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運命を変える戦い 終戦

 死屍累々。魔獣の死体が絨毯のように広がる光景に、エルフも騎士団も唖然とするしかない。この光景を作り出した、二人は未だ意味不明な雄たけびを上げつつ魔獣を投げ、叩き潰し、砕いていく。武器を持たず、己が肉体のみで戦う二人。見事なのは、その連携力だ。まるで、テレパシーでも通じているのかと思うくらい完璧な連携だ。荒々しい戦いとは裏腹にそこは美しさすら感じる。


「俺たちも加勢するぞ!動ける者は彼らを援護しろ!!」


リアベルの声に、呆けていた戦士たちが我に返る。


「おぉ!」


エルフの戦士たちは、武器を取り、戦線へと走り出す。


「騎士団も動ける者は続け!ここで終わらせるぞ!」


ガルニが死に体で、絞り出した激励は騎士達を奮起させた。彼らも次々に武器を抜き戦場へと走り出す。


「リアベル殿後は頼む……」


そういうと、ガルニはガクンと項垂れた。ガルニを抱えたルナリアとキッドは急に重くなったガルニの体に、膝をつきそうになるが何とか持ちこたえた。


「隊長!」


キッドが心配するが、掴んでいる手から脈拍を感じる。


「救護所へ運びましょう」

「はい!」


二人はガルニを担いで、里の中へと歩いて行く。一瞬戦場を振り返り、祈るように目をつむった。


『頼みましたよ』

『頼んだわよ』


未だ戦場を蹂躙する二人にエールを送り、救護所へと急いだ。



 戦場はほぼ終結しつつあった。ほとんどの魔獣が二人に殺到し、一部二人におびえた魔獣が逃げ出すが、そのわずかな量であれば残った戦士たちで対応が可能であった。


「あの二人……化け物かよ」


その視線の先には、前後から魔獣を殴りつけ、魔獣の体を風船のように破裂させる徹と誠の姿があった。返り血に塗れ、体全体が赤黒く染まってる。


「鬼……」


誰かが言ったその言葉が、ピッタリだと誰もが思った。


「徹ぅぅぅううう!」


空気を揺らすほどの大声がここまで聞こえる。誠が魔獣の上に載っている。


「行くぞ誠ぉぉぉぉおおお」


誠に負けない大声を張り上げながら徹が腕を回している。誠は、魔獣の背中から飛び降りる。そして魔物の背後をとると、そのケツを蹴り飛ばした。魔獣の体は勢いを増し徹の方へ跳んでいく。


「【脳筋闘法 人身再現野球盤】!」


跳んできた魔獣の体に、徹の伸ばした腕が食い込んでいく。ラリアットだ。魔獣の体が、徹のラリアットを喰らい、空の彼方へ跳んでいった。周囲にはもう魔獣はいない。戦士たちの間で喝采が起こる。歓喜の声があちこちで聞こえる。


「やりきったぞ!俺たちは護りきったんだ!」

「生きてる!生きてるぞ!」


リアベルは、喜ぶ戦士たちの群れを抜け二人に向かっていく。彼らに感謝を伝えようと急いでいたが、やっと見えた二人の顔は険しいものだった。


「来たな」

「あぁ、アイツだ」


そういう二人は樹海の方を見つめている。すると、樹海の中から何かが飛び出た。放物線を描いたそれは、ドチャという水気を帯びた着地音をさせると地面を赤く染めた。それは魔獣の死体だった。先ほどまで歓喜に震えていた戦士たちも静まり返った。全員が樹海を凝視する。重い足音が聞こえてきた。間違いなく森の黒さが増したような錯覚に陥るほどのプレッシャーが、戦士たちを襲う。これまでとは次元の違う何かが来る。そう直感した。足音が徐々に近づいてくる。そしてそれは姿を現した。烈火のような赤い肌の色。その体は堅牢な筋肉でおおわれている。二足歩行するそれは、上半身は人間であり、下半身と頭は牛の怪物。ミノタウロスによく似ているその異形は四つの腕を持っていた。内二つの腕で人一人分ほどの大きさの戦斧を抱え、空いた腕の一つに杖の持っている。


「ぐぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!」


この世のものとは思えない、地獄の底からの聞こえるかのような鳴き声。戦士の多くは恐怖でその場を

動くことができなかった。四腕のミノタウロスは、見渡す限りの戦士たちを見て舌なめずりする。突如ミノタウロスの杖が光った。放たれた光球が戦士たちの下へと飛んでいく。轟音と共に爆発が起こった。


「馬鹿な!」


リアベルは焦って向かおうとするが、。爆炎が晴れた先にいたのは、誠だった。その腕の一部が黒く焦げている。


「いってぇ」


そう言いながら、目はまっすぐ四腕のミノタウロスを見据えている。ミノタウロスと誠が見合っていると、その横から徹が飛び掛かった。拳は、防がれ、戦斧が徹の脳転移振り下ろされる。その戦斧の横っ腹を走ってきた誠が蹴り飛ばし、攻撃を反らす。徹の横に突き刺さった戦斧は、地面を容易に抉っている。


「全員下がれ!彼らの邪魔をするな!」


リアベルは、戦士たちを下がらせる号令をかける。戦いの次元が違いすぎるため、邪魔になると判断した。彼の指令は、戦士たちを下がらせるには不十分だった。いまだ恐怖により、動けないものが多い。リアベルは歯噛みしながら、周囲に声をかけ、何とか前線を下げる。


