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目が覚めて起き上がるとシルキーさんとアリーシャさんが部屋にいた。
「あ、おはよう。リンちゃん」
「おはよう、リン!」
「おはようございます、おふたりは寝てないんですか?」
「狩りの後は中々寝付けなくてな」
「あぁ、昨日の地震…あれ魔物だったんですか…?」
寝ぼけ眼で訊ねると、アリーシャさんは頷き、懐をあさる。光に当たると虹色のツヤが見える、綺麗な鱗を見せてくれた。
「ヤマハミの鱗!」
「……!!! ……ほ、ほう…綺麗なウロコですね」
ヤマハミって、古の獣って言われてるレイド型討伐イベントだった気がするんですけどぉおお?!
驚かずに、知らないふりしなきゃ…
「4人で倒されたんですか…?」
「もちろんよぉ、全員で特攻すれば何とかなるのよぉ」
それはヨーチューバーがやるやつ…『レイド型クエスト、パーティだけでやってみた』とか、そんなタイトルついてるアレだよ…なんで生身でやってんだ…いや、ヤマハミが一般モンスターの可能性もある。
「しかし、ヤマハミは古の獣に分類されてるのに、よく出る気がするな…」
古でしたぁあぁあぁ!!!!!
「そうねぇ、今年になって3件目よねぇ」
結構出てます、古!!!
そう言いながら、彼女たちは朝支度を終えた私を連れて食堂へ行く。
「おはよう、リンディー」
「おはよ」
ゴルーダさんとモクレンさんが、卓について待っていた。
「おはようございます」
「さ、食べましょ食べましょ!」
シルキーさんが背中を押して椅子へ促す。
モクレンさんの隣に座り、空いていた私の隣はシルキーさんが座る。
テーブルの上にはドカドカと料理が乗っていく。
好きなように取って食べる、大皿ドーン! のスタイルのようだ。
なんかフカフカしてそうで、焼きたてな湯気が出ているパンを手に取った。
「いただきます」
パンを皿に置いて両手を合わせて、八百万の神・作ってくれた人たちへ感謝を伝え…などとは意識をしないが、その意味が篭った感謝の言葉を言い、いざ、フカフカぱん!!!
「あっふ……!!!!!」
焼きたてあちぃわ!!!!
「リンちゃん気をつけなきゃだめよぉ、ほらお水〜」
「あ、あひはほうほはいはふ…」
飲み物を受け取ってクイっと飲むと…酒じゃねぇか!!!
「ふごっ…これお酒じゃ!?」
「そうよぉ、命の水よぉ!」
飲兵衛のおじいちゃんみたいな事言わないでほしい…!
「リンディーは酒が飲めないのか?」
ゴルーダさんは首を傾げて、不思議なものを見る目のような眼差しを向けてくる。
「い、いや、飲めますけど、朝からは飲んだ事ないです…!」
「リン、子供」
モクレンさんがボソッと言う。
「27歳の子供って、物悲しいのでやめてください…」
「子供なリンには果実水」
モクレンさんがお酒の入ったジョッキを奪い、代わりに木のコップに入った果実水をくれた。
酒よりこっちの方がありがたい。
「ありがとうございます」
「あらぁ? モクレン、リンちゃんのお世話してるのぉ? 偉いわネェ」
シルキーさんがフワフワしだす。もともとフワッまでは、していたが浮遊感が増した。
フカフカパン食べてお腹がいっぱいになる。
毎朝パン1個とかだしね。
「リン、死ぬよ?」
「はい?」
「パンひとつしか…」
「あぁ、いつもこんなもんですよ。むしろこのパン大きいからけっこうお腹いっぱいです」
モクレンさんがビックリしている。
むしろ私の方がビックリだよ、その皿に山盛りに盛られた肉とパスタ…!
パスタで漫画盛りとか初めて見たわ。その線の細い体のどこに入るんだよ、ってくらい食うんだね…ハンターさんすげぇや。
「リンディー…本当にか? 遠慮してないか? もしかしてやはり心身の疲れが出てしまったか? 不安な事はすぐ…」
「これ以上食ったら、腹がはち切れると思います」
ゴルーダさんがめちゃくちゃ心配そうにする。あなた方の食べる量から見たら、私の食事量はとんでもなく少ないんだと思いますが、そこまで食えるかぁ!!!
突っ込まずに、普通の言葉を返せてる自分を褒めたい…!
「食事が終わったら出立しよう」
「ほい」「へーい」「はぁい」「はい」
ゴルーダさんの言葉にみんな返事をする。
食事が終わり、席を立つ。するとモクレンさんが手を繋いできた。
「迷子にならないように」
「子供じゃないと言いましたよね…てか歳なら1番上な感じですよ、私」
背が小さいからか子供扱いだ…
「不服!」
「順当」
「異議申し立てる…!」
「棄却」
手を引かれて町の外まで歩いて行く。
馬車はシンデレラに出てくるような馬車ではなく、RPGに出てくる幌馬車だ。デスヨネー、上は布ですよねー。
幌が開いてる後ろからアリーシャさんとシルキーさんはヒョイって飛び乗っている。
よじ登って行くしかない…と思ったらアリーシャさんが身を乗り出して、抱っこして馬車に入れてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「リンにはちょっとデカい馬車だから、気にするなよ!」
「……ぷぷっ」
後ろで笑うモクレンさん。解せぬ!
ヒラリと飛び乗ってくる姿が絵になる分、余計に何かが悔しい。
「……ぐぬぬ」
ゴルーダさんが馬をなんやらして、馬車は出発だ。