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親友

 一定のリズムを刻む木魚と独特の響きを持つお経が、会場を満たしていた。多くの人が涙ぐむ中、一人だけ笑ってる人を見つけた。


『お前のために、みんな泣いてんだぞ。徹』


遺影に向かって毒づいた礼服を着た男性は焼香し、お坊さんが唱えるお経を聞きながら、亡くなった親友の遺影を涙で曇る視界で見つめ続ける。


 葬儀が終わり出棺を見届け、火葬される親友をただただ見つめる。そこに声を駆けられた。


「誠君。わざわざありがとうね」

「いえいえ、おばさんも今回は……」


なんて声をかけていいのか分からなくなり、言葉に詰まる。


「そうね、親より先に死ぬなんて親不幸ものだわ」

「あいつも悔やんでると思います」

「そうだといいわ。、誠君もずっとあの子のこと気にかけてくれてありがとうね。あの子ったら、会

うたびに誠君の話ばかりするのよ。本当に楽しそうに……ごめんなさい。ここで失礼するわね」


涙を流して、その場を立ち去った徹の母を見送りその視線を火葬場に移す。


「馬鹿野郎……」


そのつぶやきは空に呑まれた。


 全て終わり、誠は安アパートに帰ってきた。玄関を開けて電気をつける。


「ただいまー」


独り身なので、家には誰もいないが、たびたび徹が入り浸っていた癖で帰るとこの言葉が出てしまう。そのうち、言わなくなるんだろうなと心の中で呟きながら、キッチンへと向かう。


「おかえりー遅かったな」

「おう、今日はお前の葬式……」


いつもの癖で反射的に返事したが、もう絶対に聞くことのできない声。振り返ると、テーブルの上でカップ麺をすする徹がいる。目をこするが消えない。頬をつねるとちゃんと痛い。


「お前……なんで……」

「よ!」


能天気に笑って手を上げる親友の姿。こみあげてくる涙をぬぐう。


「なんだよ泣いてんのか?」

「泣くに決まってんだろ!」


そう怒鳴りながら、ずんずんと徹に詰め寄る。胸倉をつかみ立ち上がらせる。


「何死んでんだよ」


そういって抱きしめた。


「悪かった……」


徹が悲しい表情で謝る。誠は徹を離し、落ち着くように深呼吸をする。何度か繰り返しようやく落ち着きを取り戻した誠は徹に尋ねる。


「で?なんでここにいるんだ?実は、俺のこと恨んでて化けて出たか?」

「んなわけあるか」

「じゃあなんでここにいるんだよ」


そういってお互い座る。


「実は、おれ異世界転生することになった」

「は?」


誠が目を白黒させる。


「神様がな、頼みごとがあるんだと」

「へー。それでなんで、俺のとこに来るんだよ」


そういって誠は視線を落とす。その視線はちょうどさっき徹が食べていたカップラーメンが目に入った。


「まぁ聞けって、そこでいろいろ特典つけて、異世界に送るって言われたんだけどよ」

「ああああああああああああああ!!!!お前!!これ!」


徹の言葉を遮って、誠が大声を上げる。徹はそれを気にも留めず話を続ける。


「おれが楽しみにとっておいた!!名店「夏風亭」じゃねぇかぁあああ!」

「全部いらないから、誠と一緒に異世界に行かせてくださいって頼んだんだ」


淡々と話す徹とカップ麺を食べられて大騒ぎする誠により場は混沌を極めていた。


「ドン」


隣からの壁ドンにより平静を取り戻した誠は、徹に尋ねる。


「で、それはアリなのか?」

「あんだけ騒いどいて、よく話を聞いてられるよな。さすが親友」

「そう思うなら、話すの一旦やめろよな。親友」

「まぁ、その辺はこの方に説明していただこう」


徹が言った瞬間、部屋がまばゆい光に満たされた。


「神様のメルクリス様です」

「いかにも、私が神メルクリス、君を……」

「あの、近所迷惑なんで、後光消してもらっていいですか?」

「あ、はい」


神メルクリスの威厳はものの数秒で剥がれ落ちた。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

すごく申し訳ないのですが……あと二話ほど現実世界の話が続きます……

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