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運命との戦い 中盤戦

 けたたましい鐘の音が、里中に響きわたる。鐘のリズムに、事態を察した住民たちはいそいそと家の中へと入っていく。そんななか、見張り台に急ぐ一人のエルフがいた。彼は軽々と昇っていくと、そこには鐘を鳴らすルナリアとそれを止めようとするキリアがいた。キリアがその人物に気づくと、慌てて敬礼をする。



「ルナリア!何をしている!」


未だ鐘を鳴らしているルナリアを羽交い絞めにして止める。


「リアベルさん!?」


ルナリアは、自分を止めた人物を見て驚いとともに嬉しさに目を潤ませる。


「ルナリア、これはどういうことだ?」


説明を求めるリアベルだが、ルナリアは涙が溢れてきてしまう。


「キリア、何があった?」


ルナリアが話せる状況ではないと察したリアベルは、キリアへと説明を求める。


「それが、私にもよくわからないんです。急にルナリアがおかしなことを言いだして、ギーグが飛び立ってるのを見て急に鐘を鳴らしたんです」


キリアも困惑しながら、リアベルに状況を説明する。


「ギーグが?」


そういってリアベルは双眼鏡を手に取り、樹海の方を見る。そこには、空を旋回しているギーグの姿が映った。


「確かに珍しいことだが、鐘を鳴らすほどではないだろう」


そういってルナリアを振り返る。


「すみませんリアベルさん。説明します」


ルナリアは、涙をぬぐいながら説明を始めた。


「中層の支配者であるギーグが飛び立ったということは、深部の魔獣で尚且つギーグの天敵に成りうる魔獣が中層に移動していると考えました。あのギーグが上空へ避難するほどの魔獣です。この後、中層の魔物が浅層へ移動、そしてその浅層の魔獣がこちらへ押し寄せるのではないかと思い鐘を鳴らしました」

「確かに考えられなくもないが、それだって来るのは数体だろう」

「いえ、私は数十に及ぶ魔獣の群れが来ると考えています。それも中層、深層の魔獣も入り乱れた大侵攻が来ると思っています」

「それは……いくら何でも……」

「自分が責任を取ります!どうか、大侵攻に対する準備を!」


ルナリアが深く頭を下げる。


「緊急事態の虚偽警鐘は重罪だ。それもわかっているんだね」

「もちろんです!」


リアベルは、頭を下げるルナリアの肩に手を置いた。


「分かった。君がそこまで言うのであれば信じよう。深層での発光現象の件もある。それに連なる異変

かもしれん」


リアベルは一瞬ほほ笑むと、すぐに表情を引き締める。


「ルナリア、キリア二人はこの見張り台で大侵攻の正確な現在位置を割り出せ」

そういうと、見張り台から飛び降りていった。


 ルナリアが樹海の状態を監視し続ける。里の方では住民たちの困惑したざわめきが遠くに聞こえている。兵士たちの誘導の声も聞こえるため、避難誘導は進んでいることが分かる。ギーグが飛び立った箇所を中心に見ていると、不意に鳥の大群が飛び立った。


「キリア!」

「行くわよ!」


キリアが鳥が飛び立った箇所に向かい、弓を引く。


「【魂転】」


群れの一羽に矢が刺さると同時にキリア呟く。桐谷の視界が見張り台から、樹海上空に切り替わる。だんだん色が落ちていく視界の中で、次々と移動する多種多様な魔物の群れを捉えた。そこで、視界が真っ暗になり、次の瞬間には見張り台からの景色に戻る。


「間違いない、北東に魔物の群れが来てる!数は数えきれない!」

「やっぱり……キリアありがとう。リアベルさんに伝えてくれる?」

「分かったわ。あとでちゃんと説明しなさいよ?」


そういってキリアが見張り台から飛び降りる。ルナリアは弓とナイフ。回復薬などを装備し、瞠目する。


「大丈夫、きっと大丈夫ほかの皆も動いているはず」


そう心を鼓舞して樹海へと目を向けた。


 樹海との境界にエルフの兵たちは陣をはる。兵士たちの顔に少しの困惑は見えるものの、里を守す使命に燃えていた。


「バリスタ用意!精霊術師は高台へ!救護部隊はテントの設営を急げ!」


兵士たちの配置を指示を出すリアベルに、キリアが走り寄る。


「弓兵位置に着きました」

「良し!まもなくだな」

「見張り台のルナリアからは、まもなく樹海から出てくるそうです」

「分かった。なんにせよ、早い段階で準備できてよかった。ルナリアに戦闘部隊に加わるよう伝えてく

れ」

「はい!」


キリアが勢いよく見張り台へと駆け出す。それを見送っていると、樹海の方から咆哮が響いた。


「来たぞー!」


前線にいた兵士たちが会敵を叫ぶ。リアベルが振り返ると、獣や昆虫など様々な姿をした魔獣たちが一つの影を成して樹海から這いずり出てきた。


「総員位置につけ!里を守り抜くぞ!」


リアベルの鼓舞に、全員が一斉に声を上げた。


「弓兵!用意!」


這い出た影は波へと形を変え、こちらを呑み込もうとしてくる。


「斉射!」


掛け声と同時に数十のエルフが一斉に矢を放つ空を埋め尽くす矢の雨が影の波へと降り注いだ。


「「「「ぎゃおおおおおお」」」」


複数の魔獣の叫び声が戦場に響く。


「突撃!」

「うおぉぉぉぉぉぉお!」


リアベルの号令とともにエルフの屈強な戦士たちが、雄たけびを上げながら突っ込んでいく。しっかりと盾で魔獣受け止める。剣士がその隙を逃さず、魔獣を仕留めた。


「空を飛ぶ魔物を仕留めろ!」


号令とともに、弓兵が空を埋め尽くそうとしている魔獣の群れに向けて矢を放つ。放たれた矢は風や火を纏い、次々と射抜いていく。射貫かれたものはその体を燃やし、または貫かれバタバタと地に落ちていく。


