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#5 いざ、城案内開始

「着替え終わった。もうこっちを向いて言いぞ」

 魔王城の玉座の間。魔王ガルベナードは着替えを済ませ、自室を出て部屋の奥にある扉から姿を現した。先ほどと全く同じ服を着ていることから、彼は同じデザインの服を何着か持っていることが推測できる。


「お待ちしておりましたわ」


 アルメーネが振り向いて返事をする。律儀なことに、彼女とマリナはガルベナードが部屋を出ている間もずっと壁のほうを向いて、彼の裸を見ないようにしていた。


「では、城案内に行くとしよう――こっちについて来い」


 ガルベナードはそう言うと、マリナのすぐ隣に立つ扉から廊下へ出ていく。残る二人も、彼を追うように玉座の間を後にしていった。


「手近なところから行くか。まずこの部屋は今だと使われていないが、俺の親父の代では――っ!?」

「ガルベナード様!?」


 ガルベナードが説明しながら目の前の扉を開ける。その途端、部屋の中から植物のツルが伸びてきて、完全に注意不足だった魔王の四肢に絡みつき、そのまま壁の向こう側へと引きずり込む。この部屋にはエビルヴァインという植物型の魔物が城に攻め込んできた者を捕まえる罠として仕掛けられていたのだ。しかし、そもそも部屋自体が長い間使われていなかった為みんな罠のことを忘れてしまっていたのである。


 アルメーネとマリナも、突然の出来事に驚きと恐怖を隠せない。二人はガルベナードのことを心配して扉から部屋の中をのぞくが、魔物は最初の獲物にばかり執着しているらしく、彼女たちに襲い掛かってくる様子はない。そして、それは同時にガルベナードを真っ先に始末しようとしていることも意味していた。


 しかし、今回エビルヴァインが捕まえた相手は、自身より格上の魔王。両手足につるを絡められ動きを封じられた挙句、攻撃のターゲットにされた程度で慌てるような軟弱者ではなかった。彼はまずエビルヴァインの本体めがけて口から炎を吐き出し、魔物をひるませた隙につるから脱出する。相手が植物なだけあって炎での攻撃は有効に見えるが、このままでは魔王城の壁や床に火が燃え移り大惨事になってしまう。そこで、


「アブソリュート・ゼロ!」


 ガルベナードは氷の最上位呪文を瞬時に唱え、燃え上がる植物のつるを一瞬のうちに凍らせる。さらに氷の中に閉じ込められ身動きの取れなくなったエビルヴァインに対して、


「デュアル・ロックプレス!」


 と、呪文でふたつの大岩を出現させ、両側から氷ごと押しつぶす。しばらくして大岩が消えた後には、ぺしゃんこになった植物のつると、石ころほどの大きさの氷が積み上がって出来た小さな丘があった。周りが安全とわかったことで、アルメーネとマリナも部屋の中に入り、ガルベナードに近寄る。先ほどの魔法の影響で、部屋の中はひんやりとした冷気で満たされている。


「心配するな。今回は俺も服も無事だ」

「そ、それなら安心しました……ではなくてッ!! せっかく襲いかかる魔物を振り払ったというのに、部屋が氷漬けになってしまったではありませんか! こんな状態ではマリナ様を寝泊まりさせることなんて出来ませんわ」

「俺はさっきお前が『魔王城が壊されたら困る』と言っていたから、なるべく被害が出ないように注意して魔物を倒しただけだ。とはいっても、奴が暴れたせいで部屋の調度品がいくつか壊れてしまったがな」

「……返す言葉もございません」


 先ほどのハプニングを切り抜けたガルベナードは、いつも通りの涼しい顔で部下に状況を報告する。一方のアルメーネは戦いで滅茶苦茶になった部屋の有様を見て、元凶となった魔王を叱るが、彼の正論によって黙らされてしまう。どうやら上司からの圧力に部下が弱いのは、人間も魔族も変わらないらしい。


「しかし現在使われていないすべての部屋に罠が仕掛けられてあるとするなら、この先も扉を開けるたびに危険に晒されることになる。それらの部屋紹介は一旦別の日に行うとしよう。それと城案内が一通り済んだら、マリナには客間で過ごしてもらうことにする」


 ガルベナードが顎に手を当て、話を続ける。彼の話を聞くマリナは、大人たちの難しい会話を傍で聞いている子供のような表情をしていた。


「あの……ガルベナード様の意見は分かったのですが、それだと紹介する場所が客間と食堂くらいしかなくなってしまいますわ。さすがに機密事項の多い執務室や地下施設、それにわたくし達の私室なんかを部外者にお見せする訳にもいきませんし、本当にこれで大丈夫なのでしょうか……?」

「執務室とプライベートルームは部屋の前まで連れて行けば十分だろう。あとは俺に任せておけ」


 ガルベナードはそう言うと「失礼するぞ」とマリナに近寄り、天井から降ってきた時と同じように彼女を抱きかかえる。そのまま彼は部屋の出窓に乗ってしゃがみ込み、片手で起用に鍵を開けて窓を開放する。

 と、次の瞬間、




「城の周囲を回るだけだ。そう長くはかからない」




 魔王は部下のほうを向いてそう言い残し、マリナを抱えたまま窓から翼を広げて城の外へと飛び去って行ってしまった。


「ガルベナード様!?」


 アルメーネが青ざめた表情で上司の名を呼ぶが、時すでに遅し。彼女は戦いで荒れた部屋にひとり残されてしまった。

(窓のそばまで行ったところでもしやと思いましたが、まさか本当にあそこから飛び立っていってしまうなんて……)


 しかも部屋の中には氷が積み上がって出来た山があり、これらを速やかに片付けないとやがて溶けて室内が水浸しになってしまう。アルメーネからすれば掃除は苦労のうちに入らないが、人手が減ってしまえば流石にやる気が削がれてしまう。


「はぁ……結局わたくしが凍った部屋の後始末をする羽目になるのですね……」

 アルメーネは独り言をつぶやきながら窓を閉めると、気乗りしない足取りで掃除用具を取りに倉庫へと向かうのだった。

読んで下さり有難うございます。

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