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見守る

誠と徹は、それぞれ自分の腕を見つめる。


「まさか、ここまで綺麗に治るとはな」

「あぁ、使徒だからか?」

「実際どうなんだ?この世界の人間の普通が分からん」


二人は、誠のベット脇の椅子に腰かけるルナリアに目を向ける。


「そうねー、あんたたちは普通じゃないわね」


ルナリアは、顎に指を当て考えながら答えた。


「でも、騎士団は今日帰るんだろ?騎士団の中には俺たちよりひどい奴もいただろう?この世界の人の回復力が尋常じゃないのでは?」

「今回の遠征には、優秀な癒し手である第三王女のリリア様が来てくださっているからね。騎士団もエルフの戦士たちも回復が早かったわ」

「「へー」」


二人が気の抜けた返事を返す。


「あんたたちにも回復魔法をかけてくださったんだけど……」

「だけど?」

「効かなかったんです」


聞きなれない声がしたので、三人は声が聞こえた方である病室の扉の方を見る。そこには、簡素なドレスに身を包む黒髪の少女とその隣にエルフの民族衣装を着た子供の背丈ほどの老エルフが杖をついて立っている。その後ろにガルニとリアベル、キッドが控えていた。ルナリアは、すぐに椅子から降り跪く。少女と老エルフは誠たちの前まで来ると、恭しく頭を下げる。


「私の名はルシウス・サキナエル。この里の長を務めておる。我が里を守ってくれて感謝する。君たちのおかげで、誰も失わず済んだ」

「私の名前はリリア・ウル・アミルです。私からも、感謝を申し上げます」

徹と誠は、丁寧な礼に恐縮し、二人に顔を上げるように伝える。

「いいんだこれは俺たちのせいでもあるから」

「そうだ、これは自分の尻をぬぐっただけなんだ、だからそんな感謝なんてとんでもない」

「おい徹、王女様と里長に向かって『尻』はまずいだろう」

「じゃあなんて言うんだよ。『お』をつければいいのか?『お尻』ならセーフか?」

「まず尻を隠せよ」

「尻を隠した場合どうなるんだ……頭が出るのか?」


二人の話が脱線し始めた。王女も里長も二人の掛け合いにクスクスと笑っている。一人ワナワナと震えていたルナリアが立ち上がった。


「あんたたち!いい加減にしなさいよ!」


赤面しながら二人を止めるルナリア。


「いいのですよ。お二人とも元気になってよかったです」

「いやいや、こちらこそ回復魔法をかけてくださったそうで、ありがとうございます」


徹と誠が頭を下げた。


「お顔を上げてください。先ほども申し上げた通り、回復魔法がお二人には効かなかったんです。何かに弾かれてしまったようで」


王女は興味深気に二人の腕を交互に見る。


「しかし、自己治癒能力が高いのかもしれませんね。本当に良かった」

「効かなかった……」


誠が考え込むと、徹が声を上げた。


「あ!」

「どうしました?」


急に声を上げた徹に王女が不思議そうに尋ねた。


「あ~いや~?そういえば~里長さんに伝えなきゃいけないことがあったような?」

あまりにも歯切れが悪い徹にその場にいた全員が訝し気に見つめる。

「なんじゃ?」

「あ~あの俺たち、これからあの樹海で暮らしても大丈夫ですかね?」

「あぁ。それはもちろん……構わんが」


突飛な質問に、困惑気味に里長は答えた。


「ありがとうございます!」


徹は勢いよく感謝し、会話を強引に流してしまった。微妙な空気になった中、里長が取り直そうと二人

に話を振る


「まぁ良い、二人には回復したら宴に参加してもらいたい。里総出で労わせてくれ」

「いいんですか?」

「もちろんじゃよ」


誠と徹は、お互いにハイタッチしながら喜びを分かち合う。


「楽しみにしてておくれ」

「私たちも参加したかったのですが、もう戻らなくてはならなくて……王都にいらっしゃったら、ぜひともお城にお越しください」


そういって、二人は病室を後にした。二人の後ろに控えていたガルニとリアベル、キッドの三人の番がやっと巡ってきた。


「里を救ってくれたこと、感謝する」

「お二人がいなければもっと犠牲者が出ていた。ありがとう」


頭を下げる二人に、誠と徹も頭を下げる。


「いえいえ、当たり前のことをしたまで」

「貴公らのおかげで、私たちも贖罪を成すことができた」


逆に頭を下げられ困惑する二人が、徹たちに尋ねる。


「贖罪とは?」


二人は、部屋にいるキッドとルナリアを見た。見られた二人は頷く。この人たちは信頼に足ると誠たちに伝えた。誠がゆっくりと口を開く


「私たちとそちらにいる、ルナリアとキッド君は時間を巻き戻しここに来た」

「「な!?時間を!?」」


二人の表情には、驚愕の色一色だ。そこに、疑いなどの感情は見て取れなかった。信じたうえで驚いていると感じた誠と徹は。これまでに起こったことを説明する。自分たちは何者で、どこから来たのか。何のために暗黒樹海にいるのか。そして、前の時間軸では何が起こったのか。そのすべてを話した。


