悲観的な姫君と天文学者
覗く目を望遠鏡から離し、生ぬるく濁った水を舌先で舐め、瞼の周りに疎らに広がった汗を拭い、また望遠鏡に顔を埋める。
「そんなに熱心に探したって、何も見つかりやしないのに。」
姉さんは雑誌を文字通り"雑"に斜め読みしながら、自らの頬杖を払って私に声を掛けた。私よりも短い髪が、私よりも綺麗に夜の影を反射している。
「はいはい、どうせあたしなんか構ってる暇はないんでしょう?わかっているわよ、昔からそうだもの貴女。…まるで違う星ね。貴女と、あたし。」
わざとらしく悪態をついてボソボソと、しかしはっきりと聞き取れる声量で軽口を叩く姉さん。否定出来ないわけではないが、言い返す隙はなかった。そもそも、彼女にとって否定や肯定が必要な問いではないのだろう。私は宙を観ているが、姉さんは今私を視ている。ただ、それだけの事なのだから。だとしても、やはり居心地は悪い。姉さんの言う通り、近くに居ながら違う星に存在しているみたいだ。私は地球から新たな小惑星を探す天文学者で、姉さんは滅びた地球を月から呆然と眺める、悲観的な姫君。だとしたら、私は一体何者なのだろう。