「なんなんだあの戦いは」


見たことない異形の魔獣。それに相対する二人の謎の人物の戦いは常軌を逸していた。



 誠と徹は昂っていた。一歩間違えば命を落とすこの場面において、二人は血が熱くなっていくのを感じていた。魔法らしきものを操り、人ほどの戦斧を操るミノタウロス。異世界での強者との戦闘に彼らの闘争本能が呼び起されていた。縦横無尽に襲ってくる戦斧をかいくぐり、何度が攻撃するもすべてその剛腕に阻まれている。一旦距離をとった二人に、ミノタウロスは容赦ない魔法攻撃を浴びせてきた。無数に降り注ぐ光球の群れは流星群のようだ。


「うわー容赦ないな」

「森の中でも思ったが、本当に隙無い」


流星群に時折被弾しながらも、致命傷を避ける二人は、この魔獣との最初の遭遇を思い出していた。徹

と誠は、侵攻に駆けつける際、四腕のミノタウロスと遭遇し戦闘していた。その時に二人はこの魔獣に吹き飛ばされ、ルナリアたちの下へとやってきたのだ。


「殺しきれよ。徹」

「死ぬんじゃねぇぞ。誠」


二人は何かを決意し、縦に並んだ。前に誠、後ろに徹。ミノタウロスとの間には魔物死体があるものの直線距離で100mほどだ。


「民間学童エデュチルドレン所属!上地誠!推し通る!」


誠が叫ぶと同時に走り出した。その後を徹が追走する。光球の直撃を受けながらも、怯むことなく前進し続ける誠に、嘲りの表情を浮かべミノタウロスは集中砲火する。しかし、それでも止まらない。半分を過ぎた頃、ミノタウロスの顔に焦りが浮かぶ。


「うォォォォォォォォ!」


誠は雄たけびを上げながらさらに速度を上げる。徹が通りすがりに魔獣の死体から何か引っこ抜いた。ミノタウロスまであと、十メートルまで近づく。気づけば魔法が止んでいた。ミノタウロスは魔法から戦斧へと攻撃を切り替え、すでに振り上げている。二人が目前に迫り、戦斧を振り下ろす。しかし、それを誠が受け止めた。


「ふぅぅぅうぅぅぅぅうぅ」


苦しそうに息を吐きながら、誠が耐える。その肩を蹴って、徹が飛び上がった。その手には魔獣の牙が握られている。最初に倒したイノシシの魔獣の牙だった。残った腕が、徹を捕まえるために伸びる。その瞬間、お腹に衝撃が走る。視線を下げると、誠が戦斧を手、放しミノタウロスにタックルしていた。その衝撃はすさまじく、地面に食い込んだままの戦斧を握っていた腕はちぎれ、バランスを崩したミノタウロスがしりもちをつく。その顔に徹が飛びついた。そして、牙を右目に思いっきり突き立てる。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!」


気合の掛け声とともに奥へ奥へと力を籠める。


「ぎゅおぉぉぉぉぉぉ」


断末魔と共に、ミノタウロスが倒れこむ。しかし、徹の両手をミノタウロスが捕らえた。バチュという生々しい音が響く。徹の両腕はミノタウロスによって握りつぶされていた。徹は歯を食いしばって激痛に耐える。


「舐めるなよ、腕潰したぐらいでぇ!止まると思うなぁ!」


徹は上体をのけ反らせる。


「【脳筋闘法 ヘッドバッドパイルバンカー】!」


そして、右目に向けって思いっきり自身の頭を振り下ろす。牙は一気にミノタウロスの頭部に食い込んだ。


「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!」」


「グアアアアアアアアアアア」


二人の雄たけびとミノタウロスの断末魔が重なる。そして、戦場に静寂が戻った。動いたのは徹と誠だフラフラと立ち上がり、里の方へ歩いて行く。誠の腕は黒くなり、一部炭化して崩れている。徹の腕はあらぬ方向を剥き、肉を突き破って骨が見えている。二人は霞む視界でこちらに駆け寄ってくる二人を見た。


「や……たぞ」


勝利を伝えようとするも、声がかすれて届かない。徹たちは後ろに気配を感じた。だが振り返りはしない。背後では、ミノタウロスがフラフラと立ち上がって、拳を振り上げている。しかし、その拳が振り下ろされることは無かった。ヒュンという音と共に、ミノタウロスの右目に矢が突き刺さる。矢は牙をさらに押し込んで、ミノタウロスの頭を貫通させた。ミノタウロスはそのまま仰向けに倒れこむ。徹たちの視線の先には弓を構えたルナリアがいた。安心した二人は膝から崩れ落ちる。地面に倒れ伏す前に暖かい感覚に包まれる。キッドが滑り込んで二人を支えたのだ。


「お二人ともしっかり!すぐに救護所に運びます!」

「し……しゃは?」

「まだいません!まだ、誰も死んでません!!」


キッドの目に涙が溜まる。


「「よか……た」」


二人の安堵が重なり、完全に気を失う。すぐに追いついたルナリアもキッドを手伝って二人を担ぐ。その様子を見た戦士たちも、次々と二人を救うために駆け出していく。戦場は多くの傷痕を残すも、静寂だけはいつもの日常に戻っていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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