嘘でも愛の言葉を囁き続ければ、真実の愛になるかもしれない
「運命だと、おっしゃるのですね」
「すまない。君を傷つけたくはなかったが、自分の心に嘘はつけない」
「ソニア様は、クーデオ様のお気持ちをご存知なのでしょうか」
「まだ気持ちは伝えていないが通じ合っていると思う」
「……お話は承りました」
「すまない。お父上にはわたしから話す」
「それはソニア様のお気持ちを確認してからでも遅くはありません。お気になさらず」
※※
「知っていたのだな」
「ソニア様に相思相愛のかたがおられることは存じておりましたが、運命ならば結ばれることもあるでしょう。ですからお止めしませんでした」
「あやうく斬られるところだった」
「わたくしとの婚約はどうなさりますか」
「継続だ」
※※
「ここのところ運命のかたが現れませんね」
「君は……こんなろくでなしと婚姻しても不幸になるだけだと思わないのか? 捨てられるのが目に見えているではないか」
「わたくしは愛する心というものがよくわかりません。けれどクーデオ様の愚かなところは嘘がなく好ましいと思っております。共に過ごすことで愛する心とは何かを知ることができるのであれば不幸ではありません」
「君はそれでいいのか?」
「はい。わたくしが一人の者に興味を持つのは初めてですから」
「そうか。それなら興味を失うまで共に過ごしてみるか」
「はい。それでしたら一つだけわたくしの願いを叶えていただきたいのです」
「わたしにできることなら」
「願いは毎日愛の言葉を囁かせていただきたいのです」
「わたしから言われたいのではなく、君から言いたいと?」
「はい」
「理由は」
「嘘でも毎日愛を囁き続ければ、愛する心がわかるかもしれないと考えたのですがどうでしょう」
「……嘘でも、か。いいだろう好きにすればいい」
※※
「わたくしはクーデオ様を愛しております」
「な、なんだかむず痒いが言われて悪い気はしないな」
「愛しております」
「本当に毎日言うつもりか」
「愛しております」
「ああ。ありがとう」
「愛しております」
「ん。わたしもお前を気に入っている」
「愛しております」
「やめてもいいのだぞ」
「愛しております」
「そろそろ子を儲けるか」
「愛しております」
「お前には苦労をかけた。もういい」
「長い年月、君から愛の言葉を囁かれてさすがに心苦しい。今日はわたしから言わせてもらおう。
運命の相手……真実の愛はとうに見つけている。
ノアラ、わたしは君を愛している。
――はじめからずっとだ」
「はい」
「……驚かないのか」
「旦那様が運命の相手とおっしゃる女性は、既に他の者と結ばれているかたばかりでしたから。わたくしの気を引こうとしていたのですよね」
「始めからわかっていた?」
「はい」
「なんだ、わたしはただの道化ではないか」
「はい。見ていて飽きません」
「では君を楽しませた礼として、愛しております以外の愛の言葉を聞かせてはもらえないだろうか」
「承知いたしました。わたくしの正直な心をお伝えいたします」
「…………待て、やはり――」
「愛の言葉を囁き続けているうちに、旦那様の姿を見ただけで胸が高鳴るようになりました。今も初めての愛の言葉に心臓が早鐘のようでございます」
「……そうか」
「はい」
「久しぶりに別荘へ遠出したくなった」
「お供いたします」