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使徒

 徹と誠が藁にくるまれた二人の亡骸を運んでくる。顔の部分を出し、キッドに見せた。


「この樹海の魔獣共と戦いながら二人を担いでたんだ大した人達だよ」

「隊長!」


キッドは遺体の手を強く握った。涙を流し顔を伏せる。すると後ろで足音がした。


「あなたたちだれ?それにその遺体は……リアベルさん!」


声の主は包帯代わりの大きい葉を、グルグル巻きにされたルナリアだった。ルナリアもキッドと同じように目を覚ましたところ、人の声が聞こえ、こちらにやってきていた。自身の上司の遺体を見つけ駆け寄った。顔色を見て彼の死を察したルナリアは、その場にへたり込んでしまう。


「君も目が覚めたか。しばらくしたら遺体は火葬で燃えちまうから、それまでにお別れは済ませて置いてくれ」


誠は、二人のそう告げると、ルナリアがにらみつけてきた。


「燃やすですって!」

「あぁ」

「なんでそんな野蛮なことするのよ!」

「ルナリアさん落ち着いて」


キッドが詰め寄ろうとするルナリアを抑えている。


「俺たちはお前らの弔い方を知らん。エルフやこの地域では火葬しないのか?」

「すまんな。火葬は俺たちのいたところでは、遺体の供養で一般的だったんだ。気に障ったなら申し訳ない。そちらのやり方が可能なら、そちらでやってもらって構わない。必要なものがあったら言ってくれ。できる限り協力してもらう」


ルナリアは、あっけらかんとした対応に一瞬目が点なったがその後、自分の態度があまりにも子供じみていた事に気づき顔を赤くした。


「あ、いいえ。その、ごめんなさい」

「良いんだ気にするな」

「そうだ、身近な人が亡くなって冷静でいろという方が難しい。しばらく席は外すからお別れの挨拶をしてやんな」


二人は手を振りながら、木の家の中へと入っていく。


「申し訳ないことしたわ……あなたもありがとう。もう大丈夫」

「あ、ああすみません!」


キッドはパッとルナリアを離した。ルナリアはキッドに再度お礼を告げ、リアベルの遺体と向き合う。その目には涙が滲んでいた。それを見てキッドの視線がガルニへと向かう。


「隊長……」


自分の目にも涙が滲んでくるのが分かった。





 しばらくして、ツリーハウスの扉が開かれた。徹は石板を担ぎ、誠は抱えるほどのおおきな肉といくつかの野菜のようなものを持っている。


「二人とも飯にしよう」

「といっても食材を適当に焼くだけだがな」


徹は慣れた手つきで焚火の周りに石を組んでいき、その上に石板を置いた。そこに何かの果実を置きそれを潰す。中から薄黄色の液体がドロリと出てくると、それを葉を結って作った刷毛で石板全体へと引き伸ばしていく。パチパチと音が鳴りだしたら、そこに食材を置いていく。ジュウゥゥと小気味いい音とともにいい香りが漂ってきた。


「いいにおいね」

「なんの肉なんですか?」


二人は空腹を刺激され、焼かれている食材たちに目を向ける。自然とひときわ大きい肉に、視線が集まる。


「なんの……あれはなんていう名前の動物なんだ?」

「なんか、バカでかい鹿みたいなやつなんだけど……鹿わかるか?頭にこう枝分かれしたでかい角持ってるやつ」


徹がジェスチャーでその動物の真似をする。それを見たルナリアは顎に手を当て、考え込んだ。


「でかい……角……」

「もしかして!シルヴァケルウスですか!?」


キッドが半ば叫びながら思いついた生き物の名を言う。


「なんだそのシル……何とかって」

「植物を急成長させる魔法を使って生息域を森に変えていく魔獣です。昔、村が襲われ、その村ごと森を造ってしまったなんて逸話もある魔獣ですよ」

「へー確かに木を成長させたりしてたなこいつ」

「普通なら、国軍が動く相手なんですが……」


自分たちが探索していた樹海に、そんな魔獣もいたことに戦慄するキッドの背中を徹が叩いた。


「まぁまぁ気にしない気にしない。もう肉になってるしな。ほらできたぞ」


そういって徹は、料理を配っていく。全員に料理が行き渡ると、徹と誠は手を合わせた。


「「いただきます」」


ルナリアとキッドも二人の真似て挨拶をしたのち、肉にかぶりついた。臭みが口にひろがり、とてもおいしいとは言えない味だった。しかし、自然と涙がこぼれる。自分たちは生きているのだと実感した。あの地獄を生き延びたのだと、安堵と罪悪感でぐちゃぐちゃになりながらも、今も生きている喜びから涙が流れ落ちる。


「そんなにうまいか?」

「かなり獣臭いと思うが……」


涙を流しながら食べる二人を少し引いた様子で眺めた。



 食事も終わり、キッドたちも落ち着いたころ四人は焚火を囲んでいた。


「それで、二人はなんでここまで来たんだ?」


誠がキッドたちに聞く。


「僕たちは、樹海深部の調査に来たんです」

「調査?」


ルナリアが詳細を説明し始める。


「数か月前に、この暗黒樹海の深部で強い光が放たれたのその後、私たちエルフの里が大規模な魔獣の侵攻にあったの。私たちは強い光の調査に来ていた騎士団と一緒にそれをしのいだ。樹海での異変は確実だったから、その原因を調査するためにこの樹海に入ってきた。昼は順調だったんだけど、野営地で原因不明の事態に見舞われて、命からがら逃げだして、リアベルさんとガルニさんのおかげで、ここにたどり着いた……おそらく生き残ってるのは、私とキッド君の二人だけね」


ルナリアは膝を抱え俯いた。キッドも暗い顔で俯く。


「そうか……そんなことが……」

「じゃあ昼に見つけたあの野営跡は調査隊のものか」

「あの場所に行ったんですか!」

「あぁ。残念ながら死体しかなかったが」

「そうですか……」

「お二人は何故ここに?」

「あー俺たちは」

「修行のためかな」

「修行?」


ルナリアが顔を上げ、二人を見る。


「ああ、俺たちはメルクリス様から使命を受けてな」

「それを達成するために、今修行中なんだ」

「メルクリス様って主神の名前ですよね!?」

「ウソでしょ!?」


二人に案の定信じてもらえなかった徹たちは頬を掻く。


「まぁ信じられんわな。ここはいっちょ、やりますか!」

「そうだな!」


そういって二人は勢いよく立ち上がる。そして同時に合掌した。


「「着装!」」


二人が唱えると同時に二人の体が光に包まれる。ルナリアたちが思わず手で光を遮る。光が収まる。そこには先ほどまでの原人のような恰好ではなく、荘厳な法衣に包まれた二人が現れた。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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