ターゲット ▶︎落ち人
「船は2日後に出るそうだ。客室が取れた」
「っし、それじゃ、いくつかこの街のクエストをやっておくか!」
時間潰しがクエストのようだ。
いや、ゲームだとそうだけど、リアルでもそうなんだ…。
「んじゃ、宿2泊で確定してくる! 宿は"ミミズとミミズク亭"よぉ!」
「お、ナイスだ、シル! あそこのメシうまいもんなぁ!!」
どうやらご飯がアタリの宿らしい。名前はいかがなものかと思うが。
荷物を持ってシルキーさんの後をゆっくり追う。
相変わらず私の保護者はモクレンさんだ。手を引かれる事に抗議するのも、めんどくさくなった。くそう、155センチが憎たらしい。
部屋に案内されると、全員一緒の部屋らしい。
3人くらい寝れそうな大きなベッドが2つ。男性陣と女性陣に分かれて寝ればいいとの事だ。
いつもの事で、慣れているのか、誰も何も言わないようだ。チームの居候である私は黙って従うだけだ。
「シルキー、流石にそれはリンディーが可哀想だ…」
あ、ゴルーダさんがシルキーさんに言った…この人めちゃくちゃ気遣いの塊だよなぁ…。でも可哀想ではないよ、問題はなしですよ、ゴルーダさん!
「何言ってんの! こうしなきゃ、リンちゃんと一緒に寝れないじゃない!」
え、そんなに気に入られる要素ないんだけど…。
「は? お前何言ってんだ?」
ゴルーダさんが呆れてる…と思ったらモクレンさんも苦い顔をしてるよ???
「リンを殺す気?」
はい? ナンデスト??
「お前ら2人寝相が悪すぎるだろうが…」
「多分リン絞殺される」
「え、いやです」
問題大アリだったわ。反射的に出てしまった。居候のくせに何で生意気な、と思われるかもしれないけど、死にたくないっっ!!!
「あー…確かにシルキーの寝相なら、リンをやってしまうかもなぁ」
アリーシャさん納得の何かが、シルキーさんの寝相にあるのか…
「何言ってんの! アリーシャだって寝返りしてあたしの肋骨折った事あるじゃないのよぉ!」
どうしよう、死にたくない。
モンスターじゃなくて、ハンターに狩られるとか洒落にならない。
「じゃあ、寝る時そこのソファ借ります!」
生命の安全を確保するんだ…!
ハンターさんたちは大きい人が多いのか、家具のサイズもかなり大きめだ。ソファでだって充分寝れる。
「ダメだ、それは」
「あ、すみません。じゃあ床で…」
ゴルーダさんに却下を食らったので反射的に答えてしまう。
「尚更ダメ」
モクレンさんから却下の追加を頂きました!
「…すみません、ベッドで寝て死にたくないんです」
命乞いをしてみると、それもそうだよなぁ、という顔で見合うゴルーダさんとモクレンさん。
「シルキーとアリーシャは床で寝ろ」
「だ、ダメですって! 体が資本の皆さんは、しっかり寝床で寝て下さい! 私は迷惑しか掛けてない居候の身なんですから!」
ゴルーダさんの言葉に食いついてしまった。私は間違った事言ってない!
「リンディー…何故そこまで拒むのだ?」
ゴルーダさんの眉が下がって悲しそうな顔してる…イケメンは絵になるなぁ…じゃねぇや、拒むってか、当然の事を言ってるだけなのに、私が泣かせたみたいな雰囲気! 泣いてないけど!
「あの、拒んでるわけでは…いや、死にたくないからベッドで寝るのは拒みます!」
「じゃあリンこっちで寝る」
モクレンさんが男性陣の寝床を指す。
「それはあかん」
疑問系じゃなく確定で言い切ったよ、この男。関西弁で突っ込んじゃうよ、思わず。
「ソファもだめ、床もダメなら、私野宿でもします…!」
と、言うや否や全員が突進してきた。ひぃいぃ! 死ぬ!!
伸びてきた手に捕まった私は、男性陣側に引き寄せられていた。
「ちょっとぉ! 寝相くらい気をつけるわよぉ! リンちゃん返して!」
「そうだ、リンはこっちだ!」
シルキーさんとアリーシャさんが猛抗議をしてくるが、申し訳ない、応援できない。
「リンの命は守る」
「リーダー権限でお前らはリンディーと寝る事を禁止する! それに寝相を気をつけれる訳がねぇだろ!」
「横暴だぁ!!」
「そうよぉ!」
これはアレか、私のために争わないで! か…初めての経験。こんなに嬉しくねぇものだったのか。
――ぐぅぅぅ…
誰かの腹の音が聞こえる。
「一旦保留で、まず腹ごしらえだ!」
「保留も何も決定項だ!」
「まずご飯食べるわよぉ!」
みんなで食堂に移動だ。確かご飯美味しいんだよな。
「あの、モクレンさん一つお伺いしてもいいですか?」
「なに?」
「自惚れかもしれませんが、シルキーさんとアリーシャさんに、かなり私気に入られてる気がするんです。でも、心当たりがないんですよ、気に入られる要素の」
「あいつら可愛いもの好き」
「尚更意味がわかりません…故郷で私は10人並みの普通顔ですし、こちらの方々と比べると平坦な顔ですし」
「リンは可愛い」
「……そうですか…。……アリガトウゴザイマス」
きっと美的感覚が異なるのだろうな…。
あと、このちっこさがきっと、何かにマッチしたんだろうな…。かなしい。
食堂の賑わい方はすごかった。宿の客以外も、ここのご飯目当てで来るほど美味しくて有名らしい。
「……え、何あの量…」
思わず口に出てしまうほどすごい山盛りいや、日本風に言うなれば"ギガ富士山盛り"的なやつだ。
大食いのタレントが挑戦するレベルだ。




