穿つ
リキの拳を受け止めた誠は、その重さをかみしめながらも拳で返す。リキも誠の拳を受け止め膠着状態になる。代書に動いたのは後方にいた魔法使いのエルフだった。
「む?」
誠とリキの立っている地面がわずかに振動した。異変に気付いた誠がその場を飛び上がろうとするが、リキは腕を離さず引き留める。次の瞬間、二人の横の地面がせり上がり万力のように二人を押しつぶした。
「お、おい」
「まだだ!畳みかけるぞ!」
動揺したエルフの剣士が、魔法を使ったエルフを振り向き抗議しようとするが、それは彼の指示にかき消された。医師の万力にひびが入り、勢いよく砕け散る。同時にリキが放り出された。地面に着地すると上を見上げる。誠は、魔法を使ったエルフを見て一言呟いた。
「良い」
そんな誠に肉薄する複数の影。飛び散った破片を足場に、上空にいる誠へと向かっていく。タイミングはバラバラ、各々が誠の打倒を目的とした攻撃。誠はそれをいなして着地する。間髪入れず魔法攻撃が飛んできた。流星がごとく向かってくる礫の群れを拳の連撃で全て叩き落す。上から先ほどの兵士たちが誠を狙い落ちてきた。それを躱し、一人の兵士を捕まえた。
「ぬん!」
捕まえた兵士を別の兵士へと投げつける。突如、足元の土がピストンンのように盛り上がる。空へと打ち上げられた、誠が見ると、魔法使い達がこちらに照準を合わせている。その後、容赦なく降り注ぐ水球の雨。誠は盾を構えそれを真正面から受け止めた。
「うおおおおおお!」
雄たけびを上げながら必死に耐える誠が地面を見ると、土を突き破って何かが伸びてきていることに気づ
く。
「マジか」
それが若木だと気づいたとき、一気に誠を囲むように成長し伸びていく。たちまち生い茂る木に、誠は囲まれた。伸びた枝を伝って、兵士たちが誠へと迫る。いまだ空中の誠は、避けることができない。誠めがけて飛び出した兵士たち。今度はタイミングもすべて同時。示し合わせたわけでもないにもかかわらず見事な連携が発揮された。
「【脳筋闘法・独楽回し初段ツバメがえし】」
からだを捻りその場で回転し始めた誠は、回転の力を利用し、魔法を兵士たちの方へと弾き飛ばす。数人に魔法が直撃し、姿勢を崩して落下していく。最後の一人は、被弾こそ避け誠へと切りかかる。しかし、その攻撃は高速回転する誠を止められなかった。剣は弾き飛ばされ、兵士の頭を誠の足が捉えた。誠はそのまま、地面へと兵士を蹴りだす。
「【脳筋闘法・彗星ボレーシュート】」
地面へと飛ばされた兵士の先には、魔法使いたちがいた。とっさにシールドを張ろうとするも時すでに遅く、弾頭とかした兵士と衝突した。立ち上がれない彼らにリアベルは戦闘不能の判定を下す。
最早最初の演習場の姿が見る影もない。そんな状況を前にルナリアが呟いた。
「もうこれは……演習の域を超えてるわね」
「はっはっはっは!」
ぼやくルナリアの隣で徹は快活に笑う。
「そろそろ終わりだな」
「え?」
徹の言葉に、ルナリアの視線は再び戦闘へと行く。着地に成功した数名の兵士が地上で待ち受ける。徹は両手を広げ、着地の準備に入る。突如背後に強い衝撃が奔る。急速に落下する中、背後を確認する。そこには、リキがいた。リキは他の兵士とは違い木を伝い登った際、直接誠の方へは行かず、誠のさらに上空に飛び出していたのだ。リキと共に落ちていく誠は、地面に衝突する。大きな穴を穿つほどの衝撃、誠は起き上がると、兵士たちに囲まれていた。全員が肩で息をしている。訓練着はボロボロ。持っている武器すら、今にも折れそうだ。リキですら、膝が震えている。
誠は、仰向けに倒れた。
「降参だ!」
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉおおお!
誠が白旗を上げた。それと同時に演習場は完成に包まれる。
リキが誠に手を差し出す。
「誠殿、ありがとうございました」
「こちらこそですよ」
誠はリキの手を借りて起き上がる。他の兵士たちとも固い握手を交わし、徹の元へ戻ってきた。
「楽しそうだったな」
「楽しかったよ。次はお前の番だ」
そういって、二人はハイタッチを交わす。
徹は、棒を首に担いで舞台へと上がっていく。リアベルも舞台へと上がり、徹の対面に立つ。
「このままでもいいかな?」
木々が生えすっかり地形が変わってしまった演習場を見回しながらリアベルは徹に問う。
「もちろん」
笑みを浮かべ答える。
「では早く始めよう。先ほどのを見てさすがに滾ってしまってね」
「こちらも同じです」
お互いが武器を構える。
「対人戦、御指南願おうか」
誠とは違い静かな語気。しかし、そこに込められた熱量は誠と同様だ。徹の世界にはもうリアベルと自分しかいない。
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