反抗的な態度、とか言って、好き勝手したいだけですよね
レジーナ・ハピネスは、国を護る力を持つと語り継がれている、通称『国護りの聖女』である。
十歳の時その力が判明してから、レジーナは特別な少女として教育を受けてきた。そして、二十歳になった年、国王からの頼みで第一王子オラス・アベンチュリンと婚約した。国を護るために。
しかしオラスはレジーナに興味がなくて。
彼はいつももうすぐ妻となるレジーナを放置して、別の女性と遊んでいた。
オラスは自身が別の女性と関わりを持っていることを隠そうともしない。レジーナにも本当のことを話す。そういう意味では正直者と言えるかもしれないが、善良かというとそういうわけでもなかった。というのも、レジーナの気持ちは一切考えないのだ。
ある時、レジーナは「もう少しここにいてほしい」と訴えた。
それを反抗的と捉えたオラスは激怒し「レジーナとの婚約を破棄する」と言い出す。
周囲は何とかオラスを落ち着かせようとした。レジーナに去られてしまったら国の未来は分からない。それでは困る。多くの者はそう考えていた。けれどもオラスは自分の意思を貫き通す道を選んだ。彼は国より己を優先した。
「レジーナ・ハピネス! 不必要に反抗的な態度を取ったため、婚約破棄とする!」
オラスは公の場で宣言。
「もうお前は婚約者でも何でもない。出ていってくれ」
そう言って、オラスは城からレジーナを追い出した。
レジーナは何の抵抗もできぬまま城から出ていかなくてはならないこととなってしまった。
国民の間には、理不尽に婚約破棄を決めた王子への不信感が広がる。しかしオラスはまったく気にせず、女性と遊び続けた。国民の声なんて関係ない、国民が騒ぐくらい痛くも痒くもない、というくらいの認識で。オラスには迷いも後悔もなかった。
レジーナはというと、追放直後、一人の青年と知り合っていた。
彼の正体はレジーナには分からなかった。が、彼が「別の場所で生きたくないか?」と誘ってきたこともあり、レジーナは彼に同行することにした。そうして二人が向かったのは魔界。本当に『別の場所』であり、『別の世界』でもあった。
青年は実は魔界の王子。妻にできる者を探し旅していたとのことであった。レジーナと魔界の王子は共に過ごすうちに親しくなり、最終的に結ばれた。
レジーナはもう元いた国には戻らない。
けれどもそれで良かったのかもしれない。
……というのも、かつてレジーナがいた国はあの後凄まじい災難に見舞われ続けていたのである。
最初は災害が多発するようになった。これまではそんなに起こらなかったのに。しかしそれは気候変動の影響ということで片付けられた。聖女に酷い仕打ちをしたせいでは、と言う者も国民の中にはいたが、国は真剣に捉えなかった。
しかし、半年ほど経った頃から、王族の関係者に不幸が発生するようになってくる。
国王の父親が昨日まで元気だったにもかかわらず突然死、その妻も移動中の事故によって落命。数日後には何台もの馬車が絡む大事故によって国王の妹二人とその夫が死亡してしまう。また、健康であることだけが売りとまで言われていた王妃の両親が、共に、急な病によって他界した。
また、災害が多発したことによって家や職を失う国民がたくさん現れ、徐々に治安が悪くなる。
オラスの女であった女性の中にも、冷静さを欠いた一般人によって殺害される者が発生した。
この時、オラスは犯人探しに躍起になり、少しでも怪しいと思えば処刑するよう命じた。その結果、大量の冤罪が発生。多くの命が理不尽に奪われることとなる。
その事実に怒った国民は、みるみるうちに大きな集団となり、やがて王国そのものに牙を剥いた。
オラスの弟でもある第二王子は説得しようと民の前に出た瞬間に過激な人物によって腹を刺され、そのまま搬送される。一命は取り留めたが、その後は精神面で苦しみ、一日のほとんどをベッドの上で過ごすようになった。
当のオラスはというと、親しくしていた女性のうちの一人に毒を盛られ、そのまま死亡した。
その後、国王は国民たちによって作られた組織に拘束され、王国は滅んだ。
◆終わり◆