「使徒に勇者か……」

「なるほどな」

「信じていただけますか?」

「もちろんだ、それにルナリアの一連の行動の謎も解けた」


リアベルはルナリアの方を向き優しく微笑む。


「よくやった」

「ありがとう……ございます!」


涙をにじませながら、頭を下げるルナリアを徹と誠は優しく見つめる。


「キッドもよくやった!大したもんだ!」


ガルニは乱暴にキッドの頭をガシガシと撫でる。


「隊長!やめてくださいよ!」


そういいながらも、涙目になっているキッド。誠たちはその様子を見て自然と笑顔になった。


「そういうことなら私たちも協力しよう」

「こちらも王都に戻りしだい、勇者の情報を集めておこう。王都に来たら寄ってくれ」

二人は誠と徹にそれぞれ堅い握手を交わした。

「ありがとうございます」

「これくらい構わないさ」


二人は改めて礼を述べ病室を去った。病室に残ったのは時間を遡った者達のみになった。


「徹さん誠さん腕が元通りになってよかったです」

「おう。もうこの通りよ」


二人は腕に力を入れ、筋肉を隆起させて見せる。


「で?」


ルナリアが徹に尋ねる。


「で?ってなんだよ」

「さっきの回復魔法が効かなかった時の話。徹は何か心当たりがあるんでしょ?」

「あぁそれは俺も気になってたな」


誠も先ほどの徹の挙動不審さが気になっていたため、徹に詰め寄る。徹はそんな誠を指さした。


「忘れたのか?俺たちここに飛ばされる前メルクリス様にやってもらったろ」


そこで誠も得心行ったらしい。『あー!』と言って手を打っている。


「何かあったんですか?」

「あったというより、してもらったが正しいな」

「なんか嫌な予感するんだけど」


ルナリアが顔をしかめる。


「俺たち、メルクリス様に呪われてるんだ」

「「はぁ!?」」


二人の大きな声が部屋中にこだまする。廊下を通りかかった職員のエルフが、部屋を覗き込んできた。四人は笑顔でそれをごまかしつつ、話を始める。


「なぜ直属の使徒のお二人が呪われてるんですか?」

「「修行のため」」


真顔で答えた二人にルナリアが大きくため息をつく。


「毎回毎回あんたたち説明足らずなのよ。最初から説明しなさい」

そういわれて、呪われた経緯を二人に説明した。ルナリアは呆れ、キッドは尊敬のまなざしを向ける。

「確かに効きそうではあるけど」

「さすがです!」

「「だろ」」


いい笑顔でサムズアップする二人に顔を覆うルナリア。


「限度ってもん知らないの?」

「俺たちが守る限度は」

「法定速度とモラルだけだぜ!」

「ほぼ全裸で戦ってた人たちが何言ってんのよ」

「でも、それならなぜ、お二人の体はこんなに早く治ったんでしょう?」


キッドが新たに湧いた疑問を口にする。確かに、効かないのが呪いのせいであり、それにより基本的な

能力も下がっているのであれば、なぜここまで治癒が早いのかそれが説明つかなかった。


「使徒だから?」


徹が身もふたもないことを言う。


「いや、待てよ。そういえば俺と徹さ。なんで今回の大侵攻耐えられたんだ?」

「そりゃ俺たちが最強……ん?確かになんでだ?俺たち前の時間だと今の時期まだあの猪とかに苦戦してたよな」

「え?そうなの?」

「今回楽に倒してましたよね?」

「あぁ、前と変わらず動けて……もしかして、前回のを引き継いでるのか?」

「それはあり得るな。確か時間逆行前の俺たちの回復力ってこんなもんだったよな」

「重傷でも翌日には傷がふさがってたもんな」


納得する二人に、絶句するルナリア達。


「どんな生活送ってんのよ」

「極限まで追い込んだ鍛錬……」

「キッド君?ダメよこの二人は異常なんだから真似なんかしちゃ」


何かに目覚めようとしているキッドを、ルナリアがこっちへ引き戻す。


「失礼だな」

「人の子を脳筋変態野郎みたいに言いやがって」

「「我ら使徒ぞ?頭が高くない?」」

「ははぁ~」

「うっさい。キッド君も跪かないの」

「「「「アハハハハハハハハ」」」」」


やり取りに思わず四人とも笑い出した。完全に打ち解けた四人は、その後も笑いあって談笑する。時間逆行し運命に打ち勝った四人には、固い絆が結ばれていた。





 大きな器に水が張られている。その水面を眺める一柱の神。その後ろから、一人の女性が現れる。


「あの子たちがあなたの使徒?メルクリス」

「そうですよ。私の使徒です」

「なかなか面白い子たちみたいね」


メルクリスはほほ笑みながら笑いあっている彼らを見使途

「まぁそうですね。ただ……」

「ただ?」

「もう少し彼らは慎重に動いていただきたい」


そういって、メルクリスは錠剤を口に入れ、コップに入った水を取り出し、それを流し込んだ。胃をさするメルクリスに、女性は憐みの視線を向ける。


「最近薬神のところに頻繁に行ってるのは、このためなのね」

「はい」

「なんというか……お疲れ様」

「ありがとう。マナ」


女性が、メルクリスから離れ去っていく。メルクリスは再び水面に視線を移す。


「なんであんなに回復が早いんだ?」


神にも分からぬ未知を引き起こす二人を、メルクリスは胃薬を片手に今も見守っている。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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