降臨
先ほどまでの野蛮人めいた姿から一転、神聖な雰囲気を漂わせる二人にキッドとルナリアは口を開け呆然としている。そんな二人をよそに、いそいそと石を積み重ねの何かを作る徹たち。
「あの、その姿は……というより何を?」
キッドがおずおずと尋ねる。
「これが使徒の正装でな。今やってるのは祭壇づくりだな」
「祭壇?」
ルナリアが首をかしげる。そうこうしていると、簡素ではあるものの祭壇と呼べなくもないものができていた。そこに二人が合掌し、同時にぶつぶつと何かを唱え始める。
「「我らが母にして父、人、獣、自然、すべての大いなる母にして父。。破壊と調律の果て、運命と試練を与えし我らの神よ。使徒の契約において乞い願う。我らの前へ御身をみせ給え」」
徹たちの周りに光の泡が浮かんでは消え、浮かんでは消えていく次第にその数は増え、あたりが光に包まれた。あまりの眩しさに、ルナリアたちが目をつむる。光が晴れると曼陀羅のような光輪を背中に背負い、憂いを帯びた顔で空中に浮かぶメルクリスがいた。その視線が徹たちを捕らえると、露骨に嫌そうな顔をした。
「お二人とも、今度は何用ですか?」
メルクリスがため息とともに呆れた声で二人に問う。
「えーとなんだっけ?」
「呼んだ後どうするか、考えてなかったな」
顔を見合わせる二人にメルクリスがさらに大きなため息をつく。
「あのですね?確かにお二人を使徒に任命したのも、お役目をお願いしたのも私ですけど!こう練習と称してほいほい呼ばれるのは困るんですよ!」
二人に説教を始めるメルクリスを、唖然と眺めていたルナリアたちがふと我に返り、慌てて跪いた。そこでようやく、徹たち以外の人に気づいたメルクリスは徹たちに向き直る。
「この方たちは?」
「なんでも、この樹海の深部を探索に来たとかで」
「なるほど」
そういうとルナリアたちの前に移動し、咳ばらいを一つする。
「愛しいエルフと人の子らよ。顔を上げるが良い」
メルクリスの言葉で顔を上げる二人。そこには、子を愛でる母のような優しい笑顔のメルクリスがいた。
「メ、メメ、メメルクリス様!お、お会いできて、こここ、光栄でしゅ!」
かろうじて言葉を返したルナリアにメルクリスはその頭を撫でた。次に、その光景を眺めることしかできなかったキッドの頭を撫でた。
「ここまで来るのは多大な犠牲と困難があったでしょう。よくぞ生き抜きました」
優しい声音に、二人の涙腺が崩壊した。メルクリスに抱き着きワンワンと声をあげて泣く。そんな二人
を抱きしめ背をさする姿は、子をあやす母そのものであった。
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