残しますか? ▶︎解約します
翌日、シルキーさんはハンターの集会所にて、同名のシルキーさんをスカウトしてきた。と言っても、まずお話をするそうで、チームハウスに連れてきたようだ。
応接間で詳しい説明をゴルーダさんから行うらしい。
私は紅茶を淹れて、応接室へ持っていく。
「失礼します」
「あぁ、リンディー。すまないな」
スカウトシルキーさんの前に紅茶を置いた後、ゴルーダさんの前、シルキーさんの前に紅茶を置いて、私の出番は終わりだ。
と、思ったら、スカウトシルキーさんから手首を掴まれる。
「へぁ?! なんですか?!」
変な声出た!
「おい、オレだ!」
スカウトシルキーさんが、フードを取って、その下に巻いてあるターバンを取ると、そこには、なんということでしょう! 前職場のマドンナ…じゃねぇ、イケメンが出てきたではありませんか。
「九石!?」
「やっぱり、――――か! ん? あれ?」
「おい、マジか。やっぱり、私の名前、言えなくなってるのか」
私は、名前を奪われた落ち人だ。
私の名前を知ってる人がいても、言えなかった。奪われた実感がわく。
「リンディー、一体なにが?」
ゴルーダさんが訊いてくる。そりゃそうだよね。
「ゴルーダさん、こいつ落ち人です! 私の知り合いです」
「いや、彼は髪が茶色だろう?」
は! そうか! こいつは、少しだけ髪を染めている。だから落ち人認定されなかったんだ!
「こいつ、毛を染めていたので、落ち人認定されなかったんですよ」
「そんなことがあるのか…」
とりあえず、いろいろ把握したい。
「とりあえず、九石、あんた一体いつ来たの?」
「あー、――――…お前が消えた7日後だよ」
名前が言えないので、お前になった。これは仕方ない。
「私は、どういう扱いに?」
「無断欠勤からの行方不明。電話も通じないし、ゲームでメッセ送っても反応がないから、即警察に連絡した。着信は無視しても、ゲームメッセを返信してこないなんて、何かあったに違いないって、先輩も言ってたしな」
仲間内での安定した、私への信頼感()よ…
「警察が防犯カメラを確認したら、会社付近のコンビニに入るところで、いきなり消えたらしい」
それにしても、即、動いてくれたのか…放置されてなくて、ちょっと嬉しいなぁ。ありがとう。
「マジか…父ちゃん、母ちゃん、心配してるかなぁ…色々ごめん…」
「あぁ、お前の親父さんとお袋さんは、行方不明になったって聞いて、家賃かかるからって、アパートの解約をサッとして、部屋にあった家具は、実家の倉に入れておくって言ってた。涙ひとつ流さずに事務的に片付けてたぞ」
「サバサバすぎじゃね?! 父ちゃんと母ちゃん! らしいっちゃ、らしいけどさっ!」
とりあえず、私の日本での扱いはわかった。
神隠しにあった的な、行方不明になっているそうだ。
「んで、さぁ。その人ら、やっぱり?」
九石が、ゴルーダさんとシルキーさんを見て、私に訊ねる。
「うん、ゴルーダさんと、シルキーさん」
「なんか、似てるって思ってたけど」
「でも、ちゃんと人格があるし、AIでもない、人間だよ」
「ってことは、やっぱりここは…」
「ケモハンの世界だよ。ピッピ先生もいるし、ヤマハミもいた。素材や装備しか見てないけど」
私は九石に、現状や私が把握している事を伝える。ゴルーダさんたちは、黙って見守ってくれている。
「落ち人って言われてるよ、私らのような異世界転移した人たちは。んで、何かを奪われてしまうらしいけど、あんたは何か無くなった…?」
「あぁ、電子機器がなくなった」
「は?」
「スマホと、スマートウォッチと、ゲーム機だけなくなってた」
その、3種を一気に無くす事はあり得ないので、おそらく奪われたものだろう。
「ふっっっっざけんなよ! 私は名前が奪われたのに、なんでお前は電子機器なんだよ!! こっちで生活するのにいらねーもんじゃんか!!!」
はい、八つ当たりです。
「それが本当なら、ラッキーと思うしかないけど。とりあえず、生きててよかったな、お互い。んで、お前もハンターしてるの?」
「はぁ? できるわけないじゃん! 紫外線アレルギーもバッチリ抱えてんだよ! チクショウ!! 生きててよかったは、同意する!」
普段とは全然違う私の言葉遣いに、ゴルーダさんとシルキーさんは顔を見合わせている。
「うあ、おつ……」
「解せぬ…!」
とりあえず、日本での私の扱いは把握したが、戻れないからもう気にしてない。
父ちゃん、母ちゃんは割と心配してなさそうだし、大丈夫だな! 家賃だけが気がかりだったから、解決していてよかった。
「すみません、ゴルーダさん。とりあえず、私の事は把握できたので、次、説明します」
「あ、ああ。大丈夫か? 故郷の事を思い出して、つらいなら俺らは待つぞ」
っかぁー! 何ですか、このイケメン紳士! いつも、いつでも気遣いの塊、ゴルーダさん! ついて行きます! 解雇しないでください。
じゃなくて、だ。私は大丈夫なので、話を続けよう。
「平気ですよ。んで先程申し上げましたが、この、偽シルキーは私の知り合いで、落ち人です」
「あぁ、そのようだな」
「私と違って、ハンターさんになれるくらい、丈夫で粗雑な奴です」
「粗雑かは定かではないが、リンディーの故郷の人で、丈夫な者もいるのか」
「むしろ、私は故郷でも割とへっぽこです。彼はごく一般的かつ健康な人間です」
ハンターできるくらいだから、九石は割と丈夫なんだろうな。
「そうか、落ち人の事も含めて話をしよう」
「お願いします。私は外しますね。お時間取らせてしまって申し訳ありませんでした」
「気にするな、リンディーに必要な時間だった」
「ありがとうございます。では」
「え、ちょ、――――!」
ゴルーダさんと軽く会話をして、私は九石を残して退出。
もともと、ゴルーダさんたちとの面接だし、邪魔者は立ち去るよ!
ドアを開けると、ムスッとしたモクレンさんが仁王立ちしてた。
めんどくせぇ予感しかしない。




