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8話 境地を見た

 ……私は境地を見た。

 それ故に、あの後、服屋でいったい何があったかを全く思い出せない。


「あー、楽しかったね、サクラちゃん!お店の人に採寸してもらえて、サクラちゃんにピッタリな可愛い服いっぱい試着もできたし、その中でも特にいい服もいっぱい買えたし、私も新しい服欲しくなっちゃたな。」

「……。」


 至った境地から、ほんの一瞬で俺を引き戻したよ、この人。折角、何もかもが皆、俺を恥ずかしさの果てに追いやるためだったとしか思えない時間を全て記憶から抹消出来たと思ったのに…

 でも境地に入ってた俺、心の中でも一人称でナチュラルに私を使ってたよな。うわ、怖っ!もう精神まで完全に飲まれてたじゃないか……


 まぁ、あの後の服屋で何があったかは今クロエが説明した通りだったな。

 店での採寸は、身長だけ測って終わりじゃなく、背中、胸、腰、尻に他にも色々な部位に、とにかく巻尺を巻きつけられたりして、もう何かともみくちゃにされた気分になっていると、あっという間に俺の採寸は終わった。そこは流石にプロといったところか……

 その結果、俺の体型は分かったが…もう、死んでも思い出したくない。俺の体型を思い出すと同時にあの辱めを嫌でも思い出してしまうから、絶対やだ。


 その後の俺は、もう完全にクロエの着せ替え人形と化していた。着替えなきゃ試着室から出してくれない感じまでしたので、言われるがままに着替える羽目になった。

 そうなってくると女装をさせられている事より、着替える時に試着室の鏡のせいで、今の俺の体が嫌でも見えてしまい、すごく恥ずかしくなってくる感覚の方が嫌だった。


「ご、ごめんね、サクラちゃん。私、凄く気分が上がっちゃって……サクラちゃんの服の好みもあったのに、嫌だったわよね……」

 俺の中で、あの時間が勝手に蘇って、勝手に恥ずかしくなっていると、俺は暗い顔になっていたのか、クロエが謝ってきた。

「いえ、別に……結局服もクロエさんが買ってくれましたし……」

 ……正直、女性用下着コーナーに行くのはマジで嫌だったし、採寸なんて最早拷問だった。けれども、女性用下着も今後絶対必要ではあるし、服も今の俺に似合う物を選んでくれたのは、正直自分で選んだ物よりセンスがあると思う。


 今着ている服も、クロエが選んでくれた白地のシャツに、若葉色のコートと、ミントカラーのプリーツスカートになった。店員やクロエは似合ってると褒めてくれたが、社交辞令だろうし実際は、分からない。けど、流石にネグリジェもどきワンピースで歩き回るほうが恥ずかしいから着替えて出歩く抵抗感はまだマシだ。

 それに、その中で、買うことになった服代は

全額出してくれた。着せ替え人形にして、遊んで満足したらその後放置、なんて事はしないところからクロエの誠実さが窺える。


「なぁ、サクラ。クロエの事、許してやってくれないか?」

「はい……?」

 ここで服屋でクロエから、女の子の買い物の邪魔をしないでよね。と言われて、素直に待っていてくれたアランが口を開いた。

「クロエのやつ、ここ最近ずっと忙しくてな。結構、久しぶりの買い物だったはずだ。それに、ずっと友達にも会えない日々も続いてた。そこでかわいい女友達みたいで、更にその上妹みたいなサクラの登場だ。それでつい少し気合が空回りしただけで、サクラで遊ぼうとかそういう悪気はなかったと思う。それでもまだ許せないか?」

「いえ、そういう事でしたら……私も助かった所はたくさんありましたし。」

「だってよ、クロエ。」

「本当に!ありがとう、サクラちゃん!それにアランも。」

「いえ。それに、私の為に服を選んでくれたんですよね?服まで買ってもらったのに自分勝手でした。ごめんなさい。」

「よし、これでこの件はもう終わりだな。買い物ももういいだろ。ならそろそろ学園に向かうか。」


 アランの一言で空気も戻り、俺達は今度こそスペラルーチェ学園へ向かって歩き始めた。

 でもアランも買い物の時はクロエに押されまくっているのを見て、頼りないのかと思っていたが、周りの人の事よく見ているし、喧嘩とかの仲裁とかも出来るんだな。

 今も、さっき回った色々な店で買った荷物も、大半はアランが持ってくれていた。

 意外とそういった事って中々誰でも出来る事じゃないよなぁ。


 その後、街を出るまでには大した事は起こらなかった。何も起こらないというのはそれはそれでありがたいことだ。

 そして、俺達はそのまま街道に出て、少しの間街道を歩いていくとあっという間に、西洋の城か何かのような外見の建物と、その側にも大きな建物は幾つかもある。

「着いたよ。ここがスペラルーチェ学園。いつ来ても相変わらずおっきいわよね。私達も昔はここに通ってたの。」

「そうなんですね。でも、これは……圧巻です。」

 ここは、二人の母校でもあるのか。でも、これが小学校って……下手な大学の敷地よりは大きいまであるぞ、ここ。

「そうだな。確かに懐かしいが、とりあえずは中に入ろう。詳しい手続きは終わってるみたいだけど、何もしないで入れる訳じゃないからな。とりあえず受付に行くか。」


 そして、俺はこの世界の新たな俺の居場所へと、一歩踏み出した。

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