第三話 転生成功
文章を書くのが大変すぎる。
ゆっくりと体を揺らす小さな振動。
普段と異なる違和感を感じながら、俺は目を覚ました。
最初に目の前に映ったのは、最後に見た青空はなく、形容しがたい程の高い豪華な天井があった。
その豪華さに圧倒されたが、一呼吸を入れてすぐに気を落ち着かせる。
(どうやら転生に成功したみたいだな)
「あう~」
歓喜の言葉をあげようとしたが、意識に反してなのかうまく声を出せなかった。
慌てず体を動かしてみると、明らかに小さな手が目に映る。
おそらくだが、赤ん坊として転生できたらしい。
「あ~、あう~」
見える範囲で状況を整理すると、今の俺はゆりかごの中で寝かされている。
分かったのはこれだけだった。
本当ならば早くここの場所がどこなのか知る必要があるのだが、俺は赤ん坊のため自由に動けない。
自分で足を動かして外の世界を知るのには早くても2、3年はかかるだろう。
(それは長すぎる。早く動きたい……、自由が欲しい……)
俺が頭を悩ませていると、小さな足音が部屋の外から聞こえてくる。
「あう~?」
泣き声を聞いてやってきたのだろうか?
足音がだんだんと大きくなり部屋のドアが開かれる。
最初に入ってきたのはメイド服を着た女性。
その後ろから、高貴な貴族と思わせるようなドレスを着た女性が入ってくる。ベージュ色の髪が特徴的で、とても美人だ。
メイドが俺を抱き上げると、そのままドレスを着た女性に抱かせる。
「どうしたのいきなり、大きな声を出して? 怖い夢でも見たの?」
聞こえてきた言葉は標準語。
新しく言語を覚える必要はなさそうだ。
もう少し話させて色々と他にも情報を集めたいところだ。
それにしても彼女は貴族なのだろうだが、あやし方が妙にうまい。手慣れていて、今にも眠くなりそうだ。
「あ~、う~~」
「お母さんが来たからね。だからイストワール、安心してね」
母性を心に深く感じさせるような優しい声をかけてくれる。
転生前の俺には血のつながった家族がいなかった。家族にイストワールと名付けられて名前を呼ばれるのも、抱きしめられるのも人生で初めてだった。
過去の記憶とは全く別の世界。何もかもが違っていた。
記憶をたどっていたら、俺はいつの間にか涙を流していた。
小さな涙は頬をゆっくりと伝い、母の胸元に零れ落ちる。
「あらあら、やっぱり怖い夢でも見たのかしら。
……辛いことがあったのね。もう大丈夫よ。お母さんが守ってあげるから、泣かないで!」
俺が泣いていることに気付き、母親は軽く背中を撫でながら抱きしめてくれる。
なんだかとても暖かい。気持ちがポカポカとしてくる。
そして落ち着いてきたのか、いつの間にか泣き止んでいた。
「よしよし、気分がすっきりしたかしら?」
そのまま母親にあやかされていると、一人の男が部屋の外で立っているのが見えた。
母親と同じ貴族のような服装を着た男。見た目が20代ぐらいで若く見えるが、どことなく威厳を感じさせられる。おそらくこの人が俺の父親なのだろう。
メイドが母親と何かを話すと、その父親と思われる男のもとに声をかけにいく。
メイドは男を呼びに行ったのだが、男は一向に部屋に入ろうとせず、立ち止まったままだった。ただじっと母と子の睦ましい姿を離れて見ているだけ。
そしてこれ以上何もすることなく、顔色一つ変えずにきびすを返して立ち去ってしまった。
一人残されたメイドは、若干イラつき気味に戻っきた。
「サイド様は少し薄情でないでしょうか。私がいくら勧めても、自分のお子様を抱っこしたがらなかったのですよ。それに何か考え事をしてたようですし…」
「あの人も忙しいし、しょうがないわよ。子供を抱っこするのは時間があるときでいいわ。リン、あの人にそう伝えておいてくれる?」
「――奥様がそうおっしゃるのであれば。了解しました」
リンと呼ばれたメイドは、一礼して部屋から出ていった。
「ねえ、あなたは見えたかしら? さっき、部屋の外にいた人があなたのお父さんよ。名前はサイド・フォン・ルインズ。フリーダム王国の伯爵家の当主をしているのよ。あと私の名前はベールね。もう少し大きくなって、最初にお母さんの名前を言ってほしいな。それじゃあ、おやすみなさいね」
俺を再びゆりかごに寝かせると、ベールもまた部屋を出た。
やっと一人になったので、母親から聞いた単語を転生前の覚えていた記憶と合わせて整理した。
フリーダム王国はクレシオン大陸の西部に位置する。ルクシオルが侵略戦争を起こした時にもフリーダム王国は存在していた。
この情報は俺にとって朗報だった。
フリーダム王国は惑星セリーフィアにある。セリーフィアには魔力を持っているたくさんの種族がいる。もちろん人間も魔力を持っている。
転生について詳しいことは分かっていないのだが、おそらく転生後の今の俺には魔力を持ち、魔法が使えるようになっているだろう。
スティーアから魔力を増やす訓練方法を転生前に一度耳にしていたので、歩けるようになるまでの間は暇つぶしをすることができる。
いろいろと学びたいこともあるが――
俺は心の中で一つの誓いを立てた。
ルインズ家は本来、俺が関わるはずがなかった家族。
だけど、俺にとって初めての血族。
転生前、己に降りかかった悲惨な出来事、元に戻れないくらいに狂わされた人生、こんな経験を二度と繰り返えしたくない。
俺の味方でいてくれる限り、俺は絶対、絶対に家族を守り通してやる!!
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