な脅威だった。あの時もあわや里陥落かと思われたが、リキ達に里の防衛を任せ、リアベルが単身で前戦に身を投じ騎士団到着までの時間を稼いでいた。リアベルは紛れもなく一騎当千の戦士だった。
「あの一撃で徹の性格を理解してる」
「性格?」
「徹の脳筋の質みたいなやつだな」
「あ、それさっき徹から聞いたわ。あなたはMの極み漢女だって」
「あいつまた適当な名前を……」
誠は呆れ気味に言う。
「徹は、火力重視の脳筋なんだ。こっちが倒れるよりも先に相手を削り切る。あいつの言い方を借りるなら【常時波動砲】だな」
「極端というか……狂ってるというか……それを実現してしまってるのが怖いところよね」
ルナリアは戦闘を眺める。徹の攻撃は、この距離からでも凄まじい圧力を感じた。あれをさばききっているリアベルの実力を再認識していた。見ていると、先ほどまでの戦闘との違和感を感じる。
「そろそろだな」
「なにが?」
「あいつの一番すごいところってな」
ルナリアが呟いた誠を見る。誠の視線は徹を見ていた。
「勘の良さなんだ」
「勘?」
誠に訊き返そうとすると、周囲がにわかにざわめきだした。
猛攻をいなし続け、どこまでも食らいついてくる徹に策を考える中。放たれた一撃を受け流そうとしたとき、予想外の事態に見舞われる。
『まずい!この体勢では受け流すことができない!』
剣の柄に棒をひっかけ、無理やり体をひねりながら避ける。リアベルは、徹の攻撃に鋭さが増していることに気づいた。
『私の体勢を見て、受け流せないポイントを的確に!?なんてバトルセンス!』
それに気づいたリアベルは驚愕する。何とかしのぎ切り、もう一度距離をとった。徹は、リアベルに近づこうとして、急に身を固める。脳内で警鐘が鳴り響く。
『おいおいおい、冗談だろ』
目の前にいるリアベルの雰囲気が変わった。
「フフフフフ」
不穏な笑い声が響く。
「徹君……本当に素晴らしい」
リアベルの顔は悦びに染まっていた。彼の初めて見る表情にその場の皆がどよめき、困惑していた。しかし、リアベルにも徹にもそんなことは関係なかった。
「倒れないでくれよ……英雄」
祈るような声でリアベルが構える。その瞬間、突風が周囲に広がった。思わず全員が、手で顔を庇う。風が収まり、リアベルを見る。そこには、線画で描かれたような蝶の羽を背にはやしたリアベルが立っていた。アゲハ蝶のような複雑な模様は、様々な色に変わりながら、雅に輝いていた。思わず見とれてしまう美しさに、全員が見惚れていた。
「リアベルさん……そんなの見ちゃったら」
徹は獣染みた笑みを浮かべる。
「滾っちゃうじゃないか」
徹の姿が一瞬消える。次に現れた時、徹はリアベルの眼前。すでに振り下ろすモーションに入っている。リアベルは、微動だにせず反応できていない。誰もがそう思った。徹ですらそうだった。しかし、次の瞬間にはリアベルが棒を素手でつかみ取っていた。衝撃波だけが周囲に広がる。腕を横に振る。徹が棒毎投げ捨てられた。とてつもない勢いで吹き飛んでいく。フィールドに生えていた大木にたたきつけられ、太い幹にめり込んだ。
「さぁ!ぶつかってこい!英雄!」
徹がゆっくりとめり込んだ穴から、パキパキと子気味いい音を立てながら体を起こす。
「最高だ……リアベルさん」
徹は額から流れる血を拭いながら笑う。
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