エルフの里
騎士団が帰った数日後すっかり、回復した徹と誠はエルフの里を周っていた。森の中の集落、木々を利用したツリーハウスのような住居群、大樹から降り注ぐ柔らかい陽光に目を細めながら二人はルナリアの後ろをついて歩いていた。道行く住人達は三人に会釈をして挨拶してくれる。二人は挨拶を返しながら、興味深げにキョロキョロと周りを見渡している。その表情は、無垢な少年のようだ。
「すごいなこれは」
「あぁ、見事だ」
「「まさしくエルフの里って感じだ!」」
ルナリアが自分たちの里を褒められ少し照れたように言う。
「そんな珍しい?」
「あぁ、そもそも俺たちの世界でエルフは空想の生き物だったからな」
「異世界もの物語には必ず出てくるもんだ」
「そっちには魔物とか魔族もいないんだものね……平和でいいところじゃない」
羨ましがるルナリアが二人を見ると、誠たちは暗い顔をしていた。
「そうでもないんだよな……」
「俺たちのいた国は平和だったが、戦争はあったし」
「経済競争とか」
「温暖化とかいう自然の危機とか」
「「いろいろな」」
どんどん光を失っていく二人の目。闇に染まった目でルナリアを見る。
「平和な俺たちの国でも」
「終わらない労働」
「上がる税金」
「上がらない賃金」
「出ない残業代」
「サービスサービス」
いつもからは想像ができない暗さにルナリアは驚いた。気づけば二人の体から黒いオーラが滲み出始めていた。どうしようかと考えていたら、前から子供たちの一団がやってくる。
「あ!ルナリアおねぇちゃん!」
一団の子供の一人がルナリアを見つけて走り寄ってくる。
「あ、リリカ」
「なにしてるの?」
「こいつらに里を案内してるのよ」
そういって二人を指さす。その言葉を聞いたリリカはパァっと目を輝かせる。
「わぁ!あの二人が英雄様!」
いまだ黒いオーラを纏う二人にリリカは何のためらいもなく近づき、花咲く笑顔で声をかけた。
「英雄様!こんにちは!」
その澄んだ清流のような快活な声は二人の暗い気持ちを吹き飛ばした。
「「こんにちはリリカさん」」
「挨拶ができるなんて偉いな」
「素晴らしいことだ」
一瞬でデレデレになる二人に、若干ルナリアが引きつった顔をする。その様子を見ていたほかの子供たちも集まってきた。全員と挨拶を交わし、交流するうちに仲良くなり肩車やらぶら下がりなど、一通り子供が好きそうなことをやった後里巡りを再開した。誠の肩にはついて行きたいといったリリカ乗っている。
「くっ俺がグーを出していれば」
「拳を開いて初めて、勝利が得られるのだよ」
「この屈辱……忘れんぞ……」
恨めしそうに誠を見る徹にルナリアはため息をつく。
「あんたたち、うちの妹に変なことしないでよ」
「「するわけないだろう。子供はこの世の宝だ」」
「誠おじちゃん!ほらみて!あそこ!」
「はい、誠おじちゃんだよ。どこだい?」
リリカに英雄様呼びをやめさせた際、リリカからの呼び方が『誠おじちゃん』『徹おじちゃん』となったが、二人とも満更でもないらしい。リリカが指さす方を見ると、かなり開けた場所がある。テーブルやいすが円形に並べられ、真ん中には焚き火用らしい材木が見上げるほど高く、組み上げられている。隅の方では、食材の山が築かれ、多くのエルフたちが大なべをかき回したりと大量の食事の準備をしているようだ。その光景を見て二人はワナワナと震えだす。
「ここが宴の会場よ。始まるのは夕方だから、まだ準備しているとことだけど、どうする?まだ他を見て廻る?」
ルナリアが二人に尋ねると、二人はルナリアに笑顔で答える。
「俺たちも準備手伝うぜ!」
「祭りは準備が一番楽しいからな!」
そういって誠は、リリカを優しく下ろすと徹と一緒に準備しているエルフたちに突撃していった。
「ちょっと!はぁ……宴の主役が準備してどうるのよ……」
「おじちゃんたち面白いね!」
リリカは、誠たちを見て素直な感想を告げる。それを聞いたルナリアはため息を吐きつつほほ笑む。
「そうね。退屈しないわ」
ルナリアはリリカと手をつないで誠たちの後を追う。
「その二人こきつかってやって~!」
困ってる住人に呼び掛ける。森を抜ける柔らかい風が青緑の葉をはためかせて、カサカサとまるで笑うかのように音を立てた。
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