「大物が来たぞ!」


前線にいる誰かが叫ぶ。樹海の闇から、大きな影が現れた。巨体を怒らせ猛然と飛び出してきたのは二

階建ての家屋ほどの大きさの熊だ。盾兵の一人が止めようと前に出るも、前足で払われ後方へと飛んでいく。


「バリスタ構え!精霊術師は詠唱を始めろ!」


バリスタの照準を熊へ合わせた。操縦しているエルフは、頬に汗を流しながら確実に当たるタイミング

を探る。


「放て!」


号令とともに飛び出たバリスタの矢は見事に熊の魔獣の頭に突き刺さる。


「ぎゃあああああああ!」


断末魔とともに、痛みに耐えかねのたうちまわる。そして、しばらく跳ね回った後、動かなくなった。ホッとしたのもつかの間、樹海から先ほどの熊と同じように巨大な魔獣が押し寄せてきた。兵士たちの顔に絶望の色が奔る。


「盾兵!剣士!撤退!」


号令を聞き、前線を放棄して一気に退却する。


「精霊術師!放て!」


精霊術師たちが詠唱した強力な魔法が、魔獣たちへ降り注ぐ。まるで天の川のようにきらきらと瞬き、様々な色を含んだ光線が魔獣たちを穿っていく。魔法が止み、土煙が晴れると、そこには死屍累々の魔獣の群れがあった。エルフたちは思わず歓声を上げる。


「まだだ!油断するなすぐに前線を立て直す」


樹海の方から、いまだ魔獣たちの鳴き声が鳴りやまない。すでに、こちらの兵士たちも疲れが見え始めている。特に前線を張ってくれていた者たちの負傷がひどい。


『まずいな……このままでは物量で押し切られるぞ』


リアベルが戦況を見ていると後ろから複数の馬の足音が聞こえてきた。


「リアベル殿!」

「ガルニ殿!どうしてここに!」

「リリア様と共に樹海の調査で参った!里の物より事情を聴き、我ら騎士団も加勢する!」


馬から降りた騎士団の面々は、ガルニの采配によりそれぞれエルフの部隊へと分けられていった。


「我も前線に出よう」

「良いのか」

「ここはエルフの里。地の利知っているのはあなただ。ここではあなたの指示に従う」


そういうと剣を抜き、騎士団に告げる。


「我らの盟友の危機だ!皆!力を貸すぞ!その刃をもって友を救う行くぞ!」


そういって、騎士団の面々は前線へと駆けていった。


 弓部隊で空を舞う獲物に対してひたすらに矢を射っていたルナリアは、自分の矢筒に矢がないことに気づいた。


「誰か!矢を!」


他のエルフたちも敵を射るのに必死で補給が追い付いていない。自分で行こうかと思い持ち場を立ち上がる。


「矢の補給です!」


聞き覚えのある声と共に渡された矢。受け取り顔を上げると、そこにはキッドがいた。


「キッド君!?」

「ルナリアさん!遅くなって申し訳ありません!」

「良かったあなたも……」

「はい何とか思い出せました!ただ、自分には少し騎士団の行程を急ぐことしかできませんでしたけど……」

「いえ、よくやってくれたわ」


俯くキッドの肩を叩いて励ます。


「ありがとうございます。ところで、この侵攻前より苛烈ですよね」

「えぇ。ちらほら前にはいなかった魔獣が見えるわ」

「これも運命の流れを辿る影響なんでしょうか?」

「分からないわ」

「誠さんと徹さんは?」

「それも分からない。でも信じましょう。彼らも動いてくれているはず」

「はい!」


そういってキッドとルナリアは自分の持ち場に戻る。使徒たちの到着を信じ、荒れ始めている空の下、侵攻を食い止めるため全力を尽くす。




 その頃樹海の中では、鈍い音が響いていた。木々が断続的に揺れ、ところどころ地面が抉れている。その痕跡の先では、徹と誠が魔獣の死体を山のように築いていた。ズシンという音とともに、最後まで残っていた熊のような見た目の魔獣が倒れこんだ。舌をだらしなく垂らし、最早生気を感じない。それを確認した二人はその場に寝転んだ。

「はぁはぁはぁ……なぁ誠」

「なんだよ」

「ここでもなかったな」

「あぁ……ちゃんと聞いとくんだったな。エルフの里の場所」

「よし!次行くぞ!」

「休憩したいがそうも言ってられないもんな」

二人は樹海の中エルフの里を目指し、絶賛迷子になっていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます!


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